27.ホームズ一家
「なるほどな。だから生き物が中に発生してしまったのだろう」
「そんなことってあるんですか?」
「中に生き物がいるのならそうなのだろう。どんな奴がいるか気になるから取り出してくれ」
「え~。何か分からないから怖いんですけど……」
「ウェスパルが錬金術で作ったのだからウェスパルに危害を加えることはない。我ならどんな奴が来ても身を守れる」
遅くなりそうだったので、亀吉と亀蔵は両親に任せてある。ルクスさんなら飛んで逃げられるし、安全確認をするなら今なのかも知れない。
先送りにしても仕方ないので、腹をくくることにした。
「分かりました。いきますよ?」
「いつでもいいぞ」
ルクスさんはコクリと頷く。
意を決してもう一度手を突っ込む。ガッツリ肩付近まで入れ、がさごそと。
すると何かが私の手を掴んだ。明らかに人の手のようなもの。一体何が入っているのか。
せめて人型であって。手だけとか絶対に嫌だ。アトリエが犯行現場になってしまう。
「引きます!」
宣言し、一気に引き上げた。
すると私の手には何者かの手が繋がれており、そこから腕と肩と頭と出てくる。
そして出てきたのは全く見覚えのない男性だった。
妙に軽いのにお父様よりも大きい。
「なんで!?」
どうやって入っていたのかが完全に謎である。
それに人間に見えても錬金アイテムから出てきたのだ。
人ではない。では何かと言えば分からない。謎に包まれている。
「あの、あなたは何ですか?」
試しに話しかけてみると、バッグから出ている方の手で何やらジェスチャーを始める。
身体の前で手をクイクイと引っ張っている。
「ほむほむ」
「えっと引っ張れってこと?」
「ほむう!」
なぜかほむほむと言っている。
亀蔵と亀吉がかめと鳴くのと似たようなものなのか。
だけどほむって何?!
突っ込みどころは満載だが、先ほどからずっと手を動かしている。引っ張ってくれということだろう。
「引き上げてやれ」
「ルクスさんまで……。ああ、もう分かりましたよ!」
嫌な予感しかしないのだが、ここで引き下がることも出来ない。
男性の手を引き上げると、これまた手が繋がれている。
まだ中に残っているらしい。手首だけとかではないのは目の前の彼で判明しているので、ずるずると引っ張っていく。
すると今度は女性が出てきた。
それもまたバッグに手を突っ込んだ状態で。
ずるずるずるずるずるずるずるずる。
人の手を引っ張り続け、最終的に七人が出てきた。
子ども四人に、身体の柔らかそうなおじさんと、年齢不詳の男女。
年齢不詳の男女はともかく、子どもとおじさんか……。
行儀良く並んでいる人達をよく観察する。
髪色も瞳の色も違い、顔は全く似ていない。規則性がまるでない。
けれど私だけが彼らがどんなイメージで生み出されたのかを理解している。
芸人さんとサーカスと鞄に入れそうな子ども。
そう、彼らが生まれたのはまさしく自分のせいだと理解した。
「すみません、ルクスさん。私のイメージが悪かったみたいです」
途中で想像していた人達が出てきてしまったのだ。
なぜかほむほむと言っているが。
おそらくイメージが中途半端であったせいで会話が出来ないのだろう。
想像した顔とも違う。皆、どことなく西洋風の顔立ちだ。見た目こそ世界観にはあっているが、それだけだ。
けれどルクスさんの顔は明るい。にやっと笑っている。
「ウェスパル、よくやった」
「え、でも人間が入るバッグなんて」
「こいつらはホムンクルスだ。不完全とはいえ、七体も作るとはな」
「へ?」
ホムンクルス? 彼らが?
ホムンクルスといえば確か錬金術で作ることが出来る人造人間のことである。
私もいつかは作ってみたいなとは思っていた。思ってはいたが、さすがにバッグから出てくるのは想定外だ。
それにこんなに簡単に作れるなんて……。
ルクスさんだって難しいものだと言っていたはずだ。
「ホムンクルスって錬金術師の、叡智の結晶って認識で合ってます?」
「ああ。こんな偶然で作れるようなものではない」
「材料、バッグの分しか入れてないんですけど……」
バッグはすでに出来上がっているので、残ったものといえば魔結晶とバッグを作る際に残ったものくらい。あとは錬金釜に満たした水と魔法。彼らはそれで出来ているということになる。
「えぇ」
アイテムバッグのつもりがホムンクルスバッグになってしまった。
ホムンクルスバッグって何だと言う話だが、私もよく分からない。
私が作ったのは中に入れるためのバッグであり、中から何かが出てくるバッグではないのだ。
「これ、時間を置いたらまた中でホムンクルスが出来るとかないですよね?」
「わからん」
「……アイテムバッグとして使うのはやめよう。とりあえずお父様起こしてきます」
とりあえず、王子が留守の時で良かった。いたら絶対に騒ぎになる。
お兄様はともかく、両親は驚きそうだ。それでも生まれてしまったものは仕方ない。
見た目が完全に人間なので、もう一度入れて確かめるなんて非人道的なことはできない。
ホムンクルスそのものが伝わるかだけが心配だが、亀蔵と亀吉の仲間だと説明すればいいだろう。
家に戻り、すでに寝ていた両親とお兄様を起こす。
そしてホムンクルス達を紹介する。
ちなみに亀蔵と亀吉は眠っており、シロはハウスでアカは小屋の中。彼らへの紹介は明日に回すことにした。
「まさかホムンクルスを作るなんて……」
「さすがはウェスパル凄いなぁ」
「凄いとかそういう話じゃないだろう……。人だぞ」
両親は頭を抱え、お兄様は楽しそうに笑った。
なんというか想像通りの反応だ。
「まぁ出来てしまったものはしょうがない。シルヴェスターの領民ということにしよう」
「名前はどうするのだ?」
「名前?」
「種族としては亀蔵・亀吉と似たようなものだ。名前は必要だ。といってもこやつらは一個の存在。まとめてで構わんぞ」
「えっと、ホムンクルス、ホムンクルス、ホムン、ホムス……ホームズ! ホームズ一家で!」
七人が揃って「ほむ!」と声を上げる。気に入ってくれたようだ。
彼らは他国から来た家族という設定で、空いている家で生活してもらうこととなった。
全員髪色も瞳の色も顔つきも違うのだが、家族は血の繋がった人達だけを指す言葉ではない。シルヴェスターに住むものなら分かってくれるはずだ。
ちなみに食べ物は亀蔵・亀吉と同じく、何でも食べられるが、基本的には魔石と魔結晶でいいらしい。
コミュニケーションも取れるので、彼らもまた芋畑のお世話係に決定した。
しかも全員よく働く。今年の芋掘りも安泰である。
ルクスさんはほくほくとした表情で眠りにつくのだった。




