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17.反省したわんわんからのギフト

 土地は広ければ広いほど良いということで、屋敷からは少し離れたスカビオ領側の土地を用意した。


 ここからここまで、と木の棒で印を付ける。するとシロは枠を確認してから、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。シロが飛んだ場所を中心に、強く発光していく。屋敷の周りを駆けていた時はこんなことはなかった。何をするつもりなのか全く予想がつかない。


 満遍なく光を広げた後で、シロは地面を掘り始めた。


 土の中にギフトがあるらしい。

 だが特定の何かを掘り当てるのであれば、シロ本人が場所を指定するはずだ。どこでも良くて、広ければ広いほど良い贈り物ってなんだろう?


 疑問に思いながらしばらくシロを眺める。

 するとシロが掘った場所から少しずつ水が出てくる。このあたりに水源があったのか、はたまたシロが幻獣の力で発生させたのか。



 シロからの贈り物は池だったらしい。

 確かに地域によっては水は貴重だ。だが我が領にとってはあまり……。魔獣達の水浴びの場所となるくらいだ。



 もしや自分の水浴び場を確保するために!?

 だとすればかなりの策士である。


 お父様は「亀蔵と亀吉を連れてきたら喜ぶぞ」と今から水浴び計画を立てている。そんな中でルクスさんだけが目を丸くして驚いている。



「どうかしたんですか?」

「幻獣の力がここまで強いとは……。認識を改めねばならんな」

「え、そんなに水出すのって難易度高いんですか?」

「ただの水ではない。これは」

「温泉です!」


 ルクスさんの言葉を遮るように、シロがひょっこりと顔を出した。


 真っ白い毛は土と水ですっかりと汚れている。

 だがお目当ての物を掘り当てられた彼の顔はどこか誇らしげである。


「温泉?」

「お湯加減を確認してみてください」


 そう言われておずおずと水に触れる。お風呂に使っているものよりも少し熱めである。


「ああ、いい湯加減だ」

「我好みの少し熱めのお湯だな」


 これが、ギフト。

 なんか花咲か爺さんみたいだな……。


 有名なここ掘れワンワンのシーンである。

 おじいさんではなく犬が掘っているし、出てきたのは金貨ではなく温泉だけど、嬉しい贈り物だ。


「まだ掘り進めますので、もう少しお待ちください」

「ちょっと待って。温泉なら囲いを作らないと! それから温泉小屋も欲しい」

「あ、ああ。そうだな。シロ、少し待っていてもらえるか?」

「はい!」


 そこから龍舎を作っている領民達を呼んで、急いで囲いを作ってもらう。

 そしてその中をシロが堀り、周りが崩れないように亀蔵と亀吉ががっちりと固めてくれた。


 温泉本体だけではなく、周りにも目隠しの囲いと着替えるための小屋も作ってもらった。


 完成し、真っ先に私とルクスさんが浸かる。

 私達が小屋で涼んでいる間に、お父様とお母様、お兄様と続いて入っていく。


 そしてほかほかになって出てきたお父様は頭を抱えていた。


「屋敷の近くにすれば良かった……」

 ギフトが何か分からなかった以上、後悔しても仕方のないことだ。


 それに屋敷から離れていたからこそ、かなり広い温泉が出来た。

 普段使いするには不便だが、たまの楽しみとして割り切るしかないだろう。



 温泉は掘り当てたシロの名前を取って『シロ温泉』と名付けた。

 大きな温泉は男湯と女湯、プライベート湯の三種に分けた。私達家族が入るのはプライベートの方だ。



 領民達にも開放すれば、瞬く間に人気となった。

 なんでも仕事の後に入ると体力が回復するし、傷の治りも早くなるのだとか。


 RPGに出てくるHP回復の泉みたいだな~なんて思いながら、私とルクスさんも数日に一回のペースで通っている。


 距離は離れているが、自動車があるので大変ではない。

 お母様からも度々貸して欲しいと言われるようになったので、似たようなものをもう一台作ることにした。


 だが誰よりも気に入ったのは私達家族ではなく、サルガス王子である。

 婚約者に会いに来る頻度よりも温泉に入りに来る頻度が高い。ほぼ毎日来ているのではなかろうか。男湯の常連となっている。


「サルガス王子、温泉大好きですよね」

「疲れは取れるし、考え事をするのにも良い。なんとかこの湯を王都に運べないだろうか」

「さすがにそれはちょっと難しいと思いますよ」

「成分が似た入浴剤でも良い! マーシャルとばあやにも体験して欲しいんだ……。ということで源泉のサンプルをもらえないか?」

「王子はすっかり変わりましたよね」


 社交界で馴染めているのか、少し心配になってくる。


 普通の王子様は、ないなら自分で作ろうとは思わない。

 精々人に作らせようという考えに行き着くと思う。目の前にいる私は錬金術が使えるのだから、頼ろうなんて考えがあってもおかしくない。


 なのに、サルガス王子は「香りを付けても良いと思うんだ。どの花を使おう……」と真面目に考え込んでいる。


「何か言ったか?」

「いえ、何も。後で採取したものを届けますね」

「感謝する」


 まぁいいか。私は今のサルガス王子の方が好きだし。ギュンタやスカビオ家の人達だってそのはず。


 シルヴェスターに移住するにも前の王子様然とした態度より今の方が受け入れられるはずだ。


 それに入浴剤作りだって、スカビオ領から離れる寂しさを紛らわせるためというのもあるのだろう。


 サルガス王子は本当にスカビオ領が大好きだから。

 卒業後に本当にシルヴェスターに越してくるのかも怪しい物である。


 もちろん、私としては通いでも全然構わないのだが。


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