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16.錬金釜に突っ込むぞ

 シルヴェスターの領民は適応が早い。

 スカビオ家とファドゥール家にも挨拶を済ませたアカを見た数日後にはすっかり慣れたようだ。お祖父様から事情説明があったのも大きいのだろう。


 今はお兄様と協力して龍舎と犬小屋を作っている。


 アカにもシロと同じハウスがあるようだが、あまり好きではないようだ。


 そんなアカのために龍舎を作るという話になった時、シロも家が欲しいと言い出したので隣に犬小屋を建てることになった。


 龍舎と犬小屋が出来るまで、アカは領民達との会話を楽しんでいる。


 なんでもお兄様と会うまではとある国の谷底に暮らしていたらしい。たまにやってくる同族や冒険者と戦うのだけが楽しみだったらしく、王都に来てから様々なことを知ったらしい。


 それから人との会話や読書を楽しむようになったそうだ。

 領内で一番仲が良いのは亀蔵である。初めは怖がっていた亀吉も、接していくうちに打ち解けたようで、亀蔵と一緒にアカの元に通っている。


 丁寧な挨拶といい、アカはかなり知的なタイプのドラゴンさんらしい。


 またルクスさんのことは『龍神様』として信仰しているようだ。ルクスさんがそう呼ばれることを嫌がるので、その名前を口にしたのは一回きり。


 けれど彼の目からは尊敬の念が溢れ出ている。

 ただのミニドラゴンとして過ごしてきたルクスさんにとって、アカからの尊敬は居心地が悪いようだ。


 最近は一人で飛ぶことが増えていたのに、また抱っこ生活に逆戻りである。


 一方で、シロは野生味全開で領地を駆けている。


 大きな身体のシロには王都は狭かったのだろう。だが本能全開でいろんな場所を掘り起こすのは止めて欲しい。


 亀蔵と亀吉が直してくれるとはいえ、畑のところを掘らないかとヒヤヒヤする。何より、ルクスさんが苛立っている。


「あやつは芋へのリスペクトが足りない」

「フェンリルなら多少焼いたところですぐに治るだろう」


 そんな物騒なことを呟いている。

 だがここでシロを止めればストレスになる。


 龍舎と犬小屋作りもかなりのハイスピードで進められており、完成すればお兄様が荒野まで連れて行ってくれることになっている。


「もう少しの辛抱ですからね」

 おやつや牛乳を増やしてなんとか宥めていたのだが、シロが畑を踏んだことで限界が来たようだ。


 小屋から飛び出して、シロの元へと飛んでいった。

 そして大きく空気を吸い込み、シロをこんがりと焼き始めた。だがシロもされるがままという訳ではない。すぐに臨戦態勢を取った。



 ーー芋畑の上で。



「こらああああ! そこをどこだと思っているの! すぐに畑の外に出なさい!」


 ルクスさんも冷静さを失っている。大事な芋を焼くつもりか。


 亀蔵と亀吉と共にアカの元にいたお父様はすぐに気付いたようで、こちらを見てふるふると首を横に振っている。下手に刺激するなと言いたいのだろう。


 だがここで放置すれば、被害は拡大する。ルクスさんだって絶対後悔するはずなのだ。


 畑まで駆け寄るとシロとルクスさんにギロリと睨まれる。


 だが私は屈しない。

 意図していなかったにしても邪神の封印を解いた女を舐めないで欲しい。キッと睨み返し、堂々と宣言する。


「これ以上戦うようなら、今後芋はなし! 犬小屋も材料保管庫にするけどいいのね!?」

「なんだと!? 悪いのはこの犬っころだ!」

「ルクスさんだって畑の真上でブレスしたでしょ! 同罪です」

「ふん、誇り高きフェンリルが小娘の言うことなど聞くと思っているのか」


 シロはドヤ顔でそう言い切った。

 こちらを格下だと思っているのだろう。見える範囲にお兄様がいないからか、かなり調子に乗っている。


 やはり犬科というものは、上下関係をしっかりとさせておく必要があるらしい。


「言うこと聞かないと頭から錬金釜に突っ込むぞ」


 私だって二年前のままじゃない。魔法も剣も強くなった。

 わんこ一匹気絶させてから釜に入れるくらい難しくはない。


 低い声で脅し文句を吐いてから「やるか?」と指をポキポキ鳴らす。

 そこまでしてシロはようやく自分の立たされた状況を理解したらしい。


「……くうん」

「すまなかった……」

「分かればいいんです。分かれば」


 誇り高きフェンリルさんでも錬金釜は怖かったらしい。耳も尻尾も垂れてしまった。


 だが許したのはあくまで私だけ。

 騒ぎに気付いたらしいお兄様は「ウェスパルに喧嘩を売ったんだってな?」とひどくご立腹である。シロはすぐさまお腹を見せて降参のポーズを取るが、時すでに遅し。


 首根っこを掴まれ、ずるずると引きずられるように回収されていった。


 それから一晩かけてこってりと絞られることとなった。

 自業自得である。



「ウェスパル様。昨日はご無礼を致しました……」

 翌日、シロはわざわざ小屋まで謝罪にやってきた。

 奥に見える釜が怖いのか、お兄様が怖かったのか、ビクビクと震えている。


「反省してくれれば私はそれで」

「それでは私の気が収まりません。是非、ウェスパル様には幻獣の力を使ったギフトをお渡ししたく」

「ふむ、ギフトか」

「ギフト? 祝福みたいなもの?」

「すでにルクス様の寵愛を受けていらっしゃるウェスパル様に祝福などとはとんでもない。ギフトは私からの貢ぎ物のようなものです。つきましては、少し土地を頂きたく」


 寵愛はともかく、貢ぎ物をくれるというならもらっておきたい。

 もちろん変なものでなければ、という条件は付くが。


 だが土地が必要となると、それはお父様の管轄である。


「ちょっとお父様と相談してくるから待っていてね」

「……外でお待ちしていても?」

「うん、分かるところにいてくれればいいから」


 釜も怖いらしい。シロは小屋から出ると小さく息を吐いた。


 彼を残してルクスさんと共にお父様の元へと向かう。

 今日は朝から亀蔵と亀吉と共に畑の整備に向かっていたはずだ。昨日荒らされた場所を戻すついでに他も見て回るのだという。


 少し歩けばお父様の姿があった。


「お父様。少しお時間いいですか?」

「どうかしたのか?」

「実はシロがギフトを渡したいから土地が欲しいと言っていまして」

「ギフトだと!?」

「そんなに驚くものなのですか?」

「ギフトは神かそれに近しい存在のみが与えることが出来る特別な贈り物だ。シロは一体何をするつもりなんだ……」

「分かりませんが、空いている土地があれば使用許可を頂きたいなと思いまして」

「ああ、もちろんだ。私も同席する」


 謝罪の品としてポンポン与えられるような物ではない、と言ったところだろうか。


 まぁもらえるならもらっておこう。

 今耕している部分が終わった後で、亀蔵と亀吉を他の領民に託す。


 お父様は私達と一緒に、シロの待つ小屋へと戻ることとなった。


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