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13.なぞの祠

「な~んか なんか なんか なんかないかな~

 南~下 南下 南下 南南西~」


 陽気な歌を歌いながら、車を走らせる。

 あれからバギーの調整を繰り返し、荷台も設置した。


 亀蔵と亀吉には仲良くハウスの中に入ってもらい、お父様とルクスさんを乗せながら調整を繰り返す。


 漏斗からタイヤに繋がるコード部分を見直したところ、早さもそこそこ出せるようになった。


 畑沿いだけではなく、荒野に出て魔物討伐もした。

 初めの数回はお父様も同行してくれたが、これならいざという時に台車を置き去りにすれば逃げ切れるだろうということで、単独での魔物討伐の許可も得た。



 ということで私達は今、魔石確保のために荒野を走っている。

 亀吉の魔物討伐研修も兼ねている。


 ザクザクと狩っては、魔物の死骸を荷台に乗せる。

 お散歩が終わった後に出て、お昼を少し過ぎたあたりで帰ってくる。


 ご飯を食べた後は、お父様にも協力してもらって皮を剥いだり、魔石を取り出したり。

 これらを売ったお金は錬金術の素材を買うお金に使ってもらうことにした。



「今日は全然魔物がいませんね」

「ここ最近毎日来ているからな。亀吉も随分と強くなった」

「かめえ!」


 亀蔵と亀吉は車に乗りながらの攻撃にも随分となれ、精度も威力も上がっている。

 おかげで私は攻撃する暇もなく、ハンドル操作をしながら風魔法で魔物の死骸を荷台に乗せるのばかりが上手くなる。


 ルクスさんはそれらがちゃんと絶命しているのかチェックする係である。

 息があるようなら、とどめを刺す。


 これがシルヴェスター車両の連携プレーである。


「今日はもう少し奥まで行ってみましょうか」

「あまり進むと領主に怒られるぞ」

「ヤバそうだったらすぐに逃げるから大丈夫ですよ~」


 そう言いながら奥地へと向かっていく。

 お父様達ですらほとんど入ることのないエリアまで到達すると、次第に空が明るくなっていく。


 ゴーンゴーンっと鐘の音が響き、ようやく入ってはいけないところまで来たことに気付いた。


 だがハンドル操作が効かない。ブレーキも先ほどからずっと踏んでいるのに、車は加速するばかり。


「ウェスパル、速度を上げすぎだぞ」

「鐘の音が聞こえてから操作が効かないんです!」

「鐘の音なんて聞こえたか?」

「かめえ?」

「かめかめ」

「ええ? 結構大きな音でしたよ!?」

「そんな音、していないが……」


 あんな音聞き逃すはずがない。


 もしかして人間の耳にだけ聞こえる特別な音とか?


 確か子どもには聞こえるけれど、大人には聞こえない音域があったはずだ。それの人間と他種族バージョンみたいな――なんて、冷静に考えている場合じゃない。


「早く離脱しないと!」

「そうはいっても車がなければ帰れない。それに、ウェスパルが操作をしていないというのなら、この車はどこに向かっているのだ?」

「それは……」

「ならこのまま待つとしよう。無理に降りるより、魔力が切れて止まるのを待った方が良い」

「そんな悠長な……」

「問題ない。我が付いている」


 ルクスさんの言葉にすうっと恐怖が消えていく。

 ルクスさんがいるなら大丈夫か、という気がしてくるのだから不思議なものだ。


 ハンドルから手を離し、身を任せる。抵抗するのを止めたからか、車の速度は少しだけ落ちた。まるで車自体が意思を持っているようだ。


 後ろを確認したが、亀蔵も亀吉も無事だった。良い子に待機している。


「帰りが遅くなったら、一緒に怒られてくださいね」

「ウェスパルが進みすぎたのが悪い」

「ええ~」


 いつも通り話していると、車は山に向かって進み始めた。

 このままぶつかる。そう思った時、再び大きな鐘の音がした。


 直後、山には大きな穴がぽっかりと開いた。切り口は綺麗なものだ。人工的に開けられたのだろう。


 鐘の音は何らかの魔法が発生するタイミングで鳴っている?


 洞窟の中に入ってからは速度が徐々に緩やかになる。そして突き当たりまで進んでようやくピタリと止まった。


「これは……」


 空洞となったその場所には大きなドラゴンの石像があった。

 大きさは違うが、その見た目はルクスさんによく似ている。ドラゴンの足下には『龍神 ルシファー像』と書かれている。


 ここはただの洞窟ではなく、ルクスさんを祀る祠のような場所だったのか。

 それにしても大きい。ルクスさんが封印される前に作られたのだろうか。


 これを見ただけでも、当時のルクスさんに集まっていた信仰がどれほどかを察することが出来る。


 だが邪神ルシファー像があるなんて、前世でも今世でも聞いたことがない。

 イザラクルートで神についてはかなり深掘りされていたが、これについては触れられていなかった。


 多分知らなかったのだろう。

 居住区からかなり離れているため、今まで誰も気付かずともおかしくはない。


 おそらくあの鐘の音もここに辿り着くための鍵の役割を示していたのだろう。

 あの音は私達を、いや、ルクスさんをこの場所に導いたのだ。


 だが、何のために?

 ルクスさんに聞いてみようと振り返れば、ルクスさんは像を見上げたままつうっと涙を流していた。


 何か思うところがあるのかもしれない。だがそれを聞くのは憚られた。


 ルクスさんが満足するまで祠で過ごし、車に乗り込めば、行きと同じく勝手に動き出した。


 かなりの距離を走っているはずなのに、追加の魔力を必要とすることなく、そのまま屋敷の近くまで進んだ。



 屋敷に着いた頃にはすでに昼どころかおやつを過ぎていて、お父様にこってりと絞られたのは言うまでもないだろう。


 祠を出てすぐにルクスさんから「このことを黙っていて欲しい」と言われたので事情説明することも出来ぬまま、一ヶ月バギー禁止を受け入れるのだった。


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