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ティア・ウェネーフ視点 不覚!!

私は盗賊たちに背を向け走り出す。そして前方に魔力による柱を作り、柱を駆け上り跳躍、宙返りして下を見る。逃げ出したと思った私を追いかけそして空中に浮かぶ私をポカンッとした顔で見ている盗賊たちの姿が見える。

(その間抜け面……驚愕に染めろっ!!)

腹ばいに急降下し盗賊の一人を圧殺した。威力はそ戸で留まる事なく地面にめり込みそこを中心に広範囲に亀裂が入った。その範囲にはリゼルさんがいる馬車の方にも及び少し傾いていた。

「あっちゃあ……やりすぎた」

私は片目をつぶり舌を出しコツンと頭を叩いた。体は砂ぼこりで汚れてしまったがそれ以外表立った外傷はない、流石は<歩く教会>、自分が身に纏う修道服を内心褒めた。

(技はともかくこの規格外の防御力は<歩く教会>の賜物だね)

盗賊たちは私のフライング・ボディー・プレスに怯んでいたものの闘志を失っておらず再び私に向かってくる。

「へえ~……私の力を見ても逃げ出さない何て素直に感心はするけどそれだけの心の強さがあるんなら……盗賊なんてやらないでくださいっ!!」

私が盗賊に向かって動こうとするがその前に包囲されジリジリと距離を詰めてくる。そして持っている武器が届く距離になった所で武器が振り下ろされる。私はあえて真正面にいる盗賊に体当たり気味に突っ込み武器の間合いを殺す。そして体を低くして盗賊の腕の下をくぐり右手で盗賊の右足を掴む。盗賊を肩に担ぎ持ち上げ反対側に投げつけ包囲網から脱出、距離を取った。ちなみに勢いがついた状態で地面に叩きつけられ盗賊は受け身すら取れず血を吐いて絶命している。驚異的な魔力量、それに伴う身体強化、更には卓越した体術、この三本柱に支えられた私はまさに無敵だった。

「さあ……まだ来ますか? 逃げるなら追いませんが……」

私は盗賊らを睨みながら問う。これ以上戦うのは割に合わないと判断して引いてくれると助かる。この程度の相手なら楽勝で勝てるのだが時間の無駄でしかない。早く終われるのならそれに越したことはない。盗賊たちもリターンよりもリスクを重視し後退り逃げ出そうとしていたのだがある人物の一言でそれが出来なくなった。

「面白そうな奴と戦ってるな……」

その人物は盗賊らの後ろから突然現れた。後ろには誰もいなかった、<歩く教会>による身体強化により五感も強化されていたというのにそれでも気が付かなかった。転移魔法でも使われたと思われるぐらい突然現れた。盗賊らよりも頭一つ、いや二つ大きい巨体。過度な筋肉がついていない効率的に鍛えられた肉体。これだけでも厄介な相手だと思ったが私が一番ヤバいと思ったのは相手の表情だった。

(あ、この男……大悪党だ)

私は一目見てそう思った。野武士を思わせる風貌に浮かぶゲヒた笑い。これは人の上前を撥ねようとする詐欺師の笑いだ。私はいっそう警戒を深める。

「あなた……誰ですか? この人達の仲間なら何も言わず立ち去ってくれませんかねえ。これ以上時間を割かれるのは困るので」

「ただの一般人を襲うのに時間がかかってると思ったら……こんな面白そうな奴とやり合ってるんだ。俺とも少し遊ぼうや」

突然現れた大男は背中に担いていた大きな曲刀を黒塗りの鞘ごと抜き切っ先をこちらに向けた。

(一体何を……)

答えはすぐに分かった。何の前触れもなく突然鞘が高速で飛んできたのだ。大男は魔力により黒塗りの鞘を飛ばし攻撃をしてきたのだ。だが黒塗りの鞘は私の顔の右側を通り過ぎ当たる事はなかった。

(外したっ!?)

無意識に鞘を目で追い大男から視線を外してしまった。マズいと思いすぐに視線を正面に戻すと大男の姿がなかった。そしてすぐ真横から―――。

「はい、終わり」

能天気な声と同時に殺気が凝縮された致命の一撃が喉元に走った。数秒の意識の空白の後私の体に冷や汗が吹き出す。喉を擦ってみるが傷はついていない。<歩く教会>による莫大な魔力が防御膜なり刃を防いでくれたのだった。あり得たであろう死の感触が私の身体から力を奪う。その場に膝をつきそうなるが体に鞭打って私は立ち上がる。次の攻撃に備えて身構えるが攻撃は来なかった。大男が持っている曲刀の刃を見ながら涙をこぼしていた。

「俺の愛刀の刃こぼれがぁ~。東の大陸から取り寄せたカタナだったのに……銘はないがかなりの業物だというのに……大体卑怯なんだよ、その<歩く教会>って奴はよお」

「なっ!? <歩く教会>を知っている!?」

私は驚きを隠せなかった。大男は涙を拭きつつ驚いてる私に向かって語り始める。

「アンタの来ているその白い……修道服だったか? それ<歩く教会>って奴だろ。八聖教での位が高い奴に与えられる特別な魔法礼装。確か八聖人の御霊を降臨させるのと信者の信仰心を魔力に変換して力を与える機能がある……だったか」

「……だたの盗賊がどうして別の大陸の宗教の秘儀を知っているのですか?」

「それは簡単な話だ。若い頃武者修行で海を渡った事があってな、その時八聖教の奴と戦った事があるんだよ。その時の奴も白い修道服着てて信じられん膂力と魔力でごり押しされるし刃が通らないでスゴい苦労した……信じられん魔力量でもって鉄壁の防御と身体強化を発揮する……チートだろそれって」

ズルい、ズルいと子供のように責められ私は辟易する。

「ズルいって……そちらこそ徒党を組んで人を襲ってるんですから文句言われる筋合いはないですよ。それよりもあなたは何者ですか? 八聖教や<歩く教会>の事をしている者が只者であるはずがな」

「いんや、俺は只者だよ。ジル・メーンってケチな盗賊の頭だ」

「あなたほどの腕を持つ者が一盗賊の頭?」

「ある事でケチが付き始めてそれからの転落人生……その結果盗賊の頭に落ち着いたがこれはこれで悪くはない、中々面白い人生だよ」

そう言って笑う男の顔は清々しい物だが行きついた所が犯罪者ではこちらとしては同意できない。

「それはそれとして続きをやろうか?」

「続きって<歩く教会>の事を知っているのなら敵わない事は分かるでしょう。それでも戦うというのは愚かでは?」

「他に八聖教の人間がいたのならそうだろうがお嬢ちゃんが相手なら……やり様がある」

「私相手ならって……舐めてくれますね」

私は両手を胸の前に突き出しし少し前かがみになる。

「八聖力か……そう来るなら俺も」

ジル・メーンはカタナを地面に突き刺し無手になると私と同じ構えを取った。

「!? まさか八聖力を!?」

「昔、ある御仁と戦った時にいくつか盗ませてもらった。本職には負けるだろうがお嬢ちゃんぐらいなら……そう言えば名前を知らないな。一つオジサンに教えてくれんか?」

「悪党に名乗る名など……」

「墓に刻むには必要だろう」

私になら八聖力でも勝てる、暗にそう言われ私はこめかみに青筋を立てる。沸点が低いと思いながらも感情を抑える事が出来なかった。

「……言ってくれますね。いいですよ教えて差し上げます。私の名はティア・ウェネーフ、八聖教のシスターです」

「俺はもう名乗ってるからいいか……じゃあ始めるとしようか」

「ええ」

お互いすり足で近づき間合いを詰めお互いの手が触れて瞬間、ジル・メーンの姿が消えた。そして腰に鍛えられたであろう太い腕が回されていた。何が来るか読めた私は咄嗟に腰を落としたがそれでも持ち上げられた。

「オウリャァァァッ!!!」

私を持ち上げたジル・メーンは気合と共に後方に反り投げつけるように頭から私を地面に叩きつけた。

(岩石墜としを受けるとは……八聖力で後手に回るなんて……不覚)

私は相手の実力を見誤っていた己を恥じた。

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