困惑、混乱、誰に相談
今僕は言葉で言い表せない程混乱していた。
(これってどういう状況!? 何で僕の隣りにティアさんが眠っているんだ!?)
僕とティアさんの上にかかっている毛布を持ち上げ中を見て僕は悲鳴を上げそうなる。
(僕もティアさんも服着てない!? 何で!? まさか……責任取らなきゃいけない事をしてしまった!? 一体全体どうしてこうなった?)
僕は昨日の行動を振り返ってみた。
(確か……ティアさんを振りほどく事が出来なかった僕は諦めて一緒に行動というか観光をする事になったんだっけ……誰かと一緒に街を歩く何てした事が、それも女の子と一緒という事もあって本当に楽しくて気が付けば夜になっちゃって宿屋を探す事になったけどほとんどが満室、ようやく入れた宿屋は一部屋しか空いてなくて……逃げようとしたらまた捕まって一緒に泊まる事になったんだ……それからティアさんと色々と話をしているうちにお酒も入ってる事もあって眠くなって……そこから記憶がない……ウーン、ちょっと怖いけどティアさんにも話を聞いてみた方がいいかも)
僕は意を決してティアさんを起こそうとするがその前にティアさんが可愛く欠伸をしながら目をこすった。そして寝ぼけ眼で僕を見た。フニャッとした気の抜けた表情で僕を見ると身を起こした。
「オヒャヨゥ~ゴヒャイマス~」
ティアさんが眠たげに朝の挨拶をしてくるが今の僕にはその挨拶を返す余裕はなかった。体を起こすという事は体を覆っていた毛布がはがされるという事でありそうすると普段服で隠された箇所が丸見えになるという意味で……。
(雪のように白い肌……形のいいお山が二つ……山の頂上にあるのはキレイなピンク色のポッチ……)
困惑、混乱の極致にいる僕にさらに追い打ちをかけられた。ティアさんが顔を赤らめ目を潤ませながらこちらを見ながら言う。
「昨日は……スゴかったです。もう止めてって言ってるのにあんなに激しくされて……リゼルさん草食系かと思ったら意外と肉食系で私……」
僕の頭の処理速度を超える出来事を目の当たりして僕は意識を保つ事が出来なかった。意識を手放しベットに倒れた僕をティアさんが揺さぶる。
「リゼルさん、何でまた寝るんですか? その……色々とお疲れでしょうが起きて下さい。これから私とリゼルさん、二人の楽しい旅の時間ですよ。モシモーシ……」
それから僕とティアさん、二人で乗合馬車に乗って隣国グラム王国に向かう。街を二つ乗り継ぎ三日ほどでグラム王国に着く予定だった。乗合馬車に乗る事も神聖ヴァリス王国を出る事自体も初めてだった僕はこの旅を楽しめるはずだたのだが物凄く空気が重かった。他の乗客さんも重苦しい空気を感じて無言、ただ何かを訴えるように僕を見ていた。
(分かってはいるんですけど……)
僕は隣に座っている重苦しい空気を作っている源をチラリと見る。そこには私チョー不機嫌ですというオーラを身に纏うティアさんがいた。
あの後、目を覚ました僕は開口一番、土下座をしてすみませんでしたと謝ったんだけどそれ以来機嫌が悪い。最低限の事は答えてくれるがそれ以上は会話すらしようとしない。
(やっぱり僕がひどい事した―――記憶にはないんだけど―――から何だろうけどそれならあなたとは一緒に行けませんって突き放してくれればいいのに……それでも一緒に行ってくれるのは何故なんだろう? それはさておき出来れば仲直りはしておきたい。一緒に旅をしてくれてるんだから……)
僕は意を決してティアさんに話しかける。
「あの……ティアさん」
そう声をかけて途端、ギロリッとティアさんに睨まれた。なまじ美人なものだから怒った時の表情が恐ろしい。
「えっと……今日はいい天気ですね。旅日和ってこんな日を言うんですね」
ティアさんに睨まれてだけで僕は折れてしまった。怒っている原因を聞き出す事が出来ず変な事を口走ってしまった。
何を言ってるんだオメーがという視線が四方八方から突き刺さるがしょうがないと思う。今のティアさんは抜身の剣だ。下手な事を言ったら主に僕がどうなるか分からない。どうすればいいんだろうと思っていた時、勇気がある人が立ち上がってくれた。それはティアさんの隣りに座っていた老女だった。
「お嬢ちゃん、何があったのか知らないけど……そんな不機嫌そうな顔しちゃいけないよ。美人なのにもったいない。お嬢ちゃんには笑顔が似合うと思うんだけど……そんな風に顔を曇らせている理由、私に話してみないか? 隣になったのも何かの縁だし……どうだい?」
そう言われてティアさんが身に纏う空気が少し和らいだ。同性、それも遥かに年上という事もあれば話しやすいだろう。僕含め周りの乗客も老女に注目し、全員が同じ事を思った。
(どうか……彼女の怒りを沈めて下さい)
「私が悩み事を聞かれるというのは本末転倒なのですが……聞いてもらえますか?」
「ああ、聞かせておくれ」
そして相談が始まった。
「私は各地を旅してる修道女なんです。悩める人に教えを説き導くそんな旅をしてしておりまして。昨日もまた悩んでいる人がいてその人に話しかけたんです。その人が隣にいるリゼルさんなんですが……」
「へえ、そっちの坊ちゃんがかい?」
老女がチラリと僕を見る。僕は愛想笑いを浮かべ軽く頭を下げる。
「はい、詳しくは言えませんがこの人は自分が進む道が分からないとおっしゃってまして……だったら私について来ませんかと提案して一緒に来てくれる事になったんです。それで昨日一緒の宿に泊まったんですですが……」
「一緒の宿に?」
話が変な方向に向かってきたなと感じ僕は止めようとしたが周りの乗客には羽交い絞めにされ口を押さえられこれ以上話すのを止めるように言う事が出来ない。面白くなってきたところなのに止められてはたまらないと乗客たちが一致団結したのだった。
(止めて、これ以上言わないで!!)
僕はティアさんに念を送るが僕には魔力がない為、念話なんて出来ない。何か合図を送れないかとウインクをするけどティアさんは僕を見ていない。
「それで一緒のベットに寝てその……色々とされちゃったんです」
周りが一斉にザワつき始め僕を見た。その視線がまさに突き刺さるようでとても痛い。
「そうかい……それは辛かったね」
老女が同情仕切りと言った感じでティアさんの頭を撫でる。そして羽交い絞めされている僕を見る。その視線は女を食い物にする鬼畜、死ねとでも言いたげた。
「でも……された事自体はいいんです」
「? そりゃどういう事だい?」
「正直私、リゼルさんに一目惚れしたんです。色々な人に見捨てられて弱り切ったこの人の傍にいて何をしても助けてあげたい、寄り添いたい、そんな風に思ったんです。だからその人に女性と見られてその……色々とされたという事は私を頼ってくれたって事でしょう。私にとってそれは幸せでしかありません」
ティアさんが顔を赤くして両手で顔を隠す。僕も両手を動かせるなら同じように顔を隠していただろう。
そんな話を聞かされて老女が顔をしかめる。
「……だったらどうしてそんなに不機嫌何だい? お嬢ちゃんの熱烈ぶりには少し驚くところだけど不満はないって事だろう?」
「本当ならそうなんですがこの後の……リゼルさんの行動が私的には許せないんです」
「後の……行動?」
「よりによってリゼルさん……私に謝ったんです」
「謝った?」
「『責任取らなきゃいけない事をしてしまってすみません』って土下座までしたんです」
「……誠心誠意謝ったって事だろう。それの何が不満だと?」
「だって謝ったって事は……後悔しているって事じゃないですか。本当はやりたくなかったって言われているようで。私は……嬉しかったというのにリゼルさんは……そう思ったら悔しくて悲しくて……」
ほろほろと涙をこぼすティアさんを見て僕は胸が痛んだ。あの時僕はどうするのが正しかったのだろうと悩まずにはいられなかった。