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ちょっとした手品のタネと語り出し

「このキツネさんの手なんですが……」

茉莉さんが両手でキツネさんの手の形を作る。

「やってみると分かるんですが腕がピンと張り詰めるんですよ」

「腕が張り詰める?」

僕は右手でキツネさんの手を作り左でで右腕を触ってみる。

「……本当だ」

ジル・メーンも僕と同じようにキツネさんの手を形を作って反対の手で腕を触ってみる。

「こんなふざけた手の形にそんな効果があったとは……」

言い方はどうかと思うけどジル・メーンは感心しているようだ。

「ふざけたは余計ですっ!! ともかくこの手の形をすると腕の余計な動きを防ぐ事が出来ます。そうやって手と腕に別々の仕事を与えておけば全身の力をうまく引き出せる事が出来るんです」

「全身の力を引き出す?」

「ええ」

「じゃあ、アンナを体を持ち上げる時のアドバイス―――『足の裏を持ち上げるイメージ』というのも?」

「はい、ああいう風にイメージする事で胴体、特に背中側の筋肉を効率よく使えるようになりこれもまた強い力を引き出せます。私はこちらで言う魔力は持っていませんが体の力を効率的に使う……言うなれば別種の魔法を使う魔法使い、そう呼んでもいいかもしれんませんね……」

「魔力を使わない……別種の魔法使い……」

魔法が使えない僕にとって茉莉さんの言葉は希望であると言えた。

「別種の魔法使い……確かにそうだな」 

ジル・メーンはブルリと身震いした。心なしか顔色も悪い。ジル・メーンは茉莉さんとの闘いを思い出していた。魔法に匹敵する力をその身で体験し死にかけたのだから恐怖を覚えたとしても不思議じゃない。

「まあこちらの世界の人間では手の形やイメージする事で力を引き出せると考えるのは難しいでしょうね。魔力何て便利で安価な力があるのならそちらに飛びつくでしょうし……でもジル・メーンさんは気が付いていますよね。魔力、魔法という物が思ったより便利じゃない事に」

「魔法が便利じゃない?」

こちらの世界の住人じゃない茉莉さんではの発言だと思うけどジル・メーンが気が付いているというのは一体どういう事だろう。ジル・メーンは魔法に傾倒するこちらの世界の人間だ。魔法が使えない何て考えるはずがない。僕は首を傾けジル・メーンを見ると頬を掻きながら「まあな」と頷いていた。

「俺はよく身体強化の魔法を使うがあれは魔力の消費が激しいし強力な力を一時的に出せる代わりに繊細さを失うし使いどころを間違うとピンチに陥る。茉莉との戦いは正にそれだ。だから強化を解いて素の体力と技術で勝負したしな」

「そこに気が付いて実行したのは正直見事と思いましたが魔力を使わない戦い方には不慣れだったようですね。技の練度が足りてません」

「それが分かっていたんなら……多少手加減ぐらいしてくれてもいいんじゃないか? 死にかけたぞ」

「あの時は敵だと思っていましたし……そんな相手に手加減なんて考えられる訳がありません」

茉莉さんは悪びれもなく言い切った。茉莉さんは敵と見定めた相手に一切の慈悲がない。仮に僕が敵になったとしたらたとえ弟子であったとしても僕を殺すのに躊躇はないだろう。茉莉さんは確かに強いけどその強さの秘密は技よりもその非情さにあるんじゃないだろうか。

(あり得ないけど茉莉さんの敵には絶対にならないようにしよう……しかし僕は茉莉さんの弟子になったとしてもここまでの強さを持つ事が出来るだろうか? いいやそんな心の強さを持てるわけがない。どんな教えを受けたとしても僕だしね……)

そんな事を考えていると茉莉さんと目が合った。普段の微笑が消え真剣な表情で僕の事を見つめている。茉莉さんは驚くほどの美人さんだしそんな人に見つめられればドギマギする者なんだけどその時の僕はそんな事を考えている余裕がなかった。茉莉さんの視線は僕の心を見透かすようなそんな力があるように思えて恐怖を感じずにはいられなかった。視線を逸らそうとしても体が見えない何かに絡めとられたかのようで身動き一つ出来ない。

(茉莉さん……やっぱり魔法のような力を持っているんじゃないですか?)

茉莉さんに見つめられる事数秒、茉莉さんが溜め息をついた事により僕の体を拘束していた何らかの力が解け体が動くようになった。

「茉莉さん……僕に何をしたんですか?」

「何をしたって何の事ですか? 私は何もしていませんよ」

「でも茉莉さんに凝視されたら体が動かなくなった。それになんか見透かされた様な気が……」

僕が感じた事を伝えると茉莉さんが少し驚いた様な表情になった。

「私はリゼル君の呼吸や態度、気配、人相その他諸々を読み解いてリゼル君の心の内を覗いてた……いわば読心術を行っていたのですが……それを感じたというのは凄い才能です」

「才能ですか……」

才能と言うけれどそれは王家の者とは言え弱者である僕は人の顔色を窺い怒らせないようにしていたからだろうしあまり誇るものではなかった。そんな事を考えていた事を読まれたのた茉莉さんはまた溜め息をついた。

「リゼル君、自らを驕らず謙虚である事は美徳ですが過ぎれば卑屈にしかなりません。少しは自信、自分を信じた方がいいですよ」

「自分を信じるか……」

僕は力無げに笑う。自信なんて持てる訳がなかった。

「キツネさんの手やイメージを利用した体の使い方を教えた事で力を引き出せた。それが自信に繋がればと思たんですがその卑屈さは筋金入りですね……ある意味強情とも言える自信の無さをどうにかするとなると……」

そこで茉莉さんは僕の隣りにいるジル・メーンに視線を移す。

「ジル・メーンさんに少しお話をしてもらいましょうか?」

「そこでどうして俺が話を振るんだ?」

訳が分からないというようにジル・メーンは首を傾げるが茉莉さんはそれを無視。

「さっき課題として出した『何をすれば何かに勝利したと思えるか?』 それでいいので思いつく事を話してもらえませんか」

「勝利を確信ってどうしてそんな話を?」

「リゼル君の為ですよ。他の人から話を聞いてそれを糧に自分に応用出来るようになれば自信もついて来るんではと思いまして」

「俺の話で自信がつくかねえ。俺なんて悪党だし誰かに教えを説くなんてそんな坊さんみたいな高尚な事は……待てよ、何をすれば勝利したと思えるかか……」

ジル・メーンがしばし腕を組んで考え込む。

「リゼルの自信に繋がるかは分からないがそれでいいのなら話すが……それでいいのか?」

ジル・メーンが茉莉さんに伺うと茉莉さんはコクリと頷いた。

「どんな話でもいいから話してみて下さい。どんな話であろうともリゼル君の糧になるでしょうから」

「だったら……」

そこでジル・メーンがイヤらしくニヘラと笑う。その笑みを見てジル・メーンが何を考えているのか僕には分かった。読心術なんてなくても分かるのだから当然茉莉さんも分かっている。いつもの微笑を浮かべつつもその右手は見えない何かをもぎ取るような仕草をする。

「変な話をしようというのなら……もぎますよ。心を男から花も恥じらう乙女に変えてやりますよ」

ジル・メーンが「ヒッ」と短く悲鳴を上げて股間を押さえる。茉莉さんの仕草を見て僕も思わず股間を押さえてしまう。やると言ったらやる人だというのは僕は理解している。

「悪ふざけして大事な息子を取られたんじゃ割に合わん。ここは一つ真面目に話す事にしようか……」

そう言ってジル・メーンが語り出した話は僕だけではなく茉莉さんも感心させるものだった。

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