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私が決めてもいいですよね?

僕は神聖ヴァリス王国を出ようと東の空が白み始める前に王城を出たんだけどそこから僕は動けなくなっていた。

「僕、これからどうしたらいいんだろう……」

国を出たとしてこれからどうすればいいのかと考えたら足が動かなくなってしまったのだ。だから僕は王城を出てしばらく歩いた所にある中央広場の噴水の前に腰かけてボンヤリしていた。そんな僕に声をかけてくれる人がいた。

「どうしたんですか?」

心配げな声に振り向くとそこには白いゆったりとした貫頭衣にヴェールを被った女性がいた。

「どうしたって……」

「さっきから見てたんですがピクリとも動かないので……何か悩み事でもあるんですか?」

「いいえ……大丈夫ですから……」

この場から立ち去ろうとする僕の手をその女性は掴む。

「大丈夫という顔をしていませんよ。良ければ私にお話ししてみませんか? 何か悩み事があるのなら私が聴罪司祭となりますよ。一つ話してみませんか?」

「聴罪司祭って……何ですか?」

「聴罪司祭というのは……」

聞くところによると聴罪司祭というのは罪の告白を聞き赦免を与える司祭の事なのだという。それを聞いて僕は思った。

(この国の人じゃないな。この国では僕みたいに悩む人はいないしそんな悩みを聞いてくれる人なんてまずいない。この国の人は強いか弱い1か0で物事判断するんだから)

僕は改めて女性を見る。

(ヴェールを目深に被っているから顔しか見えないけど結構整った顔立ちしてる。正直美人、いや僕と同じ年に見えるから美少女か? 深い藍色の瞳がキレイだし、白い肌と相まって見惚れてしまう……それに僕の事を本当に心配しているのが表情からうかがえる……赤の他人なのにどうして?)

「あの……そんなに見られると……」

女性が恥ずかしそうに眼を逸らし頬を抑える。

(ウワッ、白い肌が赤く染まって……なお可愛いってそんな感想言ってる場合じゃない)

「ごっごめんなさいっ!! ……それで何ですが罪という訳じゃないんですが僕の悩みを聞いてもらえますか?」

「お任せ下さいっ!!」

ボンッと胸を叩くと二つの双丘がポユンッと大きく揺れる。見てはいけないと顔を背けた僕を女性は不思議そうに見る。

「ああ、そうだ悩みを聞いてもらう前に……あなたのお名前は?」

「そういえばお互い自己紹介もしていませんでしたね。私の名前はティア・ウェネーフ、14才です」

「僕はリゼル・アング……じゃなかった、ディフェーサ、15才です」

僕は咄嗟に母方の姓を名乗っておいた。アングリフを名乗る事はもう出来ないのだから。

「15才って事はお兄さんだったんですね」

「お兄さんってほどじゃ……」

(年下だったのか……でも僕よりしっかりしているというか僕が情けないだけか……)

何度目か分からない溜め息をつこうとするとティアが手で口を押えた。

「吐くのは溜め息ではなく悩みにして下さい」

「ふぁい」

口元を押さえられている為変な声が出てしまった。

「ひゃっ!?」

僕がティアの手の中で口を動かした際ペロリッとティアの手を舐めてしまった。ティアが小さな悲鳴を上げ僕を睨んだ。

「ご、ゴメンナサイ」

「いいんですよ。それよりも悩みを聞かせて下さい」

「うん……」

そして僕は自分がこの国の元王子である事は隠し、剣も魔法も才能がなく魔力ゼロという特殊体質である為に実家から追放された事、これから何をすればいいのか分からず途方に暮れている事など一通り話した。僕が話終えるとティアは何やり思案顔になる。

「リゼルさんの親御さん、ちょっと了見が狭すぎやしませんかね。剣や魔法が得意じゃなくても何か別の事を頑張らせばいいだけの話じゃないですか。世の中強い弱い動いている訳ないのに……それで家を追い出すなんて信じられません」

「この国は実力主義の国ですから……弱いというだけで罪なんですよ。強さという振るいから落とされればそれは死んだも当然、捨てられても仕方がない」

「そんな……」

「でもそんな僕でも15まで育ててくれたのだからありがたい事ですよ」

「おかしいですから、それ」

「でもそれがこの国の常識ですから」

ティア考えられないと呟いた後、目を閉じ何やら考え込む。

「ティアさん?」

ティアが目を開き僕の目をじっと見る。真剣な表情にに僕は息を呑む。何も決められない僕に呆れてしまったのだろうか。

「リゼルさんはこの国を出てそれからどうすればいいのかわからないんでねすよね?」

「ウ、ウン。情けないけど……」

「情けなくはないですよ。いきなり放り出されたら誰でもそうなりますよ。そこで一つ相談なんですが……私と一緒に来ませんか?」

「僕がティアさんと? どうして?」

「私ここから出ている乗合馬車に乗って隣国であるグラム王国に行く予定なんですがそれに同行してほしいんです。だめですか? もしついてきてくれるんでしたら少ないんですが謝礼も出しますよ」

行き先に迷っている僕にとってこのような提案、しかも謝礼までしてくれるなんて破格すぎる条件だ。ありがたいが条件がよすぎると少し怪しく思ってしまう。

「……さっき出会ったばかりの僕にどうしてそこまで親切にしてくれるんですか?」

「神に仕える身としては困っている人を見過ごせないんですよ。さっきまでこの世の終わりだって表情してたんでよ。自覚あります?」

「そんな顔をしていた……」

僕は自分の顔をペタペタ触るが表情がわかるはずがなくあまり意味がない行動だった。そんな様子を見てティアが愉快そうに笑う。

「今は少し希望が見えてきたって感じです。いい表情になりましたよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

そんな僕を見て優しく微笑むティアさんを直視できずそっぽを向いてしまう。自分が今どんな顔をしているのか、見られたくなかった。僕はティアさんに背を向け深呼吸をして落ち着き向き直ると頭を下げた。

「僕、ティアさんと一緒にグラム王国に行きたいです。それまでの道中お供させてください」

「はい、よろしくお願いします」

そういってティアさんが僕に握手した。少し冷たいで、お柔らか手に少しドギマギした。

(女性の方からこうやって手を取ってくれるなんて今までの人生でなかったな……)

そう考えて僕は少し情けなくなった。

「どうしました、また暗い表情になってきましたよ」

僕の懐に入り込んだティアさんが上目遣いでさんで顔を覗き込む。その破壊力に僕は手を話し後ろに飛び退いた。

「何ですか今の反応は? 傷つきますね」

可愛らしくほっぺを膨らませて怒るティアに僕は本気で謝る。

「ゴメンナサイッ!! ティアさんが嫌だった訳じゃなくって、あのっ!? そのっ!?」

ティアが愉快そうにクスクス笑う。

「分かってます。リゼルさんって面白いですね」

からかわれてると分かって今度は僕が頬を膨らませた。男の僕がやっても全然可愛うないのだけど。

「怒っちゃいました? ゴメンナサイ。どうか許してください、リゼルさん」

おどけて言うティアさん、からかってるなと思うがこちらも愉快になってくるんだから……。

「いいでしょう、許してあげます」

「ありがたき幸せ」

芝居がかった台詞に僕とティアは笑い合った。

「ではこれからの予定ですが……今日一日は観光にあてて明日ここを出ようと思うんですがリゼルさんはそれでいいですか?」

「明日ですか……」

「何か予定でも?」

「予定という訳はないんですが……」

(父さんに今日この国を出ろと言われているのだが……まあいいか。王城は出たんだ、この国を出るのは明日でも構わないだろう)

「いいえ、大丈夫です。明日はよろしくお願いします」

「はい」

「では、明日のこの時間ここで待ち合わせでいいですか」

「待ち合わせって……何を言ってるんですか?」

「何をって?」

聞き返す僕の顔を見てティアは不思議そうな顔をした。

「これから一緒に行動するのに離れ離れになってどうするんですか? 今日一日観光に付き合ってもらうし……一緒の宿に泊まってもらうんですからね」

「一緒の宿に泊まる!? それはマズいですよ色々と!? 明日ご一緒させてもらうので今日はこれでっ!!」

言うや早く踵を返して走り出すがティアが前に回り込む。

「逃がしませんよ」

一瞬にして取り押さえられてしまい僕は降参するしかなかった。

(ティアさん強い。隣国じゃなくてこの国でやっていった方がいいんじゃなかろうか?)

僕はそんなしょうもない事を考えてしまった。

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