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思いもよらない才能と希望を信じて

ドアに鍵はかかっていなかった。部屋の外には見張りもいなかったから簡単に部屋の外に出る事が出来た。これが意味するところは……。

「本当になめられてるな……」

あのジル・メーンという男は父さんや僕、ヴァリス王国についての情報を集めている。だから僕の悪評も知ってるだろう。それ故に鍵も見張りも必要ない、いざ暴れらても簡単に取り押さえられるという余裕の表れという事だ。事実僕は魔力がゼロ、体力は普通の人以下、ろくにに剣も振れない何の役にも立たない半人前以下、そんな相手が暴れても取り押さえるのは楽だろう。

「……でも都合がいい。その傲慢、利用させてもらおう」

僕は周囲を見渡し下へ降りる階段を見つけた。誰もいない事を確認し足音を立てないようにして僕は階段を降りた始めた。長い長い螺旋階段を降り終わるがそこにも見張りはいない。何かの罠がるのではと怪しむが実際そういう仕掛けは無くてホッとした。鉄製のドアを見つけドアノブを回し押すと少し大きめな軋み音に驚いた。

(こんな所に罠があったか!?)

ドアの隙間から辺りを見渡すが人影はないようで少しホッとしながらさらにドアを開け外に出た。目の前に広がる光景に僕は唖然とした。

「ここは……どこその貴族の屋敷なのか?」

そうとしか思えない光景が広がっていた。一部が破損しているものの十分機能を果たす堅固な城壁で覆われており中央には手入れが行き届いた庭園と何十人という人が住めそうな大きな屋敷が建っていた。

「……でもジル・メーンは何十人という部下を従える盗賊、貴族って訳はない……まさかここも盗んだとか言わないよね?」

ジル・メーンの破天荒さを考えると屋敷の一つも奪い取りそうで怖い。

「……いいや今はジル・メーンが何者かなんて考えてる暇はない。僕がする事はただ一つ、ここから逃げ出す事」

僕は城壁を背に物陰に隠れながら移動を開始した。城壁に沿って移動した事で出入り口はすぐに見つかったが落とし扉が下りており開閉の仕掛けを動かさない限りどうする事も出来ない。

「仕掛けを動かしてそれからそれから逃げる……無理かな、落とし扉が動く音で人が集まって捕まってしまう。というか仕掛けがある所に行くまでに誰かに見つかったらそれで終わりだし……」

敵地の真っただ中だというのに僕は呑気にその場で考え込む。

「……動かせない物をどうするかより動ける方に向かうのが現実的か……屋敷の方に向かおう」

僕は樹や物陰に隠れなながら屋敷の方に向かう。自ら火中に飛び込む様なものだがそちらの方がチャンスがあるかもしれない。アジトと思われる屋敷の方には盗品等を集めているのかもしれない。そこになら僕にでも扱えそうな武器や身を守る防具、アイテムがあるかもしれない。それで身を守りながら脱出する方法を探る方が現実的だ。

「見つかったら痛い目にあうかもだけど殺されはしないと思うし……勇気出せ、行くぞ!!」

僕はなるべく物陰に身を隠しながら移動する。幸いな事に人と出会う事無く屋敷の入り口にまで近づく事が出来た。壁に耳を当てる人の声が聞こえる。大声で笑い何かを力強く叩く音が聞こえる。何をして入りのかと近くの窓から覗いてみると数十名の男女が真昼間から酒盛りをやっていた。

「こんな真昼間から何をしているのやら」

人の財産を盗み時には人の命を奪いそれで豪遊する一般常識から外れた悪党、それが盗賊なのだからこうやって昼間から宴会をしてのけるのは呆れるというよりは逆にらしいというべきか。

「……でもこれはチャンスだね」

これだけ油断をしているのなら僕があの部屋から抜け出してこの屋敷に忍び込むとは思いもしないだろう。

「よし、行くぞ」

僕はその場から移動し屋敷をぐるりと一周し裏口から屋敷に侵入した。そこは厨房のようだけど今は火が落ちている。誰もいないようで幸いだ。僕はなるべく足音を殺しながら出口へ移動する。そっとドアを開け辺りを見渡すと人影はないが宴会の声は聞こえてくる。

(しめしめ、今のうちにだ)

僕は宴会をしている部屋を避けて他の部屋を調べるが盗品を集めているであろう部屋がは見つからないのだけど幾つもの部屋を調べているうちに妙な事に気が付いた。

「全ての部屋がきれいに掃除されている? 考えてみれば宴会している人たちも妙に小綺麗だし僕が考える一般の盗賊とはなんか違う。自分から進んでやるという甲斐性があるとは思えないしこれはジル・メーンの統率力がなせるものなのかな?」

ジル・メーンのあの強さなら荒くれどもを黙らせるなんて簡単な事だろう。

「戦闘に関してだけでなく人の統率なんかも出来るんだから恐ろしい……」

改めてジル・メーンという男の巨大さに身震いしていしまうがそれで動けなくなっている場合ではない。

「宴会してる広間の向こう側は調べてないしそっちに行くしかないか……」

盗賊たちが宴会している大広間は隠れる場所が少ない。そこを通るとなれば見つかってしまう可能性は遥かに高い。

(広間で宴会しているのが全員だとすると僕を見張る人間は誰もいないだろうし落とし扉を動かしても誰にもばれない、バレるにしても時間はかかるだろうし改めてそっちに向かうか? いいや、進もう……今までの僕の人生、逃げて逃げての人生だった。僕の守ってくれる人が出来てその人に寄りかかったらその人を傷付けてしまった。今、逃げてしまったら僕はまた何も出来ない人間になってしまう。それは死ぬよりも嫌だ!!)

ここは無茶をせずに逃げる方が賢い選択だというのに僕はあえて無茶で無謀な方を選択した。

僕がいる廊下と大広間はドアがなく一つに繋がっているT字状の部屋となっており出っ張てる部分に盗賊たちが大勢いて宴会をしていた。そこを通り過ぎて奥の方に行くのが僕のミッションになる。

(隠れる所の少ないこの場所で誰にも見つからず進むなんてやっぱり無理なのかも……)

諦めかけたそんな時僕の脳裏に過去のある事を思い出していた。

それは妹のアンナが8歳、僕が11歳の頃。剣姫としての片鱗を見せ始め剣にかけては父さん以外誰も寄せ付けないそんな強さを見せ始めた時、僕は不思議とアンナの後ろを取り驚かせる事が多々あった。どうしてそんな事が出来るのかと不思議に思っていた時アンナは怒りながら理由を教えてくれた。魔力持ちは魔力持ちを感知する事が出来る。感度が高まればその人の強さや魔力の属性なども感知出来るが僕は魔力ゼロである為非常に感知しにくいと、視認出来なければ見つけにくい事この上ないと教えてくれた。更に色々と嫌味も言ってくれたけど。その場で少し落ち込んでしまったけど気を取り直して僕が魔力ゼロである事の有用性に思いを馳せる。

「……僕のこの魔力ゼロの体質ならこの先に進める」

僕は下手な小細工なしに一直線に歩いた。体の力を抜き緊張せず悠然と歩く。視界の端に宴会をしている盗賊たちの姿を入れながら。

(頼む、誰もこっちを見ないでくれ)

僕は祈りながら一歩一歩歩を進め部屋の端に着いた時には安堵の息を吐いた。全身冷や汗でびっしょりだがうまくいった。足から力が抜けそうだったが僕は踏ん張ってその場にへたり込むのに耐えた。

「ここで終わりじゃない……先に進まないと」

僕が歩を進めようとしたその時だった。

「ア~レ~、お前どこ~い~く~の~?」

後ろから声をかけられた。呂律が回っていない所を見ると宴会をしていた盗賊の一人だろう。

(どうしよう、僕だという事はばれていないみたいだけど……どう答えたらいい? 迷ってる暇はない……こうなったら破れかぶれ)

「……ちょっと用を足しに」

振り向かずに何の捻りもない受け答えをしてしまった。自然と心臓の鼓動が自然と早まり息が切れる。もし戦闘になったら僕になす術はない、相手はどう出るか。

「……ふ~ん、漏らすなよ~」

そう言って後ろから気配が遠ざかるのを感じた。今度こそ本当に僕はその場に膝をついた。

「あ、危なかった。でも……」

ここでへたり込んでる暇はない、僕は動こうとしない足を叩き気合を入れて無理矢理立ち上がり先へと進む。その先に希望があると信じて……。

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