第八話 『魔法芽』
「この〈試練〉。昔からいろいろな人達が挑んでは、死んでいったものなんだ。君達が握っているその武器も、その先人たちが残していったもの……だと思うよ」
セントラルは俺の握っていたレイピアと東悟の大剣を指さす。そうか。だからあの小屋にこんなものが置いてあったのか。
セントラルは話を続ける。
「君達の後ろを見てごらん。五つの扉があるだろ? その先には、それぞれ敵が一体ずつ、計五体の敵がいるんだ。君達は一体倒したからあと四体の敵を倒せばめでたくここから出られるよ」
セントラルに言われた通り後ろを振り返ると、壁に左から白、青、赤、黒、黄色の順で扉が並んでいた。
「もしかして、さっきの熊は白色だったから、私たちは白の扉の試練はクリアしたってことですか……?」
「そ。その通り。その認識でいいよ」
矢島さんがセントラルに質問する。ということは、残りの敵も扉の色に合わせた体色をしてるってことか。
だが、あんな怪物があと四体もと考えると、俺の胸には西園寺を救えなかった後悔が再び押し寄せてきた。
「じゃ、頑張って……と言いたいとこだけど、君達、もしかして『魔法』使えないのかな?」
セントラルはじっと俺たちを見る。こいつは……今なんて言った? 『魔法』だと?
「魔法って、火が出せたりだとか、変身したりできるとかのアレの事を言っているのか? 残念ながら僕たちは誰もそんなものは使えないよ」
「ああ、そうなんだ。へえ。そんな世界もあるのか。初めて知ったよ。えーとそれじゃあ……」
氷藤の発言に、奴は戸惑った様子を見せた。
そして急に押し黙り……何かを考え始めるセントラル。
少し時間がたってから、再び口を開いた。
「それなら、僕が君たちが魔法を使えるようにしてあげる」
「……どういうこと?」
「『魔法芽』が人の身体にはあるんだ。それを発芽させれば、きっと君たちも魔法が使えるようになると思うんだ」
「何を言っているか分からない。何だ? その『魔法芽』って」
白川さんと氷藤がセントラルに聞く。
セントラル曰く、人間は元々出来不出来を問わず魔法を扱える素質があるらしい。この素質の事を便宜上『魔法芽』と呼ぶのだが、これは空気中の魔法の素である『魔素』を体に取り込むことで発芽し、魔法が使えるようになるらしい。
「ま。ざっくり言えば、植物と水の関係みたいなものだよ。魔法芽と魔素は。今から僕は、君達の身体にある魔法芽を強制的に発芽させる」
解説がよく分からなくなってきた所で、セントラルの手が淡く光り出した。
「お。おい!? 何だそれ!?」
「ん? これは魔法だよ。さ、おとなしくしてねー」
その場にいた全員が騒ぎ出した。
当然だ。魔法なんてものがこの世に存在するなんて誰も思ってなかったのだから。
「じゃあ、一人ずつこっちに来て。これ疲れるから嫌なんだけど、一応全員魔法が使えるようにならないとだからね」
「なあ。一つ聞かせてくれ」
「ん? 何? 胸ぐらの子」
俺はセントラルに気になっていたことを質問する。
「なんで俺たちが魔法を使えるようにするんだよ。お前は、俺達が苦しむのを見たいんじゃないのか?」
「……ま、それでもいいんだけど、やっぱり君達にもチャンスをあげないと可哀そうでしょ? それじゃもういいかな? やってくよ」
一瞬言葉に詰まったように見えたが、セントラルはおどけた様子でそう答えた。
そして数時間かけて……セントラルは俺達全員の『魔法芽』の強制発芽を終えた。
補足しておくと、『魔法芽』はすべての人間にありますが、その大きさや『魔素』の吸収量、成長速度の違いが魔法の才能の違いという設定です。