第七話 セントラル
恥じらいもせず、泣き続けた。西園寺を、助けられなかった。
だが、ある瞬間に地面が、周囲が、空気が突如変化した。今いる場所は森の中ではなく謎の部屋。大して高くもない天井、石造りの床、肌触りの悪そうな褐色の壁を備えた部屋に、俺達はいた。
「!? おい、何だここ!?」
「え!? さっきまで森の中だったのに……」
「一体どういうこと!?」
「知るか! そもそも、森の中にいたことだって意味が分かんねえよ!」
俺と同じく、皆も困惑しているようだ。そんな時、廊下の先から聞きなれない声が飛び込んできた。
「はーい、はい。やあ皆。初めまして。〈第一の試練〉、お疲れさま」
目の前に現れたのは、俺達と同じくらいの少年。髪や目、肌、来ている服の全てが白で統一されていた。何だこいつは。こいつがまさか、俺たちを此処に連れてきたのか?
「……誰だよ、お前」
「うーんと……そんなことより、どうだった? ぜひ〈第一の試練〉をクリアした感想を聞かせてほしいなあ」
堀口明人がその少年に話しかける。野田と同じサッカー部で、いつも野田と絡んでいる男だ。だが目の前の少年は堀口の質問には答えず、笑顔で逆にこちらに質問してきた。その態度と内容に、俺は腹が立ち、立ち上がって少年の胸ぐらをつかむ。
「……感想だと? てめえ、ふざけてんのか? 何人死んだと思ってやがる!?」
俺の行動に少年は一瞬だけひどく驚いた様子を見せたが、すぐに笑みを浮かべる。
「さあ……僕は三十人程呼んだから……残り十八人? 結構死んでるね」
俺は急いで全員を見る。本田、霧山さん、佐藤さん、西園寺の四人だけじゃない。ほかにも八人のクラスメートがこの場に居なかった。
「〈試練〉で死んだ人間は、ここからいなくなるからね。バイバーイって感じだね。……ね。それよりさ、手をいい加減離してくれないかな。困るんだよね」
「正真! ひとまず落ち着け」
「……高崎君。こいつから話を聞こう。いろいろ分かるかもしれない」
東悟と氷藤に言われ、俺は少年から手を離す。少年は一息つくと、俺たちに向き合った。
「ま。とりあえずは自己紹介からだね。僕の名前はセントラル。君たちを〈試練〉に導いた者だよ」
「……〈試練〉って何かしら?」
白川さんがセントラルと名乗った少年に質問する。
「あ! 君美人だね。いいよ。教えてあげる。君たちがおうちに帰るためには、この扉の先にいる敵全てを倒さなくちゃならない。ってとこかな。要約すると」
「おい! なんでお前は俺たちをこんなところに連れてきたんだ!」
「え? 娯楽のためだよ。人がもがき苦しんでるのを見るの最高じゃない」
堀口の質問の答えに、俺たちは唖然とする。そんなことのために、クラスの十二人が死んだのか。
「ふざけんな! なんだその理由!」
「私たちはおもちゃじゃないのよ!!」
当然、クラス全員がセントラルに文句を言う。一向に静まらないその場。そんな時、セントラルの纏う雰囲気が急激に変化した。
「……うるさいな。僕の話を遮らないでよ」
「「「!?」」」
明らかに、奴を中心に空気が変わった。表情から笑みが消えたそれを見て、俺たちは金縛りにあったかのように口を開くことが出来なくなった。
「ああ良かった。やっぱり、静かなのはいいね。それじゃあ説明を続けるね」
再び笑顔に戻ったセントラルを見て、俺は目の前の男に底知れない恐ろしさを感じていた。