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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第七十七話 終幕

 俺のソウル・バレットはセントラルの魔法を破り、奴を撃ち抜いた。

 吹き飛ばされたセントラルはうずくまり、そして……力なく倒れた。


「終わった……な……」

「うん。頑張ったね……高崎……君」

「矢島さん!?」


 奴が倒れた直後、俺の隣にいた矢島さんも床に倒れこんだ。

 俺はその事に焦って彼女の容態を確かめたが、どうやら気を失ってしまったらしい。呼吸はしっかりとしているみたいだ。

 考えてみれば、矢島さんはセントラルの攻撃を何発も食らいながら戦っていた。だったら、その魂も深く傷を負っていた筈なんだ。

 そんなギリギリの状態で俺を支えてくれたのか、この人は……。

 本当に……助けられてばっかりだな。


「ありがとう……矢島さん。今は、ゆっくり休んでくれ」


 俺は矢島さんを仰向けにして、前を向いた。

 

「さて……セントラル、まだ起きているよな?」

「よく分かったね。流石、高崎君だよ……」


 セントラルは、俺の言葉に反応し、壁にもたれかかるように座った。

 ソウル・バレットで打ち抜いたような外傷は見えなかったが、魂には特大のダメージを受けているようだ。

 既に表情には余裕の色は無く、苦しそうに肩を上下させていた。


「お前はあの程度では消えないと思ったからな。……だが、動いたら今度こそソウル・バレットをお前に直撃させる」

「はは……それは、嫌だなあ。でも、安心してよ……もう、動けないからさ」

「……セントラル。いくつか、聞いてもいいか?」

「何だい……? まだ何かあるのかい?」

「お前、俺が魂魔法を使えるって分かっていたよな? ……なら、どうしてあの時、俺にヒントを与えた?」

「何の……話かな?」

「とぼけるな。第四の試練の前、お前が言っていただろ」


 あの時、セントラルは魔法修得のためのヒントだと言って魂が重要だと俺達に伝えてきた。

 だがよく考えれば、セントラルからするとその情報は別に伝える必要は無いものの筈なんだ。

 あの時の俺達は魔法の習得にはイメージが必要だと考えていた。

 セントラルもその事は否定しなかったんだから、わざわざ魂の事まで言及する必要は無かった筈だ。


「つまりお前は、魔法の習得の話をしていたんじゃない。俺に魂を意識させるためにあんなヒントを出したんだろ? ……その結果、俺はこうやって魂魔法を使えるようになったんだからな」

「……」

「なあ、どうして俺にその事を伝えた? あのヒントが無ければお前は俺に勝てていた筈だ」


 思い返せば、戦闘中にこいつが魂魔法の説明をし出したのもおかしかった。

 あの時セントラルは圧倒的に優勢だったんだから、そのまま押し切ればまず間違いなく俺達を倒せていた。

 この奇妙な二つの行動が導き出す答えは、たった一つだけだった。


「俺に魂魔法を使わせるために、お前はこんな戦いを始めたんじゃないか? ……違うか? セントラル」

「よくもまあ、そんな事考えるよねえ……。まあ、最初は違ったけど」


 セントラルは、全てを諦めたような顔を向けた。 

 まるで、全てを見透かされたのを悟って、観念するかのように。


「やはり……俺がお前に掴みかかった時からか? そんな事を考え始めたのは」

「そうだね。当初は君達を使って試練をクリアしてもらおうかと思ったんだけど……ちょっと予定を変更することにしたんだ」

「……何故だ? お前は外に出たかったんじゃないのか?」

「出たいものは出たいさ。……でも、もう何百年もたった世界に、今更戻っても仕方がないとも思ったんだ。僕の知識なんか、とっくに時代遅れだろうしね。それよりも……君に興味が出たんだ。僕と同じ魔法を使えるかもしれないってさ」


 セントラルの口調は、今までのそれよりも遥かに穏やかで……親しさすら覚える者だった。

 親友に語り掛けるような、そんな口調。


「ずっと探していたんだ……僕と同じ()()()を持つ人間を。時空魔法を使える可能性のある人間をね。それにようやく会えたと思ったんだ。だから……君にいろいろとヒントを出したんだよ。結果……君は見事、魂魔法を扱えるようになった」

「可能性……?」

「よく思えておくといい、高崎君。君が魂魔法を使えるようになったことで……もう戻れなくなった。僕と同じ運命を辿る他無くなったんだよ」

「!? セントラル、お前……」


 その言葉を言い終わった直後、セントラルの体が足先から消え始めた。

 その存在、そのものが消えていく予感がした。


「ああ……、時間だね。最後に言っとくよ。高崎君……僕の”眼”を探せ。帰りたいならね。でも……君はそれ以上に、時空魔法を使えるようにならなくちゃいけない。大丈夫。僕と同じ魂魔法が使える君なら、きっと出来るよ」

「おい……どういうことだ!? 何で俺が時空魔法を覚える必要がある!?」

「君しかいないんだ。もう、全時空を……守れる可能性があるのは。時空魔法を覚えて、異世界を回れ……『時空の旅人』としてね」


 その言葉の意味を、俺は理解できなかった。

 時空魔法。そして……時空を守るという事の意味を。

 俺が困惑している最中も、セントラルの存在はどんどんこの場所から消えていく。

 胴体部分までが消滅したセントラルは、安らかな顔で眼を閉じた。


「……本当はさ。僕は終わらせたかったのかもね。こんな場所で永遠に生きるのを。ああ……それなら、僕こそ本当に敗者だ……。長い時間をかけて選んだのが、自らの終幕だなんてさ……」

「おい、セントラル! 最後に話せ! 時空魔法は……」

「じゃあね、高崎君。……また出会うこともあるかもしれないけど」


 そう言って、セントラルの存在は完全にこの場から消え去った。

 それを見届けたのは、奴が残した言葉に戸惑う――俺だけだった。

 

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