第七十三話 魂魔法
こいつだけは、ここから出すわけにはいかない。
それは単純に俺達の我儘でしかなかったが、仲間の死を何とも思っていないこいつを容認する事は出来なかった。
「もう一度だけ、確認しておこうか……。今ならまだ、生きてここから出ていけるよ。けど、もし僕に魔法を撃ってきたら……その時は全力で君達を殺そう」
セントラルからの、最終通告。
だが、俺達の答えは決まり切っていた。
「寝言は寝て言え……!! 俺はお前を倒してここから出る」
「皆の為にも……私は、あなたを超えていきます」
矢島さんも俺と同じ気持ちでセントラルを倒そうと決意してくれてる。
そしてその言葉と同時に、俺達はいつでもセントラルを狙える体勢に入った。
例えセントラルが同じように構えても、俺達の方が一瞬早い。
セントラルは俺達の答えに大きく頷き、手をかざした。
「そうか。折角、生きて出られたのに。残念だなあ……」
「バレット・セカンド!!」
「セイント・バースト!!」
セントラルが魔法を唱えるよりも先に、弾丸と聖なる衝撃波を放つ。
俺達を侮っていたのか、セントラルは魔法を放つのが遅れたようだ。
さあ、食らいやがれ――
「!? あいつ……!?」
――だが、セントラルは俺達の魔法が迫っているにも関わらず、動かなかった。
魔法を唱える様子も避ける素振りも見せず――ただニヤリと笑っていた。
「え!?」
そして命中すると思われた俺達の魔法は――セントラルをすり抜けていった。
矢島さんが驚愕の表情を浮かべている。
当然だ。まさか魔法が体をすり抜けるなんて思わないからな。
だが、これはまさか……
「てめえ……幽霊だからかっ……!!」
「あはは!! いや、笑いを堪えるので精いっぱいだったよ!! そうだね。君達の魔法は、肉体の無い僕には通用しない」
「そんな……」
「そして……僕の魔法もね。ソウルドライブ」
「!!」
セントラルが初めて魔法の名を口にした。
それと同時に無色の螺旋が形成され、俺達二人に襲い掛かった。
「矢島さん! 相殺するぞ! バレット!!」
「うん! セイント・バースト!!」
しかし、そうやって放った魔法も――奴の攻撃をすり抜けた。
まるで何も無かったかのように、俺達二人の魔法は螺旋を突っ切って天井へとぶつかった。
「!? くそっ!! 矢島さん!!」
「きゃあッ!?」
威力を殺せなかったことで、螺旋は容赦なく俺達へと迫ってきた。
俺は咄嗟に矢島さんを飛ばして横を抜けようとした。
だが、全てを躱しきることは出来ず……俺は左腕に奴の攻撃を食らってしまった。
「ぐ……があああああッッッ……!!」
「高崎君!? え……怪我が、無い……!?」
「はは。それが〈魂魔法〉さ。外傷は与えないけど、魂はすごく傷つくんだ」
セントラルが得意げに笑っているのに気付く余裕もない。
左腕に確かに奴の攻撃を受けた筈なのに、俺の体には傷一つついていない。
その代わりに、猛烈な頭痛と吐き気に見舞われた。
とても立っていられない程に気分が悪い。これが、俺や東悟があの時に受けた奴の魔法の正体か……!!
「ゲッ……ホッ……てめえ……!!」
「魔法使い同士の戦いで、魔法のぶつけあいをするのは正しい。君達の単純な魔力量なら、そこいらの魔術士程度は簡単に倒せるだろうしね」
「ヒール!! 高崎君、しっかりして!!」
「けどそれは、あくまで普通の魔法ならの話だ。僕の〈魂魔法〉は君達の魔法とは違う。魂自体を攻撃魔法として使っている。誰も魂には触れられないでしょ? それと同じだよ。君達では、その魔法には触れられない」
「グ、ガハッ……!!」
「高崎君、大丈夫!?」
「勿論僕も君達の魔法を防ぐことは出来ないんだけど……さっき見たように、僕にはもう肉体が無い。君達の魔法でも、君達自身も僕に触れる事は出来ない」
奴の魔法の影響が止まらない。
体の内部が直接揺さぶられるような気持ち悪さと、倦怠感で起き上がることも難しい。
矢島さんに回復魔法をかけてもらっているが、それも効果が薄いようだ。
「クソ……!! アイツの体と、魔法がこんなに厄介だとは……!!」
「ど、どうすれば……私たちの魔法は……」
「効かないだろうね。君達では、僕を倒せない」
「ッ……!! でもッ……!!」
「うるさいよ。ソウルショット」
矢島さんが反論しようとした一瞬を突き、セントラルは彼女を吹き飛ばした。
壁に打ち付けられた矢島さんも、今の攻撃を食らってしまったことで魂にダメージを受けてしまったようだ。
腹を抑え、呼吸をするのがやっとの状態。
あれじゃあ、もう……
「ク……ソッ……!! バレット……」
「ソウルショット」
「!? ガッ……!?」
駄目だ。勝てない。
何とか気力を振り絞り、唱えようとした魔法も止められた。
強すぎる。こいつを打ち倒すイメージが全く涌かない。
「セント……ラ……ル……!!」
「そう怒らないでよ。当然でしょ? 僕も何百年前は戦っていたんだから。それに……君達の魔法の事もよーく知ってるよ。僕が使えるようにしたしね」
「う……うう……」
「無謀すぎたね。僕に挑むには……君達では弱すぎる」
セントラルはゆっくりと俺に近付いてきた。
止めを……刺すつもりだろう。
そして目の前に来た時、俺は諦めて……目を閉じた。
「グ……クッソ……!!」
「だから、不思議なんだよね……。高崎君」
だが、セントラルは魔法を放たずに唐突に俺に尋ねてきた。
「君はどうして、僕に触れることが出来た?」




