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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第七十二話 許せない

「これが、君達が戦うことになった理由、その全てだよ」


 セントラルの口から語られた、その過去。

 セントラルの目的、俺達を呼び出した経緯、この空間が何なのか……それらの謎が、今語られた話の中で明かされた。

 矢島さんは話している途中でどうにか泣き止むことが出来たみたいだが、まだうっすらと頬に光るものが見えている。

 そして俺は、セントラルの話の中でいくつか気になった部分について尋ねてみる事にした。


「セントラル……お前は、本当に、その、死んでいるのか?」

「うん。肉体的には、だけどね。ただ僕には魂魔法があるから、外に出ても大丈夫……だと思うよ」


 話の中で、その部分が一番衝撃を受けた。

 あれだけヘラヘラ笑っていたセントラルが、既に幽霊みたいな存在だったなんて、信じられなかったからな。

 だが、まだ気になる箇所はあった。


「お前が造った”目”は何処にある? 場所くらい覚えていないか?」

「前も言ったけど……数百年たっているからね。捕まる前には持っていなかったから、隠れ家に置いてはいたと思うんだけど……」

「その隠れ家ってのは何処にあるんだ?」

「さあ……時間がたてば地名は変わるからね」


 やはり、セントラルの言う魔道具の在りかは分かりそうになかった。

 だが、話を聞いた中ではもう一つ、不可解な点があった。


「お前……前にもう俺達を返せないって言ってたよな? お前はまだ時空魔法を使えるんじゃないのか? だったら……」


 俺がそれより先を言う前に、セントラルが首を振った。


「いや。話で出たように、時空魔法には代償が必要なんだ。それは、僕の一部か親しい人間のどちらかを犠牲にしなければならない。僕は、どちらも持っていないよ。……君達と親しい仲という訳でもないしね」


 そこの自覚はあったらしい。

 そうなると、やはり帰るためには外で魔道具を見つけ出すしかないみたいだ。

 ここを出ても、まだ日本へ帰ることは出来ない。その事に気持ちが落ち込んでしまう。

 だが、今はそれを考えても仕方が無かった。

 それより……最後にどうしても聞いておきたいことがあった、


「じゃあ……これで、最後の質問だ」

「ん? 何?」

「お前……黙っていたよな? 俺達が戦っている間、今の話を。それは何故だ?」


 セントラルは、俺達が試練をクリアした途端、今まではぐらかしていたのが嘘みたいににペラペラと理由を語った。

 だが、もし今の話を聞いていれば、俺達は多少はこいつに同情出来たと思うし、いがみ合う必要も無かった筈だ。

 何より……皆知りたかった筈だ。この場所に来て、戦う本当の理由、そして帰るための道筋を。

 何故その事を黙っていたのか、納得できる理由が欲しかった。

 だが、俺の願いも空しく、セントラルは決定的な答えを出してしまった。


「え? 伝える必要があったかな? 僕は僕のため、君達は君達のために戦っていたじゃない」

「ああ、そうか……」


 俺はそれを聞いてゆらりと立ち上がった。

 ああ、そうか。お前は……そういう奴だったな。


「なあ、俺達の事、どう思っていたんだ?」

「あれ? 質問は最後なんじゃなかったの?」

「いいから答えろ。セントラル」


 俺はセントラルの顔から目を離さない。

 こいつが何を言うか、それによって、俺の取るべき行動が決まったからだ。

 セントラルは少し考える素振りを見せて、キッパリと言い放った。


「感謝はしてるよ。それだけ」


 その瞬間、俺の腹は決まった。

 こいつは……こいつだけは、許してはおけない。

 覚悟が決まり、セントラルを睨みつけた。今まで以上に、激しく。

 そんな俺を見てセントラル側も何かを感じ取ったのか、先ほどまでとは違う、荒々しい雰囲気を纏いだした。


「高崎君。……何か妙な事、考えていないよね?」

「ああ。お前をこのまま外に出させる訳にはいかなくなってしまったからな」

「へえ……やっぱり、君は面白いな」


 セントラルは口を歪ませた。

 いつものような、こちらを見下すためじゃない。純粋な好奇心、興味から来るその口元の歪みは、セントラルの歪みを象徴しているかのようだった。


「……矢島さんはどう考えているのかな? やっぱりもう戦いは嫌だよね?」


 セントラルは俺から目を外し、矢島さんの方を向いた。

 矢島さんは先ほどからじっと顔を伏せて俺達の話を聞いているだけだったが、セントラルの言葉を聞いて俺の隣へと立ち上がった。


「……いえ」

「ん? 聞こえなかったよ。もう一回言ってくれる?」

「いえ。私も……あなたを許せません」

「ふぅん……。理由を聞いてもいいかな? 矢島さん」

「白川さんも……氷藤君も……久木原君も……皆、命を懸けて戦ってきました。それを……その死を、一言で済ませるな!!」


 いつもの彼女が見せない、本気の怒りだった。

 矢島さんも、セントラルからじっと目を離さない。逃がしはしない、許しはしない。そうセントラルに伝えるように。

 そしてそんな俺達二人の立場を理解したセントラルは――泣きそうな顔をしていた。


「そっか……僕はただ、二人にも、皆にも感謝を伝えただけなのに……いわば、君達は恩人じゃないか。それなのにその恩人と戦わなければいけないなんて……」


 両手で顔を覆い隠し、すすり泣くセントラル。


「そんなの……そんなの……!!」


 だが、こいつの腹の底は分かっていた。だから――俺達は何も言わなかった。


「ドキドキするじゃないか……!!」


 両手を広げ、笑うセントラル。

 そしてそれと同時に、俺達が立ちすくむほどの気迫が噴き出してきた。

 やはり、こいつは化け物だ。

 多分、あの【カナリヤ】よりも……!!


「いいことを教えてあげるよ。君達は試練をクリアしたことで、ここでも魔法を使えるようになった。僕と戦うつもりなら、遠慮なく撃ってくると良い……!!」

「行くぞ、矢島さん。これが、最後だ……!!」

「うん。こいつだけは、絶対に許せない……!!」


 俺達の最後の戦い、その相手は今まで以上に――強大だった。


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