第七十一話 セントラルの過去 後編
一年間、逃げ続けた。
けれど食べ物とか、情報を得る必要はあったから、何度か危険を冒して町に出入りはしていたんだ。
今はもうどうなっているかは分からないけど、その頃は割と楽に地方の町になら入ることは出来たんだ。
だけど、そんな辺境の町にまさか五色の賢者が来ているとは思わないじゃない。
びっくりしたよ。いきなり声をかけられたら賢者の一人だったんだもん。
それからは、町中で逃げ回ったよ。五人集まってしまったら僕の魔法は完全に封じられてしまうから、なんとか合流させる前に逃げ切ろうとしたんだけど……結局、捕まってしまったんだ。
その後はひどいもんさ。
僕は王様殺しの犯人だったからね。獄中では看守たちにいろいろと世話を焼かれたよ。一番は何だったかな……。いや、止めておこうか。まあ結局、囚人に対しては人権なんか無いって事が良く分かったよ。
そして僕は、王様殺しの罪で極刑を言い渡されたんだ。
まあ、当然だよね。僕もその時には死んだ方がマシだと思っていたからさ、さっさと絞首台の上に上りたかったんだけど、何故か賢者の一人が僕の処刑に反対しだしたんだ。
僕は勿論、他の賢者達や傍聴人も驚いてたよ。何言ってんだってね。
確か、『赤色』の賢者だったかな……。反対したのは。その後は、その賢者と他の人たちで言い合いになってね。一時僕の処刑は保留になったんだ。
で、結局、当時その赤色の賢者は結構な力を持っていたらしくて、強引に僕の処刑を取りやめさせたんだ。他の賢者たちも、渋々といった感じでその決定を飲んだんだらしい。
何で赤色の賢者が僕の処刑を取りやめにしたかの理由は置いておくよ。話から脱線してしまうし、もうよく分からないからね。
で、彼らは結局、僕をこの空間に閉じ込めることに決めたんだ。
「……この空間、遥か昔の五色の賢者が作り出した空間で、当時は腕試し的な感じで使われていたんだ。賢者たちに実力を示すための〈試練〉をクリアしたら、晴れて彼らの弟子になれるって触れ込みでね」
どうして彼らがそう決めたのかは分からないけど、ともかく僕はこの空間に閉じ込められた。……僕の〈試練〉に挑む権利を剥奪した上で、だ。
そしてこの空間……君達も分かっているように試練をクリアしないと外に出られない。その資格を持たない僕はこの場所から永久に外に出られなくなったんだ。
質の悪いことにこの空間、魔法が使えなかったんだ。いくら時空魔法を唱えても、今度は術式すら出てこなかったし、魂魔法も発動しなかった。
最悪な事に、僕は死ぬことすらできなかった。この空間は内部にいる者の時間すら止めた状態にしてまう。つまり……僕は老いることが出来なかった。
永遠に、この姿のまま生き続ける事になる……ああ、気が狂いそうだったよ。その事が分かった時は。
もう死ねないと絶望して……そして数年ほどたった頃だね。全てが始まったのは。
「多分、外で大きな地震が起こったんだろう。その影響でこの空間の一部……あの瓦礫の部屋が崩れ落ちて、僕は死んだんだ」
そこに寝ていたのは本当に偶然だったんだ。突然瓦礫が落ちてきて……僕は下敷きになって死んだ。
でも……それでも終われなかった。
「今の僕は……肉体を持たない、魂が具現化した姿なんだ。僕の肉体は、あの瓦礫の下に埋もれて、もう二百年くらいになるかな……」
この空間は、それでも僕を逃がしはしなかった。
魂だけの状態になってさえ、僕をこの場所に閉じ込めたんだ。
だけど幸運なことに……天井や壁がああやって剥がれてくれたおかげで、この空間を構成している魔法に触れることが出来るようになったんだ。
五色の賢者たちの封印は僕の肉体に対するもののみだったからね。魂だけの状態になった僕は、同じく僅かに使えるようになった魔法でこの空間を調べてみたんだ。
ただ……本当に少ししか魔法を使えなかったから、その全てを解析するのには時間がかかったよ。それこそ数百年、この空間を理解するのに費やしたんだ。
「そして数百年かけてこの空間から出る方法を探していたら……この空間に、小さな隙間があることが分かったんだ」
体が通るくらいのとかの隙間じゃなくて、外に魔法を伝えられるくらいの隙間さ。
その隙間からなら時空魔法を使えば脱出できると思ったんだ。けど、この空間の効力はそれ以上に強くて……僕は出ることは叶わなかった。
そうして最後に思いついた手段が……誰かを、ここに呼び寄せる事だったんだ。
時空魔法の応用さ。僕だけが異世界へと行けるわけじゃなかったんだ。別世界に誰かを連れて行ったり、時には何かを呼び寄せたりもしていたしね。
そしてその誰かに代わりに〈試練〉に挑んでもらって……外に出させてもらおうと考えたんだ。
「思いついたらすぐに行動に移したよ。それくらい外に出たかったんだ。そして僕は……時空魔法の代償として……僕の肉体を使って、誰かを呼び寄せるための時空魔法を唱えた」
瓦礫の下に埋もれていた僕の肉体は、代償として認められたよ。
問題は、誰が来るのかという事だったんだ。人間が来るのか、魔物が来るのか。この空間からじゃ、どの世界につながっているかが分からなかったからね。
そうして来たのが……君達だったんだ。




