第六十話 全てを懸けた一撃
「白川さん、矢島さん! 僕らは外に!」
「頼む三人共……! 出来るだけ多く、ドローンを引き付けてくれ!」
「高崎君、久木原君。あなた達も頼んだわよ!」
氷藤は白川さんと矢島さんを連れ、階下へ走り抜けていった。
その音に反応して、ドローンたちは一斉に外に出た氷藤達に光線を浴びせる。
さっき追われていた時とは比べ物にならない程の攻撃を魔法を使って何とか掻い潜りながら、三人はこのビル前の大通りをかけていく。
「アイスエッジ! 矢島さん! そっちにも!」
「ッ……! セイント・バースト!」
「もっと引き付けるわよ! 二人共走って!!」
そうだ。ここにいるドローンを出来るだけ多く三人の方に飛ばしたい。
俺は東悟と外の様子を交互に見ながら、その機会を伺っていた。
「まだいるな……! 東悟、まだ外には出れねーぞ……!」
「ああ。……だが早くしねーと【カナリヤ】の野郎が来る。向こうに行くだけじゃなくて建物を上らなけりゃいけねえしよ……。見ろ、多分五分もしねー内に来るぞ……!」
【カナリヤ】は止まることなくこちらに向かってきている。
東悟の言う通り、もう時間が無い。だが、今出ても残っているドローンに気付かれるだけ。かといってこのビルからでは片腕の破壊しか無理だ。
どうする。このままじゃ……。
「正真! お前のスマホを貸せ!」
その時、唐突に東悟が俺のポケットを指してそう言ってきた。
何の事か分からずに困惑していると東悟は強引にポケットからスマホを抜き取り、起動させた。
「うおっと……、充電ギリギリか。すまねえ正真、コレ壊すわ」
「おい!? 一体何を……」
「おらあっ!!」
東悟は大通りとは反対側の窓を開けて、スマホを持った手を高く上げた。
慌てて止めようとしたがもう遅く、俺のスマホは窓の外に勢いよく投げ捨てられてしまった。
「東悟!? お前なんで……」
「静かにしろ! もうすぐ音が鳴る!」
――ジリリリリリリりリ!!!!!!!
「!?」
「見ろ! ドローンの奴ら、反応したようだぜ!」
突然、耳をつんざくような高音がスマホの投げ捨てられた方向から聞こえてきた。
これは……アラーム音か! 東悟はアラームの音量を最大にして、俺のスマホを投げたのか。
そして、その音に外に残っていたドローンたちが反応した。
大通りを外れ、アラーム音が鳴っている方へと移動したおかげで大通りの上空を飛んでいるドローンが今いなくなった。
「! 今なら……」
「ああ! 行けるぜ、正真! 〈武装〉!」
東悟は〈武装〉した状態で窓から飛び降た。
俺達が今いた場所はビルの三階だったから俺はその行動に驚いて東悟を見たが、どうやら本当に落下の衝撃は無いらしい。怪我をしたような素振りもなく、猛スピードで大通りを横切り、反対側の建物へと辿り着き、中に入っていった。
「よし! これで……!」
準備は完了した。俺も急いで階段を駆け上がり、屋上へと向かう。
ドローンはアラームの鳴っている場所を特定したらしく、光線を滅茶苦茶に撃っていた。やがて音は聞こえなくなり、ドローンが飛んでいる音だけがまた俺の耳に聞こえてくた。
(ばれないようにしないと……!!)
チャンスは一度きり。【カナリヤ】にもドローンにも気付かれてはいけない。
屋上につながるドアを慎重に開け、上空を見渡す。良かった、ドローンはまだここにはいないらしい。
それを確認しすると、俺はドローンに見つからないように室外機と思われる部分の下に隠れた。
(よし。後は……魔力を……!)
バレット・サードの威力を上げるため、俺は魔力を込める。
バレット・サードは俺の他の魔法と違い、いきなり放つことは出来なかった。
ある程度魔力を溜める必要があり、そうでなければ放つことも威力を向上させることも出来ないようなのだ。
【カナリヤ】が来るまであと二分ちょい。それくらいあれば、魔力を溜める時間は十分にある。
(失敗……出来ないもんな)
ドローンが再び上空に現れたため、俺は更に奥へと隠れて魔力を溜める。
そう、失敗は出来ない。この一撃を外せば俺達の命は容易く消し飛ぶ。
だから、ありったけの魔力を込める。この一発にすべてを懸ける。そう考えて。
(!! あと少しだ……)
気付けば、【カナリヤ】はすぐそこまで来ていた。
こうして近付いてみると、その規格外のデカさが良く分かる。怪獣映画に出てくる敵そのまんまのサイズだ。
だが、まだ撃つには早い。もう少し近付いてから……
(!? 暑ッ!?)
【カナリヤ】が曲がり角に差し掛かった頃に、突然周囲の気温が上昇した。
思わず声を上げそうになったが、口を朝得て何とか堪える。
額から汗が滲み出てきた。尋常でない暑さだ。
奴の周囲、そこだけが異様な暑さをしている。
それだけじゃない。その暑さの中に、僅かに魔力も感じる。
あの【赤】と同じような感覚だ。空気自体が魔力を持っている感じ。普通じゃあり得ないことだが、もしかしてこいつも……
(魔法が本体……ってことか……!?)
周囲に魔力が漏れてしまうほどの、超高密度な魔法。それによって作られた生物。それがこの敵ということになる。
だが、それでもやることは変わらない。【カナリヤ】はもう間もなくこのビルの前を通過する。
(行くぜ……! 東悟!)
東悟の姿を気にしている余裕はない。この暑さの中、敵の位置を確認するのだけで精一杯だ。
そして、ついに【カナリヤ】がその位置に到達した。
「バレット・サード!!」
「うおりゃああああ!!!!!」
隠れていた場所から飛び出し、全力で魔法を放つ。
向こうの建物からは、東悟のモノと思しき雄叫びが聞こえてきた。
タイミングはばっちりだ。そして、俺の放った魔法は――
「よし! 当たった!!」
光線の射出部分ぴったりに命中し、腕の装甲を破壊していく音が聞こえる。
「おっ……らあああああああああああ!!!!!!!!」
東悟の方を見ると、【カナリヤ】の腕、肘から先の部分までを最初の一振りで切断寸前にまでしたらしい。【カナリヤ】の右腕はそのせいでだらりと垂れてしまっている。しかし、東悟がそれで終わりにするはずもなく、腕に飛び乗ってもう一撃、完全に破壊しようと大剣を構えている。
「!! いけ!!」
俺の方も、バレット・サードが順調に敵の腕を破壊していた。もう射出部分である手の先は折れてしまっていて、光線は真っすぐに飛ばないだろう。
それでも、この両腕は落とす。さあ、これでお前の攻撃は――
『《救済》』
その言葉と共に、【カナリヤ】の破壊されつつあった腕から光が漏れ出し、俺達を襲った。




