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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第五話 氷藤の策

 熊が小屋の中に顔を出した。やはり、次なる獲物を追ってここまで来たようだ。

 熊は周囲を見渡して『餌』を探す。よし、俺にはまだ気付いていないようだな。

 それよりも先に、熊は目の前の()()に気が付いた。

 奴の目の前には、弁当が置かれていた。

 この弁当はクラスメートである西田ゆかりがここに来た時に一緒に持っていたものだ。


「さあ……! 食いつけ……!」


 熊は弁当を食べようと顔を近付けた。

 だが、その巨体が災いして、体が扉の縁に引っかかってしまっていた。

 そのギリギリの距離にある弁当に熊の口は届かない。熊は何とか体をよじって、少しずつ、弁当へと口を近付けた。

 そしてようやく食らいつこうとした、その瞬間。


(今だ!!)


 物陰から飛び出した俺は、レイピアで熊の右目を貫いた。


『ガ!? ガアアァアア!?』


 これが氷藤の熊殺し、()()の策。

 片目を貫かれた熊は悶絶し暴れまわり、小屋の扉を破壊した。

 それを見て、俺は急いで裏口から小屋を飛び出す。


「東悟! 今だ!!」

「おう! 任せろ!」


 ここからが()()の策。熊が暴れたことで、小屋の入り口は破壊された。

 だがそれは同時に、熊を小屋の中に入り込ませたという事だ。


「潰れやがれ!!」


 熊が来る少し前。東悟はあいつの身の丈ほどもある大剣を斧のように使って、小屋近くの木々をギリギリ倒れないようにしていた。

 そして今、最後の一撃がその木に向かって放たれた。

 音を立てて倒れた大木は、小屋の方へと向かい―


『ゴ!? ガアアァァ……』


 小屋ごと、あの熊を押し潰した。これだけやれば、無事では済まないだろう。

 熊の叫びを最後に、辺りは静かになった。

 隠れていた他のクラスメート達も顔を出し、晴れやかな顔で俺たちを見る。

 成功だ。あの熊を倒すことが出来た。これで……





――パラッ





「「「ッ!?」」」


 小屋の残骸が僅かに動いた。まさか。死んだはずだ。やめてくれ。

 そんな俺の願いを無視して、倒壊した小屋の中から白い熊が顔を出した。

 身の毛もよだつ程の、、叫びと共に。


『グ……グルオオオオォォォォ!!!!!』


 熊は、怒りに狂っていた。その感情を代弁するかのように、鋭い牙が俺達に向けられていた。

 そして、熊は左しか見えない視界で俺をギロリと睨みつけた。


『ガ……ガアアアア!!!』

「う!? まずい! 逃げろ皆!」


 瓦礫を押しのけて熊は俺に向かって突進してきた。

 先ほどまでの、のっそりとした動きではない。想像以上の速さで熊は俺へと迫ってきた。


「ぐッ!?」


 急いで逃げるが、当然振り切ることは出来ない。

 しかし、俺は走らなければならなかった。氷藤の()()の策。

 小屋を倒壊させて熊を殺せなかった場合の、正真正銘最後の作戦。その位置まで、全力で走る。


「うあああああ!!」


 怖い。死にたくない。でもそれ以上に、誰も死なせたくない。そのために、こいつを倒す。だから全力で()()()()めがけて走る。

 しかし熊は、俺のすぐ後ろまで迫っていた。


 

 

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