第五十八話 ビルの中で
街中を走り、安全地帯を探す俺達だが、その動きをドローンが見逃すはずがない。
最初は数機しかいなかったが、今はもう二機増え、計五機のドローンが俺達に光線を放ちながら追従してきている。
「正真! 頼む!」
「くそっ! バレット!」
「氷藤君! そっちにドローンが……!」
「任せてくれ! アイスエッジ!」
俺達は何とか魔法を使ってドローンの攻撃を掻い潜っているが、それもギリギリの状態。
今氷藤が一機のドローンを撃ち落したことで少し余裕が出来たが、このドローンから逃げなくては、【カナリヤ】に俺達の位置がばれてしまう。
「白川! お前が撃ち落せ!」
「ッ……! シャイニングエッジ!」
「セイント・バースト!」
「いいぞ! あと二つだ!」
「おし! 行くぞ正真!」
白川さんと矢島さんの攻撃でさらに二機のドローンが撃ち落された。残りは後二機。
光線を躱しつつ、東悟が大剣を地面に突き刺した。
「飛べ!」
「ああ! バレット・セカンド!」
突き刺された大剣の鍔の部分に足をかけ、俺は高く飛んでバレット・セカンドを唱える。
運良く、偶然二機とも重なってくれたおかげで一発で残りの二機を破壊することに成功した。
「よし!」
「走れ、高崎君! また来ないとも限らない! 今の内にどこかに身を隠そう!」
「なら皆! あのビルに! あそこからなら敵も確認できるわ!」
追ってきたドローンを全て破壊した俺達は、白川さんが指さした目の前にある高層ビルへ駆け込んだ。
すぐに階段を駆け上がり、窓から外の様子を見る。
「高崎君。身を乗り出してはダメよ。気付かれてしまう」
「っと……! 悪い。白川さん」
「それで……どうだ? アイツは見えるか?」
「もう少し上に行けば見えそうだけど……、ああ、最悪だわ。またドローンがいる」
白川さんに注意されて、俺は覗き込むように外を見る。
ここからじゃ【カナリヤ】の姿は見えなかったが、空には大量のドローンが飛んでおり、俺達を捜索していた。
慌てて身を隠すが、光線は撃ってこなかった。
「……まだ僕らを見つけてはいないようだね」
「ええ。さっきので私たちを見失ったってことでいいのかも。……でも、これで私たちはこのビルから出られなくなってしまったわね」
「閉じ込められたって事……?」
「おい、それまずくねーか? 俺達がこの辺りに居るって敵が分かっているんなら……」
そう、それが意味することは一つしかない。
「【カナリヤ】が来る……! あの光線でここら一体を消し炭にされたら、俺達は終わりだ……!」
「落ち着いて、皆。とりあえず上の階へ行きましょう。【カナリヤ】がどこにいるか、それを確認するために」
「さっきも言ったけど……どうやら、あのロボット自体は動きが鈍い。僕達も始めに居た場所から随分と走ってきたから、まだ距離がある。その間にどうするか決められるはずだ」
俺と東悟、矢島さんは慌ててしまい碌に考えを働かせる事も出来なかったが、白川さんと氷藤は冷静だ。現状を確認し、今できる最善の手を打とうとしてくれていた。
その頼もしい姿を見て、焦っていた俺達も少し落ち着きを取り戻せた。
「……すまない。二人共……そうだな。今は上に行こう」
「白川と氷藤の言う通りだな……悪い。パニックになっていた」
「落ち着いてるね……。やっぱり二人はすごいなあ……」
「……感想は後にして。静かに移動しましょう」
白川さんの指示通り、俺達は物音を立てないように慎重に階段を上った。
外のドローンは絶えず俺達を捜索しており、外から発見されないように物陰を移動して上階へと移動する必要もあった。
そして十数階程上った頃、ようやく、変化が訪れた。
「! 皆……来ているわ」
白川さんの指示で、俺達は身を低くする。
その体勢で外を見ると……カナリアが、遠くからこのビルの方に移動しているのが見えた。
「やっぱり……来ていたか」
「あの速度だと……あと十分くらいでここに来るわね。それまでに何か策を練らないと……!」
「氷藤! 何か思いつかねーか!?」
「すまない……。何も思い浮かびそうにない」
十分。それが、俺達に与えられた猶予。
それまでに現状を覆す策が思いつけなければ、問答無用の死が待っている。
「高崎君……あなたは?」
「……」
策なんて、これっぽっちも思いつかない。
氷藤や白川さんが思いつかない事が、俺なんかに思いつけるわけ――
――高崎……頼む……絶対、生き残ってくれ
「ッ……」
「高崎君?」
あの時太田川に言われた事……。
生き残ってくれ。そう言ってあいつは死んで行った。
野田もそうだ。あいつも俺に生き残れと……いや、『任せたぞ』と言って死んだ。
俺は……何をしている? 生き残る事を氷藤や白川さんに頼って……。
「納得、してくれねえよな……」
「正真、さっきから何ぶつぶつ言ってんだ?」
こんなんじゃ、俺なんかを見て死んで行った皆に申し訳が立たない。
俺は両手を開き、外のドローンに気付かれないくらいの音で両頬を叩いた。
「!? 高崎君。何して……」
頬は痛い。でも、甘ったれた考えを捨てるには、これくらいはやらなくちゃ駄目だ。
考えろ。皆で生き残るために。皆で帰るために。
「高崎君、急にどうしたの? 頬なんか叩いて……」
「……何か、心境の変化があったみたいだな。ありゃ正真の癖だ。……やる気を出す時の」
東悟は気付いてくれたらしい。
この最後の試練。生き残るため、必死に考えて一つ、思いついたことがあった。
「皆……」
「……何か思いついたようだね。高崎君」
「ああ。本当に、最後の博打だ。皆、聞いてくれるか?」