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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第五十六話 出発前の衝撃

 見抜かれていた。セントラルに、俺達の根源の思いを。


「分かるよ。僕だって死ぬのは嫌だから。いや、そうじゃないな。死とは()()だからね。僕は生きていたいなあ」

「敗北……? 何言ってんだ? お前」

「敗北さ。死んだら何も出来ないじゃないか。汚点と言ってもいい。僕にとって、死はこれ以上ない程の屈辱だよ」


 死とは敗北。死とは屈辱。

 それがセントラルの死生観。こいつは何よりも、自分の生を優先する考え方をしている。


「だから死者とは弱者を指すんだ。前にも久木原君に言ったでしょ? 人は皆何かに負けて死んで行くからね。寿命、病気、怪我、魔物……いろいろあるね。君達の仲間は扉の先に居た敵に負けたから死んだんでしょ?」


 セントラルは扉のある方向を指さし、皆を弱者と切り捨てた。

 俺と東悟はその物言いに我慢できず、セントラルに口角泡を飛ばす。


「セントラル、口を閉じろ!! 死んだ皆は決して弱者じゃない!!」

「知った風な口をきいてんじゃねえぞ……!! 今度は本当にぶった切られててえか!?」

「そんなに熱くならないでよ。……ひょっとして図星?」

「ッ……!!」


 もう、我慢の限界だった。セントラルを掴む手にはさらに力が入り、空いた方の拳は硬く握りこんでいる。

 俺達が何を言っても、こいつはヘラヘラとしてその態度を変えない。

 その顔が目障りで、殴りかかろうと大きく振りかぶったとき――


「――やめておいた方がいい。高崎君」

「氷藤!? 何で……」

「久木原君もだ。もう、試練の前だ。こいつに魔法でも打たれたら、大変じゃないか。……だから、殴るのはよした方がいい」

「ぐ……! だけど氷藤! お前はどうなんだよ!? あいつの言葉、お前は我慢できるのかよ!?」

「僕だって……死んだ皆を馬鹿にされるのは辛いさ。けど、今の敵はこの男じゃない。僕達が戦うべき相手は、【カナリヤ】だ」

「えっと……そろそろ、手を放してもらえる?」


 氷藤に諭され、振り払うようにセントラルから手を放す。

 確かに、氷藤の言う通り、セントラルの攻撃を受けてしまえば今日の試練に支障が出て、皆に迷惑をかける事になる。

 それだけは、確かに納得できる事だった。

 だが、何よりも納得できないのは、氷藤がセントラルを否定しなかったことだ。

 俺達がセントラルと言い合っている間、こいつは黙ってそれを見ているだけだった。


「けほっ……! いや、慣れないね、こういうの」

「氷藤……お前、何を考えている?」

「言ってる意味が分からないな、高崎君。僕は別に変なことは……」

「何で俺達がこいつに詰め寄ってる時、お前は何も言わなかったんだ?」

「……」

「氷藤! 答えろ!」

「あー、ちょっといいかな?」


 氷藤は、だんまりを決め込んで答えない。

 その理由を追及していると、今度はセントラルが話に割り込んできた。


「何だよ!? 今話しているだろうが!!」

「いや、僕が代わりに答えようと思ってさ。……氷藤君って、案外僕と似た考えをしてたんだよ」

「!? 何言って……」

「だからさ、氷藤君は皆が死んだことにさほど心を痛めていないって事だよ」


 唐突に、セントラルの口から語られた言葉。

 俺と東悟はその言葉に驚愕し、氷藤を見る。

 嘘であってほしい。そう願う。お前が仲間の死に何も感じていない。そんな話は、セントラルのでっち上げであってほしいと願って。

 だが、氷藤は俺達の思いを裏切るかのように……ただ目を逸らした。


「!? 氷藤! 何か言ってくれよ! おい!」

「おい……今の話マジじゃねーよな……!?」

「マジもマジ。大マジだよ。彼の態度がそう言ってるじゃない」


 セントラルの話など耳に入らない。

 信じられなかった。こいつが、セントラルと同じ考えだなんて。

 氷藤の肩を揺らす。何か答えてほしかった。ここまで一緒に戦ってきたこいつに、俺達を助けてくれたこいつに、反論してほしかった。

 しばらくそうやって揺らしていたら、氷藤が力なく口を開いた。


「……違う」

「! 氷藤! 今なんて……」

「僕とお前は、違う……」


 あまりにもか細く、弱々しい声。まるで、無理やり放り出したような声だった。


「お前となんて……」

「まあ、そうだね。正確に言えばただ一点、僕と氷藤君は違っていたからね。……おっと、そろそろ出発の時間じゃないか?」

「あ、高崎君達、ご飯は食べ終わった……。えと、何かあった?」

「氷藤君、あなたはどうしてそんなに元気が無いのかしら?」


 矢島さんと白川さんが扉の先から帰ってきた。

 二人は、試練の為に俺達がここに居る間に森の中で調整をしていた。今、ようやく帰ってきた所だった。

 そんな二人に、試練の前にも関わらずこんな場面を見られてしまった。


「……いや、少し緊張していただけだ。問題ないよ、白川さん」

「!? 氷藤、お前……」

「……彼女達には心配をかけたくない。僕の方は大丈夫。決して、あいつと……セントラルなんかと僕は同じじゃない」


 突然、氷藤はいつもと変わらない表情を見せ、白川さんに問題ないと伝えた後、その急激な変化に驚く俺と東悟に小声でそう説明した。

 だが、その説明をする際の言葉には、いつもの氷藤らしい感じがしなかった。

 

「……そう。少し休憩したら、今度こそ出発しましょう。高崎君達、今の内に準備は済ませておいてね」

「そういう事だ。高崎君達も、心配しなくていい。僕は君達の『仲間』だよ」


 仲間、という部分を妙に強調して、氷藤は俺と東悟を後にした。

 残された俺達は、氷藤の事が分からなくなり、ただ困惑していた。


「――皆、揃ったわね。それじゃあ……気合を入れて」


 十分後、氷藤が戻ってきたのを確認した俺達は、最後の扉の前に居た。

 戦いの前。皆の表情は戦意と緊張が半々と言った様子だった。


「……氷藤」

「高崎君。僕も、終わったら君達に話すよ。……だから今は、さっきの事は忘れてくれ」


 ちらりと横に居る氷藤を見て名前を呟くと、どうやら向こうも聞こえたらしい。

 僕も、皆に話す。それはつまり、俺達に言えないこと、隠している事があったという事だ。

 その事に俺はショックを受けるが、それでも、こいつは話すと言ってくれた。ならば、信じるしかない。


「いいわね? ……準備は出来たかしら?」

「ああ。この戦いを終わらせよう」

「うん。絶対に勝とうね、皆」

「おしっ!! 気合十分だ!! いつでも行けるぜ!!」

「高崎君、あなたはどう?」


 皆、覚悟が出来たらしい。

 俺は頬をぺチリと強く叩き、笑顔で皆に返す。


「オーケーだ。生きて帰ろう。皆」


 その言葉で、俺達は最後の戦いの場へと赴いた。


 

 



 

 




「これが、最後の戦いか……。見せてもらおうか。高崎君。君がどのような『答え』を出すのかを」


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