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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第五十五話 喧騒

「あ、高崎君達。おは……」

「正真……? あん時俺の顔に”筋肉ダルマ”って書いたの、てめえだったのか? ああ?」

「知らねえよ……! んな事より、お前の鞄からちらりと見えた、『モテるための七つの法則』について話し合おうじゃねえか……!」

「おい!? 何でそれを知ってやがる!?」

「待ってくれ。そんな事より、僕はクラスの皆に”能面陰キャ”なんて呼ばれていたのか? 教えてくれ。”急ダッシュ顎強打”君、”むっつり番長”君」

「氷藤! 今なんて言いやがった!? 殴られてえか!?」


 朝。そう、多分朝だろう。

 矢島さんと白川さんが欠伸をしながら部屋からやってきたのだから。

 俺達は今日、最後の試練へと挑む。

 今日で、戦いの苦痛から逃れられる。その筈なのだが、敵とは案外近くに居るもので、昨晩からこいつら二人との死闘が続き、俺は一睡もしていない。


「これは……何があったのかしら? 教えて。高崎君」

「後にしてくれ! 今は、この二人に俺の不名誉なあだ名を連呼させるのを止めなければいけないんだ!」

「は……?」

「おい! 東悟! 氷藤を黙らせろ! こいつが一番俺らを馬鹿にしていやがる!!」

「そんな事は無いよ。ただ、高崎君。”エンドレスマイムマイム”君に僕を殴らないように言ってくれないか? さすがに怖いんだ」

「正真!? てめえ、いつ話しやがった!? 秘密だって言っただろ!?」

「えと……三人共、そろそろやめた方が……」


 俺達がいよいよ取っ組み合いの喧嘩を始めようとした時、突然ぶわっと悍ましい気配を感じた。

 直後、光の斬撃が俺達三人の眼前を掠めるように通過した。

 その斬撃は、俺達を殺害しようとする意志の元に実行されたものではなく、怒り、警告と言った意味の強い斬撃だった。

 いずれにしろ、その惚れ惚れする程に恐ろしい斬撃によって、俺達男共のくだらない諍いは終幕した。


「……いい加減にしてくれるかしら。今日、試練に挑むって分かっていたでしょ? なのに、朝から仲間割れかしら? 高崎君、こんなのでよく今日挑もうなんて言えたわね」

「……すまない」

「久木原君と、氷藤君もそうよ。私達にとって、今日がどれほど重要な日か分かっているのかしら?」

「ああ……返す言葉も無えよ」

「僕としたことが……ああ、甘かったよ」

「まあ……仲が良いのは分かったわ。とりあえず、出発の時間は遅らせましょう。皆眠って。少しでも、体力を回復するの」

「ああ。本当にすまなかった、白川さん。おい、東悟、氷藤。もういいだろ? さっさと眠るぞ」

「そうだな……今からなら、三、四時間は寝られるな」

「戻ろう。……そして備えるんだ」


 試練に挑むのは昼あたりにしてくれたから、今からでも休息はとれる。

 不甲斐無さを反省しながら、俺達は部屋へと戻った。


「”急ダッシュ顎強打”……プフッ……」

「え? 白川さん……」

「何でもないわ。忘れなさい。矢島さん」


 俺も眠かったんだろうな。白川さんがそんな事で笑う訳がないのに。

 最後にそんな気がして、俺は意識を手放した。

















「おはよう……って、そんな時間じゃないね。こんにちは、になるのかな?」

 

 俺達男子が大広間で遅めの朝食を食べていると、セントラルが瓦礫のある部屋から出てきた。


「聞こえてたよ。色々なあだ名があるもんだねぇ」

「何の用だ。悪いが、もうふざけている余裕は無いんだ」

「消えろ。てめえを見てると飯がまずくなる」

「あれ? なんかまだ楽し気な空気が続いている気がしたけれど、僕の気のせいだったのか」


 昨日のように、静かなセントラルじゃない。

 俺達と初めて出会った時のような、薄気味悪い笑みを浮かべている。

 俺は、そちらの方がこいつを変に勘繰らずに済んで、むしろありがたかった。昨日のような、静かに思案している姿や苛つきを見せる姿は、そんな姿とはかけ離れていて、不自然だったからだ。


「それでさ。君達。ぶっちゃけどう考えているの?」

「……何の話だ」

「最後の試練さ。皆生き残ってクリア……そんな事、あり得るのかなあ?」

「何が言いたい? 誰かは死ぬ、とでも?」

「そうだね。絶対に誰かは死ぬ」


 その時、反射的に体が動いた。

 セントラルの服の襟元を掴み上げ、睨みつける。

 ちょうど、最初に出会った時のように。

 あの時は俺に掴まれてひどく驚いていたセントラルも、二回目ともなれば多少動揺する程度の反応しか示さなかった。


「あはは。また君に掴まれちゃったね」

「おい……! あまり、ふざけた事は言うなよ。誰かは死ぬ? いいや、俺達は全員で生き残る」

「そう言い続けて、何人死んだかな? ……本当は分かっているんでしょ? この先に居る敵。それは、今までとは比べ物にならないって」


 セントラルは、最後の扉である黄色い扉を指さした。


「黒い扉の先に居た敵が言ってたんでしょ? 自分よりも強いって。君達はそこで三人死んだじゃない。だったら一人か二人は……」

「黙れ!!」


 声を荒げる。

 認めるわけにはいかない。こいつの言う通りであったと。だから、怒鳴る。

 この先に居る敵が一番の強さだなんて、試練に挑んだ俺達が一番分かっている。

 今までも、多くの仲間が死んでしまった。救えなかった。

 だから、今度こそ。その思いで最後の試練に挑もうとしていたのに。


「黙るわけにはいかないな。言っちゃいなよ。……本当は怖いってさ」

「てめえ……セントラル! 何言って……」

「君達もだよ。誰かは死ぬ。でも、自分だけは生き残りたい。……そう考えているんでしょ?」


 ここに来て、こいつは見透かしてきた。

 心の奥の、底の底。

 そこにある、俺の願望……本能、と言っていいのかもしれない。

 生きたい、死にたくない……そんな考えを。


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