第四話 決意の瞬間
「氷藤!! 佐藤さんが熊に殺された!! こっちに来てる!!」
三原雄大が息を切らして蹴破るように扉を開けてそう叫んだ。
続いて、恐怖に震える顔で残りのクラスメートたちが入ってきた。
俺は唇を噛んだ。アイツだ。あの熊がまた一人、命を奪った。
そして、怯えて逃げてきたクラスメート達の雰囲気がさらに恐怖を伝染させ、周囲はパニックに陥った。
「お。おい……佐藤が死んだ? 冗談だろ、なあ!?」
「いや……いや……もう嫌よ!! 死にたくない!!」
「落ち着いて!! 皆いる!?」
「逃げよう!! 氷藤!! 早く!!」
「ま…待って!! 皆。……佐藤ちゃん……」
野田、白川さん、矢島さんも困惑しているようだ。
だが、騒いでいる場合じゃない。あの熊がこの小屋に近付いてきているのなら、早く逃げないとまた誰かが死んでしまう。
俺が全員に向かってそう伝えようと時、氷藤が俺の肩をたたいた。
「高崎君。……あと、久木原君。ちょっと来てくれ」
「なんだ、氷藤!? 今はここから出ないと……!!」
「分かっている。だが、僕は全員逃げられるとは思わない。熊は僕らをどこまでも追いかけてくるかもしれない。だから最悪、戦うことが必要になる」
氷藤は冷静に俺に語り掛ける。こんな状況でも焦りを見せないこいつに少し恐怖を感じてしまう。
「馬鹿言ってんじゃねえぞ。アイツと戦う? 相手は人食い熊で、バカでっかい奴だぞ。……それとも何か勝算でもあるってのか?」
「ああ、これを見てくれ」
久木原が質問すると、氷藤は机の下から何かを取り出した。
「……これ、剣か?」
「多分、正確にはレイピアと呼ばれるものだね。なんでかは分からないけれど、この小屋に置いてあったんだ。それともう一つ、小屋の裏に大剣も立てかけてある」
「おい……まさかそれであの熊と戦おうってことか……?」
「そうだ。全員生き残るには、力を合わせてその熊を倒すしかない」
馬鹿げている。無理に決まっている。案の定、聞いていた他のクラスメート達からも同じ意見が飛んできた。その時、あの熊の声が聞こえてきた。
『グガアアアアアァァァァ!!!!!』
「「「!?」」」
近い。すぐそこにいる。これだけ近いと、誰かは絶対に捕まってしまう。
俺は机上のレイピアを見た。こんなものを使ったことはないし、あの熊を殺せるとは到底思えない。
だが、もう他に道はなかった。ああクソッ!!
「氷藤! 皆! もうここまで来たらやるしかない!! 協力してくれ!!あの熊を倒す!!」
一瞬場が静まり返った。無理か。やはり皆無理だと思ったか。だが、頼りになる親友はここでも俺を助けてくれた。
「……氷藤。どこに大剣がある? 案内しな。俺が使う」
久木原がそう言って氷藤と、その場の全員を見る。
「……何をすればいいの?高崎君」
「やらねえとどのみち死んじまうかもだからな……。俺もやるぞ!」
白川さんと野田も続く。それに触発されて全員が協力を申し出た。
「ありがとう。皆」
俺はそう言ったが、作戦なんてものは無かった。ただ手元のレイピアを使うことしか頭になかった。その時、氷藤が再び俺の肩を叩いた。
「……高崎君。まさか、無策で挑んだりしないよね?」
「じゃあ思いつくのかよ。相手は3メートルクラスの大熊だぞ」
俺はそう反論するが、氷藤はそれを聞いて微かに笑った。
「もちろん。元はと言えば僕が言い出しっぺだからね。それじゃあ、熊狩りと行こうか」