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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第四十八話 立ち上がる理由

「ッ……江藤さんッ……!!」

「あ……」


 【黒】が再び現れた時、俺は江藤さんを助けようと走り出した。

 だが、それはあまりに遅かった。


『《激震》』


 その呟きと共に、刀が勢いよく振り下ろされ、衝撃が直線的に地を伝う。

 先頭にいた江藤さんは、その衝撃波に巻き込まれ、消えた。


「うおっっ!?」

「これは……」

「ッ……なんて威力だ…」


 俺達も巻き込もうと放たれたその衝撃波を横に飛ぶことで回避する。

 俺と東悟、氷藤は右へ、野田は左へ飛んで躱す。

 そして、俺達を通り過ぎた衝撃波は建物を、真っ二つに切り裂いた。


「!! 三人共!! 上だ!!」


 轟音が響く。この建物が倒壊する音。

 そして、俺達が飛んだ位置はまずかった。先ほどの作戦で不安定になっていた天井が、今の衝撃で一気に崩れ、俺達に落ちてきた。

 野田が叫ぶ声が聞こえる。

 懸命に立ち上がろうとする。だが、逃れる事は出来ず、俺達は落下してきた無数の瓦礫の山に飲まれてしまった。











(矢島玲香)


「きゃあっ!?」

「うおっ……!? なんだ今の!?」


 あと少しで、【黒】と戦っている高崎君たちと合流できる。

 そう思って廊下を曲がった私達三人の目の前で、強い衝撃と共に、いきなり建物が壊れ始めた。


「これは……?」

「急ぎましょう!! まずい事になっているかもしれない!!」


 あまりの出来事に私と浅尾君は動揺して足を止めてしまったけれど、白川さんはすぐに走り出した。

 一瞬遅れて、私も走る。そうだ。何が起こっているか確かめないと。

 氷藤君の作戦は、上手くいったのかな。天井と床を破壊するとは聞いていたけど、これ程までに派手に壊れてしまっているのは、どうしてなんだろう。

 嫌な予感がする。心臓がバクバク鳴って、止められそうもない。

 

「……!! 野田君!!」

「ぐ……ッ……!! 白川……!!」


 大広間があった筈のその場所は、そんなものがあったとは思えない程に跡形もなく消し飛んでしまっていた。

 そんな瓦礫だらけの場所で、野田君が血まみれになりながら、【黒】の前で倒れていた。


「野田君! 他の人たちは!?」

「江藤は……死んだ。高崎と久木原、氷藤は……その下だ」


 そんな……江藤さん……。目をギュッと閉じる。また大事なクラスメートの一人が、消えてしまった。

 でも、野田君は私たちの反応を無視して、口から血を吐きながら瓦礫の下を指さした。その下に、高崎君達がいると言って。


『命拾いしたな、小僧。こやつ等が来なければ、数秒の後にそなたを切り伏せていた。最も、それも長くは持たぬが』

 

【黒】は刀を持ち直して、野田君に切りかかった。

 体に着けている甲冑は所々に傷がついて、腕からは多少流血も見える。

 ダメージは与えられている。でも、倒せていない。作戦は……失敗した。


「くっ……アクセル!!」

『! ほう……あの男には及ばぬが、なかなかよい筋をしておる』

「ッ……矢島さん!! 野田君を回復して!!」

「う、うん! 野田君! ちょっとじっとして……」

「……何している?」

「え?」

「何してんのかって聞いてんだ!」


 野田君は、回復魔法を唱えようとした私を怒鳴りつけた。

 語気を荒げたことで、また口から血が吐き出された。地面についた色が悪く、誰が見ても治療が必要なのに。


「こっちの台詞だ! おい、矢島さん、回復……」

「俺の事はいい……。二人共、瓦礫の中からあの馬鹿三人を助け出せ」

「待ってよ!? そんな事したら野田君は死んじゃうんだよ!?」


 絶対に、そうだ。この重傷。野田君はもう正しい呼吸が出来ていない。目も虚ろだ。

 一人で【黒】と戦って、全身を切り付けられた。それなのにまだ息があるという事の方が奇跡かもしれない。


「黙れ……俺は、前で戦ってるんだぜ。まだベンチに引っ込む訳にはいかねえんだよ……」

「ちょ、ちょっと、野田君!? 何処に!?」

「白川……一人じゃ……もたない。おれも、戦って……」

「野田、そんな体で……死ぬぞ!!」

「うるせえ……いけ!!」


 私たちの手を振り払って、野田君は立ち上がった。けれど、その足取りは普通じゃない。足を引き摺る様に【黒】と戦う白川さんの元に向かい、魔法を唱えた。


「ロック……ブレイク!!」

『……! そなた、まだ動けたか』

「ッ!? 野田……君!? あなた何を……?」

「俺……は……生きて帰るため……に……戦ってるんだぜ。だか……ら、俺の回復なんか……より、高崎達……を……!!」


 野田君の魔法に【黒】が反応した一瞬の隙をついて、白川さんは距離をとった。

 肩で息をしていて、明らかに限界そうな顔をしている。でも、そんな状況でも、白川さんは回復を拒否した野田君を驚愕の目で見ていた。

 そして、それは【黒】も同じだった。

 どうしてまだ動けるのか、理解できない。そんな感じで野田君を見ていた。


「俺……が時間を稼ぐ。だから、お前ら……、急げ!!」

「ッ……!!」

「野田……」


 有無を言わさぬ、野田君の言葉。

 さっきまでフラフラと倒れそうだったのに、私たちに叫んだ瞬間から、しっかりと大地を掴んで立っていた。


「……分かったよ」

「!? 矢島さ……」

「野田君に、あそこまで言われたら……やるしかないよ。行こう。浅尾君」


 でも、と私はその先を続ける。


「すぐに高崎君達を助けて回復させるから……。だから、死なないで。野田君」

「ッ……!! そうだ、絶対に死ぬなよ、野田!!」

「……ああ」


 それだけ言って、野田君は敵の方を向いた。

 私たちも、もう野田君を振り返らずに瓦礫のある方へと走る。


『解せぬな。何故立ち向かう? あの小娘に回復してもらえれば、死なずに済んだというのに』

「……はは。自分でも驚きだ。けど……」


 その先は、よく聞こえなかった。きっと、白川さんと【黒】にしか聞こえない程の、か細い声だったから。


「ようやく、皆に恩が返せるんだ。だから俺は、寝ている場合じゃないんだ」


 野田君の目は、ただじっと敵を捉えていた。

 



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