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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第三十八話 野田隆介

「お、おい、氷藤……?」

「……」


 氷藤は何も答えない。ただ去っていくセントラルの後ろ姿を憎々し気に見ているだけだ。

 

「すまない。すこし、一人になりたい」


 氷藤は俺達を見もしない。ただ一人で、白い扉の方向へと歩いていく。

 付いてくるな。そう言っている気がした。

 扉を開けて、氷藤は森の中へと消えていった。


「……どうしたんだ? あいつ?」


 その場には、俺と東悟、浅尾、野田が取り残された。

 昨日はごめんね。セントラルは氷藤にそう謝った。それに対する氷藤の反応は、見ての通り。

 俺達から離れていく氷藤を引き留めることは出来なかった。


「あ。皆、戻ってたんだ」


 氷藤とは入れ違いで、女子三人が帰ってきた。

 洗濯だけではなく、水浴びもしてきたようで、髪に艶が戻っていた。

 俺達も軽く体を洗ったが、どうして女子はこんなにも見違えるように綺麗になるのか、理解できない。


「氷藤君は? 一緒じゃないの?」


 矢島さんが俺達を見て、氷藤がいないことに気付く。

 まだ乾ききっていない髪が、ゆったりと動いた。

 俺が女子に経緯を説明すると、白川さんが重苦しそうに口を開いた。


「……そう。心配ね。氷藤君、あまり自分の事を話さないから」

「氷藤君、セントラルと何を話したんだろう?」


 きっと何かあったのだとしたら昨日、あいつが部屋に帰る前だろう。あの時氷藤は俺に先に帰ってくれと言っていた。そしてその時の目線は……あの瓦礫の部屋の前。

 俺と分かれてから、その部屋でセントラルと何かを話して、何かが傷ついた。


「氷藤があんなに怒るんだ。余程のことがあったんだろう」

「セントラルがごめんだとよ。不気味な事もあるもんだな、……気になるぜ」


 そう、そこも引っかかる。セントラルが、素直に俺達に謝ったのだ。

 出来ない、教えられない、話せないといった時にもよくあいつは「ごめんね」と口にする。

 だが、今回はそれらとは違い、本心から氷藤へ謝罪していたように見えた。


「氷藤君の事は気になるけれど、今はあれについて話しましょう。次は、私達にとって重要な戦いになるから」


 氷藤を心配する俺達の空気を切り、白川さんは四つ目の黒い扉を指さす。

 残る扉は、あと二つ。黒と黄色の扉。そこを乗り越えれば、この戦いから俺達は解放される。

 そして、次の戦いは、俺達が地球に、日本に帰れるのか? ……その答えをセントラルから引き出すための戦いだ。

 出来る。そうであってほしい。その答えを知りたい。それを知るためには、次の戦いを何としても生きて突破しなければならない。


「後で、氷藤君には話すわ。いろいろ決めましょう」

「四つ目か……またあの霧みたいなのは御免だぜ」

「今度は、何が出てくるんだろう……」


 試練に挑むたびに、扉の先に居る敵は俺達の予想を上回ってきた。

 人食いの熊、高速で飛ぶ龍、体内に入り込む霧。どいつも、一筋縄ではいかなかった。一歩間違えれば、死んでしまっていた。

 そして四つ目。今まで以上の強敵がその先で待っている気がした。


「陣形は……あの館で話した通りでいいわね? 私と久木原君が前に。高崎君と氷藤君、野田君で――」

「いや、白川。俺も前だ」


 今まで黙っていた野田が、突然口を開き、白川さんの話を遮った。


「頼む。お前らだけに前を任せる訳にはいかない」

「けど、野田君。あなたは……」

「ああ。俺は武器は持ってねえ。だけど、この足がある」


 屈んで足をパンと叩く野田。その口調は、失っていた活力を取り戻していくようだった。


「高崎に言われたんだ。一緒に戦ってくれってな。そんな俺が一番輝けるのは、やっぱり前しかねえ。中盤でボール取るの苦手なんだ。俺」


 野田のポジションは、フォワード。前線でボールを受け、ゴールに持っていくのが仕事だ。

 こいつにとって、中盤は自分の能力を活かしにくいのだろう。火力を持ち、機動力もある野田が前線のサポートに徹するというのは、確かにもったいない気がした。


「それに前にいても……明人と一緒に戦ってきたんだ。連携もうまくできる。だから頼む! 俺を、前線にあげてくれ!」

「野田……」


 そう言って野田は白川さんに頭を下げる。

 野田は、今必死に俺達の力になろうとしている。かつて自分の油断で仲間を死なせてしまい、親友も失ってどん底にいた野田が立ち上がろうとしている。

 

「分かったわ」

「!!」

「野田君の魔法は強力だもの。出会って、一撃で……なんてことも出来るかもしれない」

「……ありがとう。白川」


 野田は顔を上げ、白川さんに感謝の言葉を伝えた。

 その姿には暗い部分は一つもなく、晴れやかな、生き生きとしたエネルギーに満ち溢れていた。

 

 

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