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時空(じくう)の旅人  作者: 抹茶
第一章 始まりの空間
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第三十七話 アドバイス

「正真。野田を放っておいていいのか?」


 乾いた制服を着ながら、東悟が俺を見る。

 もう一度戦ってくれ。俺がそう言った後、野田は


「……考えとく」


 とだけ零し、それ以上は何も言わず、ずっと一人で考え込んでいた。

 今は、自分の制服が程よく乾いたのを確認して、俺達から遠ざかるような場所で着替えを進めている。


「任せていいだろ。いつかは元気になるだろうしな」

「そうか? まだ悩んでいるように見えるけど……」

「あいつを、信じよう」


 まだ野田の事は心配だ。でも、他人が出来ることは限られている。

 結局、ショックから立ち直れるかは本人次第なんだ。


「……」


 だが、俺には野田よりも心配な男がいた。

 氷藤蛍士郎。この数時間、こいつだけが一言も発していない。

 何か危うい雰囲気を俺は氷藤に感じていた。











「――やあ、おかえり」


 戻ってくると、セントラルが扉の前で待機していた。

 ここにきて、俺達に話しかる頻度が増えた気がする。


「女子はまだ帰ってきてないよ。……ノゾキに行かないの?」


 最後の部分を小声で、屈むような仕草で伝えてきた。


「……んな事しねえよ」


 心の奥底、さらに深い部分では、確かに興味はある。

 しかし、出発前、白川さんが「まさか無いとは思うけど……、もしやったら、どうなるかわかっているわよね?」という目つきで俺達男子を睨んでいた。ついでに、腰元のレイピアも軽く撫でていた。

 その末路は、想像に容易い。


「お前がやるって言うんなら、ぶん殴ってでも止めるがな」

「あはは。そうだね。でも残念なことに、僕はその先には行けないんだ」

「……え?」


 東悟の忠告に対する、セントラルの予想外の回答。


「僕は、その扉の先には入れないんだ。だからずっとここに居たでしょ?」


 確かにそうだった。俺達が扉の先で話をしていた時や魔法の練習をしていた時も、こいつだけはずっとこの空間から出たことは無かった。


「そう言えば……お前、食事とかはどうしてるんだ? 何か食べている時とか見たことないぞ」

「……僕の魔法は結構便利でね。何も食べなくても大丈夫なんだ」


 一瞬言葉を詰まらせたように見えたセントラルは、浅尾の質問にそう答えた。

 セントラルの魔法。俺達はそれを知らない。俺達を呼び出したり、魔法を使えるようにしたり、東悟を吹き飛ばしたり、敵を感知したりできる魔法。どうやら、その魔法を使えば飲まず食わずでも問題ないらしい。

 一体、どんな魔法なのか。それが気になった。


「……他に、どんな事が出来るんだ?」

「さあね。大抵のことは出来ると思うな。僕の魔法は特別だから」


 『魔法芽』を発芽させる時に、こいつの言っていたことを思い出す。

 人の魔法というのは、その『魔法芽』によってその種類が決まる。本人の才能、努力次第でそれを成長させることは出来るが、本体は一つだけ。つまり、本質的には人間は一つの魔法しか使えないらしい。

 その幹から枝葉が広がるように、根ざすように魔法が分化し、多くの魔法が使えるようになるのだという。


「特別……?」

「それは教えないよ。あ、魔法と言えば、皆に伝えときたい事があるんだ」

「伝えときたい事?」

「ヒントみたいなものさ。……新しい魔法のための」


 俺が聞き返したことには答えず、セントラルは別の話へと移った。

 セントラルが「伝えたいことがある」といった時、一瞬、氷藤の目が見開いたような気がしたが、その後の言葉を聞いて、落ち着いたように息を吐いた。


「新しい……魔法……」

「聞いたよ。高崎君。イメージが新しい魔法につながる……だっけ?」

「……そうだが」

「半分正解で、半分ハズレだね。イメージは必要だよ。けどね、新しい魔法を生み出したいなら、もう一つ重要なものがあるんだ」

「何だよ? それ」

「『魂』さ。いや、イメージよりも大事かもしれないね」


 セントラルは自分の胸元に手を当てる。いつもの君の悪い笑みを浮かべた顔ではなく、真剣に俺達を見据えている。

 しかし、魔法と『魂』。それに何の繋がりがあるのか、俺達は誰も分からなかった。


「何の関係があるんだよ? その『魂』が。魔法と」

「言ったでしょ? ヒントだって。君達に教えるのは、これでお終い。……まあ要するに、ちょっと意識してみろって事だよ。『魂』を」


 それ以上はセントラルの口から語られなかった。

 セントラルは真剣な表情から再び憎々しい笑みを浮かべた顔へと戻った。


「ああ、それと氷藤君」


 話を切り上げ、俺達から離れようとしていたセントラルが急に何かを思いついたように振り返り、氷藤の名前を呼んだ。

 沈黙を保っていた氷藤は、名前が呼ばれた時にピクリと体を跳ねさせた。


「昨日は、ごめんね。少し言い過ぎたよ」

「……黙れ」


 その瞬間、氷藤の纏う雰囲気が一変し、セントラルを射殺さん勢いで睨みつけた。いつも表情の変化に乏しい氷藤が、今は顔を赤くし、血走った目をしていた。


「あらら。怒らせちゃった? じゃあね」


 それを見て、逃げるようにその場を去るセントラル。

 要領を得ない俺達は、ただ氷藤の怒りに呆然とするしかなかった。

 

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