第三十話 恐怖と懇願
「三原……!!」
「クソッ……」
俺達の目の前で、また仲間が一人、死んだ。
三原の姿を見て、俺は拳を握る力を強める。
「高崎君、今……何か三原君に入っていかなかった?」
どうやら、矢島さんも見ていたようだ。
西田さんの体から出てきた、奇妙な煙。それが三原に入り、死んだ。
その西田さんは、さっきの動きが嘘のように、廊下に倒れて動かない。もしあの煙が今回の敵なのだとしたら、今は……三原の体の中にいる。
俺は、慎重に三原の体に近付く。
「おい! 高崎、何を……」
「敵の正体を、掴めるかもしれない。そして多分……三原の体にそいつがいる」
「……危険すぎる。また襲われるかもしれないよ」
野田と氷藤が、俺を引き留めようとする。
危険は承知だ。だけど、今敵は目の前にいる。三原の中に潜んで、俺達を待っている。確認するのなら、今しかない。
「氷藤、堀口……俺が三原に近付いて、何か出てきたら、迷わず魔法を撃て」
「君……全く、分かったよ。でも……気を付けてくれ」
「高崎、頼んだぜ……」
氷藤と堀口は頷き、いつでも魔法を唱えられる体勢に入る。
「高崎君……」
矢島さんが呟く。心配してくれているようだ。
俺は振り返り、一歩一歩、すり足のように三原の体へと歩き出す。
汗が頬を伝い、呼吸が乱れる。
三原が、急に起き上がり、襲い掛かってくるかもしれない。あの煙が、俺に入ってくるかもしれない。どちらでも、反応が遅れれば死につながることは明らかだ。
三原の体に届くまで、あと一メートル程の距離まで来た。
「ッ……クソ……」
手が震える。歯がガチガチと音を立てる。死の予感が、すぐそこまで迫る。
けれど、これは、誰かがしなければならない『役割』だ。
今の俺には、これしかできない。皆で生き残るために、進んで危険を冒す。それが、今俺が出来る最大級の事だ。
俺は、皆の顔を見る。心配してくれている。氷藤と堀口は、じっと俺を見てくれていた。
大丈夫だ。あの二人を、皆を『信頼』するんだ。
「!!」
三原の体に、触れた。顔がようやく見え、死の前の苦しさが伝わってきた。
だがその直後――あの煙が、三原の体から噴き出した。
「アイスエッジ!!」
「サンダーボルト!!」
煙は俺を包もうと大きく広がったが、氷藤と堀口の魔法が俺の目の前を横切り、それをかき消した。
「高崎君! 大丈夫か!?」
驚いて、思わず尻もちをついた。二人の魔法が無ければ、あの煙に飲まれていたかもしれない。
だが、四散した煙はすぐに纏まり始め、廊下の奥へと飛んで行く。
「! 待て!!」
堀口が、それを追いかけて廊下の奥へと走って行く。
「!? おい、堀口!!」
「止まるんだ! 堀口君! 一人で行っては……」
突然、金属をすり合わせたような音が廊下の先から聞こた。
――直後、堀口の悲鳴が廊下中を走った。
「!? 明人!? 明人おォォ!!」
「待て、行くな! 野田!!」
続いて、野田も走ろうと腰を屈める。その瞬間、東悟が野田の肩を掴み、それを制止した。
「放せ! 久木原! 明人が……」
「落ち着け! 野田君! 今から皆で確かめに行く! だから、一人で走るな!」
「明人ォォ!! 返事をしろォォォ!!」
親友である堀口の悲鳴。野田は、それを確かめたいと必死になって先に進もうとしていた。
東悟が野田を抑えながら、俺達は廊下の先へと進む。あの煙の居場所は分からないが、今は、堀口の安否の方が重要だ。警戒し、堀口の名前を呼びながら十歩ほど進んだ時……。
「あ……明人ッ! しっかりしろォォォ!!!」
堀口は、無数の剣や槍が体に刺さり、廊下に倒れていた。周囲に散乱したそれら剣や槍は、さらに堀口の体を切り裂き、全身を切り刻んでいた。
それらを隠してあったと思しき穴が、天井に空いていた。
「罠か……クソッ……」
「矢島ァッ!! 早く、明人を……」
「……」
「矢島!? 何してる、早く回復……」
「……ごめん、野田君。傷は……傷は、治せる。けど、堀口君は……」
「何言っている!? 本気で治して……」
「野田君ッ!!」
堀口を抱え、矢島さんに縋りつく野田に白川さんが声を張り上げた。
「……聞いたでしょ。堀口君は、もう死んでしまった。……矢島さんでも、命までは戻せない」
「ッ……! いや、諦めねえ! 明人! 目を覚ませ! おい!」
野田は、堀口の体を強く揺さぶる。
目から涙を流し、親友の目を覚ますために必死に呼びかける。
――だが、どんなに呼びかけても堀口が応えることは無かった。
俺達の仲間が、こうしてまた一人、会えなくなった。




