第一話 衝撃
「っつ……」
目を覚ました俺――高崎正真――の眼にまばゆい光が目に入り込んできたので、思わず手で目元を覆う。
ズキズキとする頭痛を堪えながら体を起こした俺は、周囲を見渡して愕然とした。
「!? 何処だ? ここ……」
木々が立ち並び、柔らかな光が差し込んで俺を囲んでいる。。そこに見えたのはまさしく自然。しかし、俺には奇妙なことにそこに自然を感じることは出来なかった。
いや、そうじゃない。どういうことなんだ。これは。俺は……さっきまで教室にいた筈だ。授業が終わって、ようやく昼休みに入った時に……。
「そして……その時……急に白い光が……」
まさにその時。俺たちのクラスを謎の光が包んだ。まさかそれが原因か?
……いや、なんでそれぐらいで俺がこんな森の中にいるんだ?
「いや、考えても仕方ない。とにかく、あの光に包まれたのならクラスの皆もここに居るかもしれない。探しに……ん?」
風が吹き、木々が揺れる。その風に乗ってきたのだろうか、どこか不快な……生ごみのような臭いが流れてきた。俺が今までに嗅いだことの無いその臭いは前方から来たもののようだ。
「くっせ……誰かいるのか?」
異様な臭い。だが、人為的なものかもしれないと考えた俺はその臭いの発生源に向かってみることにした。
そして、進めば進むほど、異臭は強まった。生ごみに加えて、鉄が混じったような臭いが辺りに充満していた。
俺は鼻を塞ぎながらさらに進む。今度は音。ネチャネチャと気味の悪い音が僅かに聞こえてきた。
そして聞こえたのと同時に、俺は目の前の植物の葉が赤く塗れていることに気付いた。
「これ、血か……!?」
呼吸が荒くなり、鼓動も早くなる。これ以上進んではいけないと俺の本能が告げていた。
嫌な予感がして、ゆっくりと後ずさる。
その時、進んでいた時は木で隠れて見えなかったクラスメート、本田智樹が左の方で横たわっていたことに気付いた。
「本田!!」
急いで駆け寄り、本田に手をかける。だが本田の顔は……すでに生気は無く――脇腹が食いちぎられて無くなっていた。
「う、うああああああああ!!!」
驚きのあまり、叫び声をあげて飛び退いた。
本田の表情はあまりにも絶望的で……あまりにも歪んでいる。死ぬ間際、この脇腹のちぎる痛みに耐えきれず、泣き喚いたに違いない。
しかし、この状況でそれが最もやってはいけない行為であるとその直後に理解させられた。
『グルオオォォ……?』
「!?」
何か、いる。そう直感的に感じた。
危険な何かが……今俺を発見しようとしている。そう感じても、腰が抜けてしまい走ることが出来なかった。本田の死の衝撃。それが今俺の正常な平衡感覚を狂わせていた。
そして俺がそうやってもたついていると――ヤツは現れた。
「霧……山……!?」
俺のクラスメート、霧山明日香。
まず俺の目に入ったのは彼女。腕を地面に垂らすようにして……すでに色の無い目で俺の方をのけ反りになって見ている。
「あ……ああ……!?」
そしてそんな変わり果てた彼女を咥えた血濡れの白熊が……じっと俺を見据えていた。