第十六話 龍の咆哮
「う……は……」
「氷藤! おい! しっかりしろ!!」
俺は氷藤を揺さぶる。背中からの大量出血。呼吸もか細く、放っておけば間違いなく死んでしまう。
「矢島さん!!」
俺は矢島さんの名前を叫ぶ。名前を呼ばれた彼女は、氷藤の隣まで駆け寄り、膝立ちになって魔法を唱える。
「ヒール!!」
矢島さんは手を氷藤の背中に当てる。淡い桃色の光が彼女の手から出現し、氷藤を包む。
〈聖魔法〉。彼女は、獲得したその魔法の能力の一つである回復の魔法を氷藤に使う。
光に包まれた氷藤の肉体は徐々に再生してゆく。気を失った氷藤の表情も、さっきより穏やかに見えた。
「高崎君!! 久木原君!! ここは私に任せて。 あの龍を!」
「……! そうだ! 悪い、任せた! 行くぞ、東悟!」
「ああ。氷藤を頼む」
氷藤を矢島さんと残った他のクラスメート達に任せ、俺と東悟は龍がいる場所まで走る。
目の前では、片翼がちぎれ、全身傷だらけの龍が、白川さん、野田、堀口、江藤さんと戦っていた。しかし、龍は近づけさせまいとあの風の吼えながら風の刃を放っている。
『ゴ……アアアアアアアァ!!!!!』
「くそっ!! 近づけねえ!」
「あの風の刃をどうすりゃいい!?」
「あとちょっとなのに!」
四人は龍が繰り出す無数の風の刃のせいで近づけない。魔法を放っても、刃に簡単にかき消され、龍まで攻撃が届かない。
「! 高崎君、久木原君! どうすればいいかしら!?」
白川さんが呼吸を荒くしながら俺達に聞く。俺より先に、東悟が答えを出した。
「……俺が突っ込む。正真、お前ら、後ろから援護してくれ。武装!」
「……分かった。バレット・セカンド!」
「え!? ちょ……ああ! もう! シャイニングエッジ!」
「武装」と唱えた東悟の身体は鎧に覆われる。東悟は龍に向かって走り出す。
龍は刃を迫って来る東悟に集中させるが、東悟はそれらを軽々と打ち払う。避けられない分は、俺達が後ろからサポートする。徐々に、龍と東悟との距離は狭くなっていく。
『グ……ゴ……』
「うるせえよ。とっととくたばりやがれ。クソ野郎」
いくつかは捌ききれず、刃が東悟に命中する。しかし東悟の纏う鎧は、それらから確かに東悟の身体を守っていた。
少しずつ、東悟は龍に近づく。龍は怒りなのか、あるいは俺達が命を刈り取ろうとしていることへの焦りなのか、憎悪に満ちた表情をする。
そしてついに、東悟は龍を間合いに捉えた。
『ガ……ガアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!』
「いけ! 東悟!」
「おう!」
龍は、東悟を自身の鋭い爪で殺そうと左腕を振り下ろす。
それに対し東悟は、その腕を切断しようと、大剣を振り上げる。
有利なのは、龍の方。だが、ここまで蓄積されたダメージ、そして東悟の戦意が不利を覆し――龍の左腕が、宙を舞った。
『グルガアアァ!? ゴオオオ!?』
「まだだ!」
すかさず大剣を持ち替え、東悟は龍の首めがけて振り下ろす。
『ゴガアアアアァァ!?!?』
大剣は龍の首に深く入り、龍はもはや頭を上げることが出来ない。決まりだ。俺達の、勝ち。
しかしそう思った直後――龍の目が、怪しく光った。
「!? まずい! 東悟! 離れろ!」
「何言ってやがる!? 次でトドメ……」
『オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!』
鼓膜が破れるかと思うほどの龍の咆哮。刹那、突風が吹き、俺達はまとめて吹き飛ばされる。
「ぐっ……」
「おい高崎! いったい何が……」
一緒の方向に飛ばされた堀口は、何が起こったのか分かっていないようだ。
だが、説明する暇もなく、ソレは始まっていた。
「!? 竜巻……?」
龍の上空、天高くはっきりと風が渦巻いているのが見えた。
青色だった空は、いつの間にか鉛色にくすみ、吹き荒れる暴風が草木を巻き上げる。
そして、俺達は異常事態に気付く。
「おい、なんか俺達、吸い寄せられてないか……!?」
体が意図せず龍の方へと動く。力を籠めなければ、ずるずると引きずられてしまう。
「アイツ……まさか俺達をあの竜巻に巻き込むつもりか!?」
気付いた時にはもう遅かった。体を引き込もうとする力は徐々に増してゆく。
「何かに掴まれ!! 吸い込まれるぞ!」
俺は周囲を見る。此処は平原。掴む事が出来そうなものは、たった一つしかなかった。
「皆! あの槍まで行くんだ!」
江藤さんが造った、あの金属突起。あれにたどり着けなければ、竜巻に巻き込まれて死んでしまう。
地面を這うように進み、俺達はそこを目指した。




