第十四話 青い龍
『グオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!』
「り……龍……?」
俺たちの頭上で、現実には存在しないはずの翼を大きく広げた青い龍が吼える。俺達を見下ろし、牙を立てたその龍は空中で背中を持ち上げた。
「まずい!! 皆避けろ!!」
直感的にまずいと感じた俺は皆に向かって叫ぶ。
ヤバい。とにかく避けなければならない。本能でそう感じてしまった。
俺の怒鳴り声で皆も危険な気配を察知したのか、すぐさま正気を取り戻して全速力でその場から飛び退いた。
――直後、龍が消えた。
轟音と共に、目の前を凄まじい速さで龍が通り過ぎる。新幹線並みなんて速さじゃない。そんなものより、もっとずっとこいつは速い。風が遅れてやってきて、吹き飛ばされそうになる。
これが、近藤さんと米原を殺した突進。
想像の埒外にいる相手。想像上でしかなかった龍。俺は歯を鳴らし、震えてしまう。
あの熊なんかより、こいつは数倍強い。あの突進を、再び避けられるとは思えなかった。
「アイス・エッジ!!」
だが、震える俺の隣で、氷藤が龍に向かって魔法を放った。〈氷魔法〉、それが氷藤が手に入れた魔法だ。鋭い氷の欠片が数本、龍に向かって飛んでゆく。
『!? ゴガアアァァァァ!!!?』
氷藤の魔法は龍の翼に命中し、龍は空中でもがく。
「皆。あいつに魔法を!!」
氷藤が呼びかける。そうだ、今、あの龍は痛みで周りが見えていない。今やらないと、次は無いかもしれない。俺は恐怖を押し殺し、魔法名を叫ぶ。
「バレット!!」
体の中で、何かが動く感覚がある。魔法を使う時、俺達はこのような感覚に襲われるらしい。そして俺の魔法、〈無属性魔法〉のバレットと名付けられた、サッカーボール大のエネルギー弾が、龍に向かって放たれる。
『グガァッ!? ガ!?』
バレットは龍に命中した。よし、効いている!! 他の奴らも、覚悟を決めた顔で魔法を放つ。
「サンダーボルト!!」
「アイアンキャノン!!」
「シャイニングエッジ!!」
『ガ……ゴフッ!? グ……グアアァァァ!?!?』
堀口の〈雷魔法〉、女子、江藤さんの〈錬成魔法〉、そして白川さんのレイピアから放たれた斬撃が龍に次々と命中し、龍は終に大地に落ちる。
「いけ! 野田!!」
「く……うおお!! ロックブレイク!!」
岩石が形成され、野田の手元から龍に向かって飛んでゆく。これで決まりだ。誰もが、そう考えていた時……
『グルゴガアアアアアァァァァッッッッ!!!!!』
「「!?」」
龍が叫ぶ。突如、突風が吹き、俺達を吹き飛ばす。薄く目を開けると、野田の放った岩石も吹き飛ばされていた。
『ガ……ガアアアアアアア!!!!! グガアアァァァァァァ!!!!!!』
俺達の攻撃が止んだことで、再び怒り狂う龍は空に昇る。
まずい。突進が来る。俺は急いで立ち上がり、龍を見上げて突進に備える。
しかし龍は、翼を大きくはためかせた。その直後、無数の風の刃が俺たちに降り注ぐ。
「なっ!?」
予想外の攻撃だった。反応が遅れた俺に、風の刃が迫る。
「おらあっ!!」
直撃してしまうと思ったその瞬間、その声と共に、東悟が大剣を振り下ろして風の刃を打ち消す。
〈大剣術〉。それが東悟が得た力だ。あの時使った大剣を肩に担ぎ、東悟は俺を見る。
「大丈夫か? 正真」
「ああ。サンキュー。東悟」
「そりゃ良かった。……それよりどうする? あいつが降りてこねえと、攻撃が当たらねえ」
青い龍は、空中に留まり、再び風の刃を放つ。
「くそっ!! バレット!!」
「ち……よっ!!」
今度は俺の魔法で打ち消す。東悟も難なく凌いでいるが、あんな高くに居られたら、攻撃が当たらない。実際、向こうで野田や堀口が魔法を龍に向かって放っているが、龍は軽々とそれらを躱していた。
「射程距離……か」
魔法には、それが届く範囲、射程距離がある。だが、今の俺達の中で、上空高くにいる龍まで届く魔法を使えるやつはいない。
俺達は、ただ降り注ぐ風の刃を躱すことしか出来なかった。




