第十三話 飛来
扉を抜けると、青々とした平原が広がっていた。雲がゆったりと海のような色の空を漂っていて、草木の香りが鼻の奥まで入ってきた。。
「ここが……二つ目の〈試練〉……」
誰かが言葉を漏らす。見てるだけなら、素晴らしい光景。だがここには、俺たちが倒さなければならない敵がいる。
そして最後の一人が扉を通った時、青色の扉はスッと消え去った。
「「!」」
「……クリアするまで、帰れないってことだね」
氷藤が冷静に呟く。もう戻れない。戦うしかない。俺たちは周囲を警戒する。
「皆、安心しろ。俺のロックブレイクで何が来ようと倒してやるぜ!!」
だが、野田だけは陽気そうだ。周囲をキョロキョロとしながら、魔法を放ちたそうにうずうずしている。
魔法芽の発芽によって、俺たちは魔法を扱えるようになった。
俺の頭に光を帯びたセントラルの手がかざされた時、不思議なイメージとその名前が浮かんだ。
セントラルはその他にも魔法は使い続けたり、工夫したりすることで別の魔法も生み出せるとも言っていた。
確かに、強力な力なのかもしれない。力を合わせれば、あの熊になら勝てるかもしれない。
だが、俺はもう誰かが死んでいるのは見たくないんだ。余裕や慢心、そのせいで俺は西園寺を死なせてしまったんだ。
「野田。もっと警戒しておけ。お前の魔法が頼りなんだぞ」
「いやいや、大丈夫だって。高崎。こんな見晴らしがいい場所にいるんだぜ? 何か現れたらすぐ気づけるだろ。そこで、俺が魔法ぶっぱなせば、それで終わりだろ」
「そうだぜ。俺達には魔法がある。どんな相手にだって負けないはずだ」
「野田君に任せてれば大丈夫でしょ、きっと」
「すげえ威力だしな。あれ食らえば、誰だってワンパンだぜ」
俺は野田に注意するが、野田は聞く気がないようだ。
それどころか、他にも堀口、近藤さん、米原までも野田に肩入れして呑気に辺りを見ている。
だが、こいつらの言う通り、確かにこの場所からなら、どこから来ても――
――フサアアァァァ……
風が俺の背筋を通り抜けた。緑が揺れ、雲は加速する。
何かいる。この風は、ただの風じゃない。俺の予感が、警報をけたたましく鳴らす。
そしてどうやら、警戒していた他の皆もそれを感じていたようだ。眉をひそめ、声を殺して全方向を注視している。
「? おいおい、なんだよお前ら。そんな怖い顔して」
野田は、まだ気づいていないようだ。
俺は内心舌打ちをしながら、そのことを伝えようとした時……
「!? 避けて!! 皆!!」
白川さんが叫ぶ。一瞬で、まずいと感じた。
何かが来ている。本当に。それも、とんでもない速さで。
どうしてそんな事が分かったのかは後で考えても分からない。もしかしたら、最大級に警戒していたおかげだったのかもしれない。俺は、野田を掴んで、前に飛んだ。
「いてっ!? お、おい、高崎!? 何を……」
――シュウン!!!
そんな音だったと思う。とてつもない速度で飛来した物体が、さっきまで俺達がいた場所を通過した。後一瞬でも遅れていたら……
「えっ」
何かが通った後を見る。そこに立っていたのは、二人の人間の下半身のみ。これって……さっきまで……あそこにいた……
「こ……近藤……? 米原……?」
野田が震えながらそれを見た。さっきまであそこに立っていのは……近藤真紀と、米原海斗……。
「ま……まさか……」
二つの下半身が、ボトンという音と共に地面に倒れる。腰の部分からは激しく血が飛び散り、大地を汚していた。
命が失われた音。失われた証拠。
また……大事なクラスメートが死んでしまった。
『グオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!』
「「!?」」
突如、耳を塞ぎたくなるほどの方向が響いた。
「ねえ、皆! アレ!!」
「……!? 龍……!?」
矢島さんは何かに気付いたのか、空を指さした。
その方向を見ると……青色の龍が俺たちを見下ろしていた。




