第十二話 青い扉
時間帯は、もうすっかり夜。だがこの空間の中ではそれを認識することは出来ない。俺は見ていたスマホの画面を消す。この分だと、あと二、三日でこれももう使えなくなるかもしれない。俺と同じように他にも何人かスマホを持っている奴もいたが、やはり全員、電話もネットも使えないようだった。
俺は制服を枕にして床に寝転んだ。目を閉じ、明日に備えて寝ようとするが、神経が昂ってしまう。目を閉じれば、死んだクラスメート達の顔を思い出してしまう。
「くそっ……」
仕方なく立ち上がり、歩く。気分はまだ晴れない。俺は元居た場所を抜けて、大広間のような場所まで歩いた。
この大広間は扉のある部屋から廊下を挟んだ場所にある。そこからさらに、前方左右に廊下を挟んで部屋が一つずつつながっている。つまり、この大広間は四つの部屋に囲まれたこの空間の中心地になる。。ここは他の部屋よりもはるかに広かった。俺がさっきまで寝ていた部屋は扉のある部屋以外の三つの部屋の内の一つだ。その三つの部屋の内の二つを男女に分かれて俺たちは使っていた。
俺は大広間の片隅に置いてあった『林檎のようなもの』を手に取る。これは、森の中を探索していた時に皆が見つけたものらしい。〈解析魔法〉を持った岡崎さんが調べ、どうやら食べられるものらしいということが分かり、この場所にいくつか置いていったという。これを見つけたことで、ひとまず、俺たちの食料事情は解消された。
腹が減った俺はそれを一口齧る。甘く、酸味の利いた味が口の中に広がった。……というか、これ、完全に林檎だよな。
「さて……」
リンゴを食べ終えた俺は、残ったもう一つの部屋に向かった。気になるものがあったからだ。
薄暗い廊下を抜けると、そこにはセントラル、そして奴の見つめるその奥には瓦礫の山があった。壁と天井の一部が剥がれ落ち、小片が部屋の入口にまで散乱している。
「……何か用? 高崎君……だっけ?」
セントラルは俺に気付くと、鬱陶しいと言わんばかりの顔で要件を尋ねてきた。
「別に。ただ、これは何だ? 地震でも起こったのか?」
「ああ。少し前にね。そしたらこの有様さ」
ふいと瓦礫の方を見て、セントラルはそう答える。しかしその目は瓦礫ではなく、どこか遠くを見ていたように俺は感じた。
「そんなことよりさ。君達、明日〈第二の試練〉に挑むそうじゃないか」
「……そうだが」
「まあ、応援してるよ。ちゃんと魔法を使って生き残ってね?」
話を変え、こちらを向いたセントラルは初めて出会った時のような、俺を見下す目をして軽薄な言葉を吐く。何が応援だ。そんなことちっとも考えて無いだろうが!!
心の中でそう毒づく。言葉の代わりに俺はセントラルを睨みつけ、その部屋を出る。見てろ、明日、誰も死なせない。絶対生き残る。そう決意して再び部屋に戻り、床に寝転がる。天井を見上げながら、俺は意識を手放すのを待つ。
しかし、結局朝になるまで俺は眠ることは出来なかった。
「じゃあ、行くぜ。皆」
朝食代わりのリンゴを食べた俺達は、準備運動をした後に青い扉の前に立ち、野田の言葉を聞き、力なく頷いた。
昨日は皆もあまり眠れていなかったようで、朝は誰も口を開かなかった。
それを見た、クラス委員の浅尾が今日はやめにしないかと提案したが、野田は
「いや、俺の魔法があれば倒せる筈だ。皆も、早くこんな所から出たいだろ?」
と言い放った。
だが、実際として野田の魔法は非常に強力だ。
それに加えて、「出たい」という言葉に全員がピクリと反応を示したことで、その場には試練に挑むという流れが生まれつつあった。
「……それはそうだけど、今は皆、戦うのが難しいと思うんだけど?」
白川さんがそう反論する。この〈試練〉、クリアしたと認められるには参加しなければならないのだ。そのため、クラス全員が戦える状態にある必要がある。
白川さんはそう主張したのだが、野田は自分が居れば大丈夫という姿勢を崩さない。堀口も野田に加担し、他にも何人かが向こうについたことで、最終的に今日、〈試練〉に挑むことになってしまった。
「大丈夫だって! 楽勝楽勝!」
野田が扉に手をかけ、勢いよく青い扉を開く。
第二の試練は、こうして始まった。




