第十一話 いけるかも
スマホの画面を見ると、十八時を回っていた。此処も同じように時間が流れているのか、空は徐々に青さを失っている。暗くなる前に急いで森を抜け、扉の前の集合地点まで急ぐ。
到着すると、既に大勢がそこにいた。俺は、皆が集合しているその後ろ、空間に佇む白い扉を見る。
「魔法、か……」
セントラルが皆の魔法芽を発芽させる作業をしていた時、白川さんがどうやって俺たちを連れ去ったのかをあいつに尋ねた。
俺も、それは気になっていた。奴はどうやって俺たちに気付かれず、クラス全員をこんな場所まで連れてきたのか。しかも、誰にもばれることなく。
セントラルは、此処が何処だとか、自分の事は一切語らなかったが、その質問にだけは答えた。
「『魔法』だよ。便利なものだよ。これ」
それだけ言って、奴は作業に戻っていった。
魔法なんてものを俺は……いや、俺だけじゃない、この場にいる大半の奴はそんなものが存在するなんて思っていなかった。
だが事実、俺達は奴の言う通り魔法を放てるようになっていた。それに物理法則を無視したこの扉。どうして周囲に何もないこの扉が、あのセントラルが居た空間につながっている?
何より……一番分からないのは、セントラルだ。奴はどうしてこんな場所に一人でいるんだ? それに、どうして俺たちに魔法を覚えさせた? 〈試練〉にではなく、俺達があいつに魔法を使って反乱するとは考えなかったのか?
俺はあれこれと頭に浮かんだ疑念について考える。だが、答えなど出なかった。
そんな事を考えながら集合場所まで行くと……三原雄大が俺に気付いた。
「! 高崎。ようやく来たか。今な、野田と堀口を中心に、明日二つ目の扉の先にいる敵を倒そうって話になってるぞ」
ドクンと、俺の心臓が大きな音を立てる。本気か。野田、堀口。
「皆、ほら、西園寺や佐藤さん……クラスの皆が死んで行きたくなかったんだが、野田がさ、俺の魔法があれば大丈夫だって言ってんだよ」
そういう三原の表情はは、不安げな色を見せていた。
その場には他の奴らもいたが、全員、クラスメートの死でショックを受けているのか沈んだ顔をしていた。
「……本当に大丈夫なのか?」
「おいおいっ!! 心配すんなよ、高崎っ!!」
すると、横から野田が大声を出しながらやってきた。
「俺の〈岩魔法〉でもう誰も死なねえよ! ほら、こんな威力が出るんだぜ!! ロックブレイク!!」
そう叫び、右手を伸ばした野田。
するとその右手から、大きな岩石が出現した。大きさは……運動会で使われる、大玉くらいの。
――ゴオッッ!!
そんな音と共に水平に飛んで行った岩石は触れた木々を軽々となぎ倒す。
10メートル程進んで岩石は止まったが、その軌跡がはっきりと分かるほどに破壊痕が残されていた。
「すげえ……」
「はははっ! だろ? これがあれば、あの熊ぐらい……いや、どんな奴だって倒せるぜ!!」
誰が呟いたかもわからない驚きの声に対し、豪快に笑う野田。
確かに、これがあればいけるかもしれない。俺の魔法なんかより……いや、下手すればこれはクラスで一番の威力かもしれない。
そしてそんな野田の魔法を見て、沈んだ顔をしていたクラスメート達も一斉に騒ぎ出した。
「おい……すごい威力だな……」
「これなら……倒せるかも」
「いける! 絶対いけるって!!」
いける、勝てるという雰囲気になる。これなら、という気持ちになる。
だが、俺の心には、未だ拭い切れない不安と疑問が取り巻いていた。
その後、扉を開けて野田達はセントラルが居る空間に戻っていった。
俺も帰ろうとすると、その場にいた白川さんに呼び止められた。
「高崎君。……明日、いけると思うかしら?」
そんな彼女の腰には、俺が使ったレイピアが携えられている。
彼女の魔法……いや、セントラルによれば、適正ともいうらしいが、それは剣術だった。
実は実家で剣道を習っていたことがあるという彼女にはぴったりだったが、彼女はレイピアなんて使った事が無いと文句を言っていた。
「野田の魔法があれば、大丈夫かもしれない。……俺も、明日役に立てるように頑張るよ。それよりさ、そのレイピア、大丈夫か?」
「ええ。意外と丈夫にできてるみたいだから。上手く使えるかは分からないけれど……。そうね。明日……足を引っ張らないようにしないと。それじゃ。」
白川さんは扉の先に消えた。
明日、いよいよ二つ目の扉の先に行く。不安と期待。絶望と希望。それらを抱えながら、俺は森を後にした。




