第五十八話 人を生き返らせる対価
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「はじめに言っておこう。今君たちが対面している問題は、私が望んだ事ではないんだ」
「関わっている事は認めるんですね」
「君が真実を望むのなら、私はそれを答えよう。君が私に会いに来てくれたという対価を以ってね」
気持ち悪いくらいに素直だった。前回会った時よりも何というか、人間味が溢れているというか。コントローラーを握る姿も妙に似合っている。こいつ、俗世にハマったな!?
ちなみに夜叉金さんも同席しているが、まだまだゲームでボロボロにされた心の傷は癒えていないみたいなので私達の話なんて入ってこないだろう。
私のアンニュイな視線に気が付いたのか、対価の神様は首を横に振った。
「もしも君が私に親しみやすさを感じたのなら、それは逆だよ。私は対価の神様だからね。君が私に親しくなったんだ。あの日々のように……おっと、しかし、今の私は神様を名乗るのも烏滸がましい。今の私を表現するのなら壊れかけのラジオだろう」
「どういう事ですか?」
「周波数が乱れている。時々、それまでが嘘のように正常に働いたかと思えば、何の前触れもなく音を発さなくなる。今の私は正常ではないんだ」
「えぇ、大丈夫なんです?」
「普通でいる分には大丈夫だとも。ただ、私が身の丈を超えた欲を持ってしまった時が制御出来ない。あの娘には本当に悪い事をした。私がいけないんだ。私が分不相応にも、君と同じばーちゃるちゅーちゅーばーとなって君と一緒の時間を過ごしたかった、なんて思ってしまったから」
「……」
何でしょうこの、何だろうこの、ずっと友達だと思ってた幼馴染から告白された時のような気持ち。いや、そんな体験は一度もなかったけれどね?
微妙な空気を切り裂いたのは、私と対価の神様の間に強引に入り込んできたカイことカイザーさん。
「ちょ、聞き捨てならねー聞き捨てならねーよぉ相棒! 一旦整理させてくれ。つまりお前があん時の神様? って奴なのか?」
「そうだとも。だからこの姿でも君と気が合った。君は私を気に入ってくれていたから、私も君とこうして気兼ねなく付き合っていたのさ」
「まーそれはいいわ。俺もお前と純粋にゲーム楽しんでたし。間にゲーム挟んじまえば相手が王様でも神様でも一緒だ。問題その後ぉ! なんだなんだ、お前もロイを狙ってんのか!? 嘘だと言ってくれよ! 俺の恋を応援してくれてたんじゃねーのか!?」
「いや、そんな約束をした覚えは一度もないけれど……それに私のこの感情は恋でも愛でもない。一番妥当な言葉は、共犯者だろうか? だから君の心配するような事は何もない」
「んだよ、柄にもなく焦ったぜ」
「しかし君の恋は認められないな。安藤ロイドに男を作ってはならない。これは世界の不文律だ。今勝手に私が作ったがな。頑張って諦めてくれ」
「んだよそれ、神様ってやつに言われるとへこむなぁ……まぁ諦めねーけど」
当の本人がいる目の前でそんなに熱く語られても……一途な人って素敵ですよね。というわけで誰か早くこの方の心を射止めてやってください。
……他人事ともいえない恋話? 恋会話を聞き流しながら、私は先程の対価の神様の言葉に今更ながら焦りを覚える。
正常ではない対価の神様? それってかなり危ないのでは。現に女の子が一人大変迷惑な目に遭っていますし。これからもまた別の誰かが制御不能なファンタジートラブルに巻き込まれる可能性も十分にある。
どうしてそんな事になってしまったのだろうか? 対価の神様がおかしくなってしまった理由、果たしてそれは何、いや誰──
「それについて話す事は何もないよ。いいね? 君に知っておいてほしかったのは、今の私にはもう対価の神様なんて力がほとんど残っていない事。それと、君が前世の記憶を思い出しつつある事」
「……え?」
「無自覚ではあるけれどね、もうそんなに遠い話ではないのかもしれない。いやはや全くこれに関しては私も予想外というか、人間侮り難しってやつなのか。でもこれだけは警告したい。私は君に絶対に前世は思い出せないと言ったが、事がここまで進んでしまっては訂正しよう。君は前世を思い出してはならない。そしてそれは、君の意思次第でどうとでもなるはずだ。君がこのまま安寧の日々を過ごしたいのなら、もう前世の事は忘れて今の人生を楽しく自由に生きてくれ。頼む。好きな事だけをすればいい。それが君の行動原理だったはずだろう?」
確かに、それは今の私が私である為の必須条件、レゾンデートルと言っても過言ではないのかもしれない。
対価の神様の言葉は私の心によく沁みる。きっとそれは、対価の神様が本心から私を思い遣ってくれている言葉だからだ。
あぁそうだ、認めよう。
対価の神様は私を贔屓している。徹頭徹尾気にかけてくれていて、もしかすると私に好意さえ抱いているのかもしれない。
……私というか、前世の私に、かな?
対価の神様が私を見る時は、私越しに別の誰かを重ねている気がするのだ。もちろん、今の私もちゃんと見てくれているのだろうけれど。それでもやっぱり、どうしてここまで贔屓にされているのかといえば前世の私が原因のはずだ。
そういった意味でも私は思い出したいと思っている。思い出さずに生きられたのならそれに越した事はないのだろう。その道はきっと幸せに満ちているはずだ。
でもいつか、ふとした拍子に後悔をしそうな気がする。ささくれのように地味で、一度気になるともう忘れられなくなってしまう感じ。
そういった後味の悪さを抱えたまま私は生きられない。それは自由とは言えない。
ごめんね神様。貴方はきっと本心から私を心配してくれているんだろうけど、その思いやりを私も本心から否定しよう。
私は自力で前世を思い出してスッキリして自由に気もまに生きてやる。これは願いではない。故に対価もいらない。これは私のワガママだ。私の心意気であり、私の原動力だ。
だから止めてくれるな。私の好きにさせてくれ。私を、好きにならないでくれ。
「……はぁ。もう何も言わないさ。これ以上君の事を考えると、またぞろ誰かが私の犠牲になってしまうかもしれない。平常心平常心。願わくば君の行く末に幸あらん事を──ではゲーム再開だ! 夜叉金君何を寝ている? これからは整地で1日を潰すぞ。オールでレッドカードを見つけるぞ。マジョっ子も呼んで楽しくいこう。私のばーちゃる人生はこれからだ!」
対価の神様、完!
楽しそうだからもう一生この家で遊んでいてくれ。




