第五十七話 かくれんぼで鬼に見つけられた時のような顔
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どうして金夜叉連れて行った方が良かったんだ? とかカイザーさんから私に聞かれても困る。だって私そんなRINE送ってないですしね。パソコンちゃんが私のスマホを遠隔操作した結果だ。
金夜叉さんを連れて行かせた理由。予測ぐらいは出来るけど、確証はないから今は置いておこう。
私の目の前には夢見テルさんがいる。隣には同伴のミトさん。私の思考を読んだのか、パソコンちゃんをジトーと睨んでいた。
ここは私の家なのでさっきまで香澄ちゃんと小葉と遊んでいたが、空気を読んで二人は別室に行ってくれた。
私はダンマリを決め込む夢見テルさんに話しかける為に口を開く。
「大丈夫ですよ夢見テルさん。事情はミトさんから大体聞いてます。私は確かに貴女の問題を解決できそうな方を知ってますから」
「そ、その……問題って何ですか? 私はそこもよく分からなくて」
「簡潔に言うと、テルさんは何かを望んだはずなんですよね。その何かの対価にテルさんは自分でも混乱するほど突拍子のない行動を取ってるんですよ。例えば私に喧嘩を売ってきたりとか」
「うっ……だ、だって私は悪女っぽい事をして目立たないといけないから……あぁごめんなさい私、何を言ってるんでしょうか」
「大丈夫ですよ気にしてませんから」
「ギルティ」
冷静なミトさんから突っ込まれる。いや、うん。確かにね、カイザーさんを色仕掛けで利用できると安易に考えたその短慮さは私だってイラッとしたんですけどね? ちゃんと割り切りますよそこは。
悪いのはこの人じゃない。こんな突拍子もない事を強制させる対価の神様の方だ。だから安易に登場してその存在を安売りするなと言ったのに……まあ対価の神様のせいにするのもしっくりこないんですけどね。真実を明らかにするにはあとひとピースが足りない気がします。
「言いづらいのなら私が言いますね。テルさんはエリザベスさんに一言物申したかったんでしょう? アイドリームを抜けた裏切り者のエリザベスさんを嫌いなはずの先輩方が、実はエリザベスさんの事を気にかけている事に」
「うえっ……!? え、えっと」
面白いように慌てるテルさん。この様子だと、確かに心の中ではそう思っていたかもしれないが、改めて言語化されて図星だった事に動揺している感じですね。
うーん恐ろしいまでにパソコンちゃんの言う通り。
「……そ、そうかもしれません。私、エリザベスさんが関わる時だけ先輩達が何考えてるのかよく分からなくて、それが悔しくて」
「聞いても教えてくれなかったの?」
「エリザベスさんと何があったんですかと聞いても、先輩達は“何もないわよ”の一点張りで」
簡単に想像がつく。だが、何もないはずない事は身近に付き合うテルさんが一番よく知っている事だろう。だから不満を持ってしまった。その結果──対価の神様と接触した。
誰もテルさんの経歴に気づかない事を考えると、『スクエアに入る事』が望みとして叶えられて、テルさんのこれまでの行いを考えると、『騒ぎを起こすor 目立つ』このどちらかを成し遂げる事が対価なのだろう。
腑に落ちない点はある。そもそも、テルさんの望みはスクエアに入る事ではなく、エリザベスさんと話がしたい、ただそれだけの事なのだ。『エリザベスさんとの会話』を『スクエアに入る』に変えるのは、幾らなんでも無理があるのではないか?
対価も対価で不思議だ。どうして目立たなければいけないのか。少なくともこれまでの対価はある程度の規則性があったように思う……カイザーさんの一件がある以上それもあやふやな定義ではあるけど。
はぁ、やっぱり本人に会って話すのが一番かな?
「じゃあ、元凶に会ってきますね。多分すぐに解決するとは思うんですけど、テルさんはテルさんで自分の問題を解決しに行ってはいかがですか? ミトさん、お願いしていいです?」
「ここまで来て放ったりなんかしないわよ。貴女こそそんな気軽に会いに行くなんて……あ、ふーん。そんな所にいるの?」
「多分ですけどね」
ミトさんは納得がいったようないかないような顔をしていたが、テルさんの事は快く引き受けてくれた。
私は私で今から対価の神様に会いに行くのだが、前と違ってわざわざ炎の中に飛び込んだりしない。あの時は願いを叶える為に心の底から会いたいと願ったが、今の私はむしろあんまり会いたくない気持ちの方が強い。それに、そんな事する必要もなく会えてしまうのだろうと思っていた。
──私が第四期生の配信で関わった最後の一人がテルさんだと、テルさん本人ですらそう思っている。だが、それは間違いだ。私は第四期生で唯一関わっていない相手がいる。まるで誰も気にしていないし、私自身最後の最後まで無視しようとしていた存在が。
それは、男性のばーちゃるちゅーちゅーばー。少年っぽいなりの男とアンズさんは評していた。私は何となく見覚えがありそうで、でも思い出せないからそのまま忘れようとしていたが、勘のいいカイザーさんが私が第四期生で気になる男性の方がいると察し、触れ合いという名の牽制にいってるので接触もしているはずだ。
「もしもしロイドです。カイザーさんは今何してますか?」
『んあ? 家でゲーム』
「隣に四期生の方がいますよね?」
『おお、よく知ってんな。何だかぱっと見て気に入ってよ、ゲームの強さも俺以上だし、っていうかお前並じゃないかとすら疑ってるわ』
「引き止めておいてください。お土産用意してそちらに向かいますんで」
『別にいいけど……って、待て待て! お前の気になる男ってまさかっ──』
今のその反応はとても面倒くさいので、申し訳ないけれど切っちゃいました。
私は道中チャップリンこと唯華さんの分のドーナツも幾つか買って、五条宅へと赴いた。
あまり楽しむ気持ちにはなれない。もうお察しではあるが、対価の神様はその四期生の男性? の方なのだろう。
そして私の推測は当たっていた。五条宅に着いて、何やら玄関前で難しい顔をしているカイザーさんの誤解を解き、ズカズカとその人の元へ向かう。
丁度何かしらのゲームをしていたのか、そこには何一つ敵わず傷心中の夜叉金さんとそれを慰める唯華ちゃん。そして、私に気付くと不敵な笑みを浮かべて少年? には似つかわしくはない重厚な声を出す謎の人物!! い、一体誰なんだー?
「おや、初めましての顔ではないね」
白々しい奴め。カツ丼でも持って来て尋問でもすれば良かったか? しかし、あいにくとここにはドーナツしかない。私はその中の一つからあんドーナツを取り出し、無造作に彼? に向かって放り投げる。
「好きですよね? あんドーナツ。私の名前にするくらいなんですから」
「……一体いつから気付いていたんだい?」
「最初からですけど」
私は写真越しにこの少年を見て、見覚えがあるのに思い出せなかった。しかし、そんな事あるはずがないのだ。何せ私は一眼見た物を絶対に忘れない完全記憶能力を持っているのだから。
ならば、何故思い出せないなんていう奇妙な現象が起こるのか?
実を言うと私は他にも思い出せないものがある。それは前世の記憶だ。必然的にこの少年の姿も前世に関わっていると推測出来る。もっと言えば、前世の自分により深く関わっている存在に、私は違和感を抱きつつもそれが何なのかを絶対に思い出せないという業を背負っている。
この少年の事はどれほど時間をかけても思い出せないと言う確信があった。つまり、逆説的に前世の自分に一番関わっていた存在だ。
あぁ……それにしても懐かしい。そう思えてしまう。その姿、その太々しさ、まるで毎日見ていたかのようで、記憶の穴にポッカリと入り込んでしまいそうなほどすんなりと思い出の一部となる。
私の理路整然とした推測を聞くと、彼? もういいや。対価の神様はあんドーナツを一口頬張りウンウンと頷いた。
「甘くて美味しいが、厳密に言うとこれを好きなのは私ではなく君だった。いや、そうでもないのかな? 毎日食べていたから好きというわけでもないか……ああ、君の推測は正しいよ。全く、君は相変わらず私を見つけるのが上手い」
全く面白い、そう呟いた声は、声変わりもなっていない少年らしい無邪気な声だった。




