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【初配信】はじめました! 安藤ロイド【♯新人Vtuber】  作者: watausagi
第五章 さよならを見据えて
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第56話 パソコンちゃん『夜叉金を連れて行きなさい。さすれば万事が平時』『今です。夢見テルの心を読むのです』

◇◇◇◇◇

 

えーっと、私は誰だっけ。そう、灰被り姫。いや、今は夢見テル? 何でだっけ……ああ、とにかく目立たなきゃいけないんだ。何でだっけ……まあいいか。


とりあえず、一期生で唯一の男性ばーちゃるちゅーちゅーばーに声を掛けた。それから……どうすればいいんだろう? 目立つって何だろう。悪い事? ……ピッキーン、知ってる悪女だ。


難しいけど、やらなくちゃいけない事は分かっている。だってそれが対価だから。


とにかく、悪い女っぽい事もする為に、色々と頑張ったけど……夜、カイザー五条さんだけを食事に誘ったはずなのに何故かもう一人、夜叉金さんというのっぺりとした顔の背の高い方も一緒にいた。


……何で?


仮にも女性との食事に男友達を私に断りもなく同伴させるって、なくない? え、そこまで私は女性としてみられてないって事? 泣ける。


「あ、自分の事は気にしないでください」


典型的な醤油顔だけどやけに爽やかな笑顔で、夜叉金さんにそう言われた。


気にするに決まってるよね?


そのメンタルやばない?


「数が多いのも楽しいけどぉ、今日は二人っきりが良かったのにー」


多分色っぽい感じでそんな事を言いながらカイザーさんの方にしなだれかかる。


この私の見事な悪女っぷりにどう反応してくれるかその顔を確かめてみたら。


「……ハっ」


鼻で笑われた。えー……ショック過ぎるよね。そこは嘘でも照れてほしかった。


私、惨めすぎる。でも諦めない。私にはとっておきの秘密道具がある。


対価として、十万円でポンっとくれた意識泥酔薬〜。これを使って悪女っぽい事をする。こっそりとカイザーさんのドリンクに入れて待つ事数分。この意識泥酔薬は即効性で今にもカイザーさんは頭がボーッとして……


「だからさ、選挙くらい行けって俺は前から言ってるだろ? 爺婆しか行かないならそりゃあ爺婆に有利な条件ぶら下げて票集めるに決まってるだろ? それで後々になって政治に文句しか言わないのは筋違いだと俺は思うぜ?」

「うーん、それじゃあ数十年後は自分たちに有利って事ですか? じゃあ数十年後我慢してみるのもいいかもしれない!」

「数十年後の事なんかあいつらが考えてるわけねーだろ。はー、お前と飲んでるといつも酔えないわ」


政治の話してる……!!


ど、どういう事ぉ? 確かに飲んだ。確実に飲んだ。効果は神様保証のお薬だった。なのに……まるで、健康そのもの。


「あーいや、ちょっと酔ったかも」


ちょっと酔ってた! でも……こんなんじゃ悪女にはなれない。既成事実とか作れない……いや流石にそこまではしないけど……そういうのは好きな人としかダメだし。


あーもう! 何とかしないといけないのに、話に割り込みたいけど選挙の話とか分かんないからついていけない。


「そもそも僕、野党も与党も分かんないんですけど。先輩知ってますか?」

「あ? 五十音順を思い浮かべろ。やとよだぜ? 間に中立派のゆ党がいるんだろう。や党とよ党は過激派だな」

「先輩すげー」


すごい……のか分かんないけど、多分賢い話をしてる。きっと。恐らく。


焦燥感だけが募っていく。


そもそも、なんでこんな事しなくちゃいけないの? ムカついてきた。私はただ……ただ、あのエリザベスさんという方に一言文句を言ってやりたかっただけなのに。


「私……もう帰ります」

「お? 待て待て、タクシー呼ぶから。よし、これで帰ってあいつとゲーム出来るな。俺ってばなんて後輩思い」

「さよならテルさん! あ、少しお肉とか残ってますね。それ美味しかったからなー。僕食べていいですか? あ、包めるかウェイターに自分が聞いてきましょうか?」

「……はぁ」


引き止めろや!


うう、やっぱり私すごく惨めじゃない?


こんなところでは終われない。私は目立たなければいけないのだ。同期のあの子が目立たないようにひっそりとさせる為に。


どうすればいい? ……配信だ! 配信で全部暴露しよう! 配信外の魂の事とか露骨に! 雇用規約とかあからさまに! そしたら! ……そしたら?


そしてら私……嫌われるのかな……ううん、もっと酷い。なんか嫌だな……っ先輩達にも迷惑がかかるかもっ! そ、そんなのっ……怖い!


何で、何でこんな事にッ!


「あら、あらあら」


──ふと気付けば、私がいたのはスクエアの本社。もうすぐ配信を控えた私に現れたのは小さい女の人。でも声で分かる。最近引退詐欺の切り抜きを見た事あるから。


名前は、ミトさん。


「これは相当酷いわね。ぐちゃぐちゃよ。貴女、ちゃんと起きてるのかしら? 寝ぼけたブルドックでさえもう少しまともな思考よ」


何の話をしてるのか分からない。


でも、この人は確かさとり妖怪?


……だからなにって話だけど。そんな事言うなら私は都会生まれインキャ育ち系Vtuberの灰被り姫だし。


あれ、夢見テルだっけ?


そもそも灰被り姫ってなに? 私もっと可愛い名前のお姫様が良かった。


「私でも見えないその霞の記憶。覚えがあるわ。貴女もあの神様に目をつけられたようね。一体何を望んだのかしら」

「私? 神様……望んだ?」

「ふーん、そう。貴女やっぱり相当こじれているみたいね。深層心理でさえ3点リーダーの多用で鬱陶しいくらいだわ。もういいから私についてきなさい」

「……え?」

「そのこんがらがった状況を何とかしてくれそうな子を知ってるから、解決したかったらついてきなさいと言ったのよ。貴女には今から行う配信を中止にさせて申し訳ないけれど私もその条件は一緒だから文句は言わないでよね」


ミトさんの言葉はストンと私の心に落ちてきた。彼女の言葉を信じたい。そうすればきっと、なんとかしてくれるかもしれないという予感があった。


でも、どうして。


「どうして私にそこまでしてくれるんですか?」

「……あら、貴女の考え全然違うわよ。私は全く優しくないから。善意や同情で貴女に声をかけたわけでは無いのよ──けど、本当に優しい子ならこういう行動をするわよね?」

「……」

「私は優しくないけれど、優しい行動を続けたらいつか私も本当に優しい人間になれるかもしれないでしょう? 優しくなりたいのよ私。優しくしたい子がいるから」


そう言ったミトさんの顔は……もう、優しさ以外の何者でもない表情をしていた。優しくしたい子がいるって考えがもう優しいと思うんだけど、私にその辺りの事情はよく分からない。


何たって自分の事すら今はよく分かっていないのだから。それに……


「少し気に食わないのは、この流れがまるで第三者に導かれているように感じる事かしら」


その言葉の意味はもっと分からなかった。

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