第四十七話☆ マジョちゃんに残ってもらい隊
◇◇◇◇◇
「マジョちゃんを引き止めようの会! えー、お集まりいただき誠に有難うございます苺餅カケルです。今日はですね、文字通りマジョちゃんを引き止めようの会でございますが、まさか初絡みのこの人数でオフ配信でしかも台本も何もない突発的なものなので私的に既に言葉が上手く出てきませんが……とりあえずね、メンバーを紹介していきたいと思います。まずはこの方、文句なしの主役のマジョちゃん! ちなみに残りのメンバーは私を含めて全員マジョちゃんとオフコラボをした事がある方ですね。マジョちゃ〜ん? 大丈夫さっきから普段の3倍くらい卑屈なんだけど」
「ぁぃ」
「──っはい、イヤホンを付けてる方限定できっと可愛い声が聞こえたはずなんですけどもね、順番に他のメンバーも紹介していきましょう。ここからは勢いで、我らが総大将エクレールII世さん! 同じ絵描きとして実は縁のあるアンズさん! 後輩という存在を放っておけないエリザベスさん! そして同期のもやしゃとミトちゃんとロイド様ですね」
「……え、今私の事なんて言いました?」
「私も実はね、凸配信をした仲ですもんね。ですよねマジョちゃん?」
「ぁう……何この面子……容易く死ねる」
〜コメント〜
相変わらず安売りの死生観
こいついつも限界突破してんな
ロイド様とかいうキルリーダーがいるもんね
「さて、ね。今回は私が主催で皆さんを集めさせて頂いたわけなんですけども、さっきも言った通り一度も打ち合わせとか何もしてないという」
「ゼロだよねー」
「結局これはどういう配信なんですか?」
「そりゃあ勿論引き止めようの会だから、会ですよ、会でしたね。よし、じゃあまずはどうしてマジョさんが卒業してしまうのか、そのあたりご本人に聞いてみましょうか? ……大丈夫? 個人チャでもいいよ? おけ? よし、では、どんな事情が?」
「家庭の事情」
「一番難しい奴ゥ! 運営に不満とかメンバーに不満とかなら一緒に解決出来るけど、それ私達に一番効きますからね。誰かこの難攻不落の理由に切り返せる猛者はいないのか!」
「えっと、はい、家庭の事情って詳しくは親絡みとか? あれそもそもご両親は存命」
「踏み込み過ぎ踏み込み過ぎ。もやしゃはこういう場でプレミしか言わないからやめとけ?」
〜コメント〜
マジョちゃんマジでやめちまうのか
ミトちゃんがマジョ泣きしちゃうよ?
マジョ泣き? それは見てみた……あぶねーセーフ
↑ツーアウトってところだな
〈カイザー五条〉おい! 俺の後輩イジメんなよ! イジるのはいい
「うぉ! どうやら中国の方からうるさ、大きい声が届いております。あ、中国ではなかったかな。あぁいや、この面白エピソードは三日後、三日? 多分三日後に【カイザー五条の初海外紀行】で語られると思いますので皆さん楽しみにしておいて下さい、じゃなくて。誰かいませんか? 今なら何でもマジョちゃんに言っていいと思いますよ……では言い出しっぺの私からマジョちゃんに聞いていきたいと思います。私達と家族、どっちが大事?」
「ふぇ……笑顔が怖ぃ。そもそも」
「いやーやっぱり私達としては、そこが重要というか、仲間としてちゃんと知っておきたいと言いますか、是非ともお答え願いたい部分で」
「そもそも仲良くないのに馴れ馴れしぃ……こわぃ」
「……」
〜コメント〜
そりゃそうだ
一凸しただけの分際で反省しろカケル
今日はプレミ祭り
×が×(カケルが悪い)
×××××××
「んー、あいつもう何も喋れねーだろうからこの際言っておくが、私は別に引き止めようとは思ってないからな」
「うぇ、えぇ、アンズ先輩? この会の趣旨が真っ向から否定されたといいますか」
「何だお前まだ生きてたのか」
「死んでませんよ。司会メンタル舐めないで下さい。いや、それより同じ絵描き仲間として何かこう、ないんですか! 何か!」
「思うところはあっても、最終的に決めるのはマジョ自身だろう。私は無理に引き止めるつもりはない。これは私だけじゃないと思うぞ」
「え、それでは改めて一人ずつ聞いていきたいと思います。ここは年長者からやべ口が間違えた。他意はありません。一番、この道の長いエクレールII世さんから聞いていきましょう」
「あはっ、動揺してるねカケルちゃん。台本が無いからって油断しちゃダメだね。ちなみに私は年長者発言についてなんとも思ってないから気にしなくていいよ。ただ常識として女性に歳の事を言うのは失礼だから後で覚えといてね」
「ちょ」
「それとマーちゃんについては私からは何も言えないかな。私の発言はスクエアの言葉に取られちゃうからね。で、アンズも快く見送る派、お次はエリちゃん」
「……年齢順ではありませんわよね……大丈夫ですわ……はい、私は早い時期でばーちゃるちゅーちゅーばーを卒業すると必ず心残りが出来ますわよ、とだけお伝えしておきますわ」
「ん? 結局どちらでしょうか?」
「ですからそれは……あくまでも一般論として、もう少し続けてみるという選択肢もありますわよと、参考程度にお伝えしておきますわ」
「はいよく分かりました残っていて欲しい、と。次はじゃあ、もやしゃ」
「もちろん僕は残ってほしいですよ。ねーミトちゃん」
「……私は別にどちらでも構わないわ」
「ミトちゃん!?」
〜コメント〜
設定的にもエクレールII世様が年長者なのは確かだからギリギリプレミじゃない
人外三期生は結構年齢いってるけど
生後数ヶ月のロイドで平均しとけ
ミトちゃん?
ミトちゃん強がってるのかな
可愛い子には旅をさせよ的な
親離れの時期なんかなー
「本心から辞めたいと思ったのなら、それに従うべきよ。そのはずなのよ」
「……えー、では、最後にロイド様」
「さっきから私の呼び方、というか視線が今一斉に集まってるんですけども。この空気で言うんですか? 言うんですけどね。私も無理に引き止めようとは思わないですね。縁が切れるわけじゃないですし、アンズさんとミトさんと同じ意見です」
「あー……なるほど」
「そんなロイド様……」
「そっかー、ロイドちゃんがそう言うなら」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで私の言葉が最終意思決定みたいな! ただの一意見ですよ」
「ぅぅ……私、やっぱり」
「その先はダメですよマジョさん!流されないでください! まだ猶予はありますよ! このままだと私の責任になってしまいます!」
〜コメント〜
あちゃーやっちゃったね
ロイド様の意見は無駄には出来んよね
マジョちゃん! 周りを見てもう一度だけ考えてみて!
どっちも正しい
マジョのマジョ笑い切り抜きから見て気付けば推しになってました。同期に化け物がいる中、ネガティブながらも頑張っている姿に応援しようと心の底から思いました。どんな結果になってもマジョが俺にこの世界を教えてくれたのは忘れません
「──今回は私達の段取りが悪いね。ちょっとグダってきちゃったし早めに終わろうか。ねカケルちゃん? ま、私達やリスナーが何を言おうと、マーちゃんが最終的に出した結果は誰にも否定出来ないよ。だから、焦らないでね。私はまだ考える時間はあると思う。どうか、悔いのないようにね」
〜〜〜〜〜
配信が終わって各々がマジョさんに声を掛ける中、ミトさんだけは何も言わずに早々と去ってしまった。一瞬止めようかと迷ったが、流れ的に私の順番が来てしまったので、先にマジョさんとお話をする事にした。
「本当に辞めてしまわれるんですか?」
「あぅ、気を使わないでいいんですよ。どうせ私なんて、これ以上人気にはなれないし、みんなみたいに面白くもないから……ロイドさんは天使みたいに、違う。もぅ神様なみに凄過ぎるから、私なんか構わなくていいんですぅ」
「……私も普通の人間ですよ」
「ううん、器が違う」
キッパリと否定されてしまう。マジョさんに私の言葉は届かない。それが分かってしまった。そんな私はやっぱりただの人間だよなーと思うんです。空も飛べないし、人の心だってそう簡単に変えられない。
こんなモヤモヤした日には、一杯飲みましょうか。
◇◇◇◇◇
お酒を飲んでも全然酔えないですから、私の一杯といえば例の静かな喫茶店のコーヒーなんですけどね。いつものマスターに無言の笑顔で出迎えられ、お気に入りの席である窓辺の席に行くと、今回は先客がいた。
世にも珍しいアイドリームの方々です。特に私に低評価をつけると宣言した方は一生忘れませんよ。今のロイドジョーク。
「げぇ」
「おや、お久しぶりです。エリザベスさんの元お友達の方々じゃないですか」
「元もお友達じゃないし」
女性の顔を見て発する言葉がげぇとは中々攻めた挨拶です。嫌な顔もされてます。新鮮な反応です。
「あんたは何でここにいるのよ」
「私はまあ、ここは私の故郷みたいなものなので」
視界の隅でマスターがガッツポーズを取っていた。
「何よそれ。せっかく穴場を見つけたと思ったのにもう来れないじゃない。ねーみんな」
「ねー」
「私が嫌なんですか?」
「別にそういうわけじゃないけど。あんたがいるとあの女もいるかもしれないでしょう。せっかくの休みの日にまで変に気を張りたくないのよ私たちは。ねーみんな」
「ねー」
「はあ、エリザベスさんの事ですか? そんなに嫌がらなくてもいいと思いますけどね。結構お似合いだったと思いますよ? 本当は皆さんも仲良く」
「知った風な口をきくのはやめてちょうだい。そういうのが一番不愉快よ」
「はい! やめます」
事情を知らない私は深く突っ込まない。仲良くなられてエリザベスさんがアイドリームに戻るなんて事になっても困りますし。
「素直ね。顔も良いと心も良いのかしら。いい事? 人には丁度良い距離感っていうのがあるのよ。私達はあいつの事を好きになんかならないし、あいつも私達の事を好きになんかなれないわ。それでいいのよ。好きになる必要なんか別にないわ。私達とあいつは、そういう距離感が一番最適なのよ」
「なるほど勉強になります。ついでにもう一つ教えてもらってもいいですか?」
「別にいいわよ。私達は別にあんたの事は嫌いじゃないもの。立場上、好きとも言わないけど」
「大した事じゃないんですけどね。まだお名前を聞いてなかったなと思いまして。私は安藤ロイドの安藤奈津です」
「ぷぅ安直。まあ人の事言えないか。私は眠り姫よ。名前は茨木音夢。この子達の事はまた今度にしなさい。今日みたいに完全オフの日はねーとしか言えないくらい脱力してるから。ねーみんな」
「ねー」
確かにグッダリとしてる。机に顔を乗っけてねーbotと化している。新人っぽい人は元気があるのか気まずそうに周りに合わせているけど。
「最後に一ついいですか?」
「なによ」
「もうご存知かもしれませんが、私の同期がもしかしたら辞めるかもしれないんです。初めての経験なので、私はどう動いたらいいのか困っていまして」
「はんっ、ばーちゃるちゅーちゅーばーはいつかはみんな辞めるのよ。気にしてたらキリがないわ。誰だって考え無しに辞めるほど馬鹿じゃないんだし、黙って見送るくらいが丁度いいのよ」
「はー、説得力のあるお言葉」
「アンタは一生残ってそうだけど」
何でみんなそんなに私を特別視したがるんでしょう。確かに向こう100年くらいはこの業界に住み続けていそうですけど。
「でもやっぱり、誰にも辞めてほしくないですよね。いつまでもみんな一緒だったらいいのに。そう思いません?」
「……そうかもしれないわね」
そう言って眠り姫さんは、私を蚊でも追い払うかのような手振りをしてさよならとぞんざいに言って、ねーbotと一緒に帰ってしまった。
誰だって別れは惜しいんです。そりゃそうです。だからきっと、ミトさんも何も思っていないわけがないんです。普段のミトさんなら、自分だけ先に去るだなんて事はしません。誰よりも空気と心を読む事に関しては長けているはずですから。
いつかは確かにサヨナラをしなくてはならないんでしょう。ばーちゃるちゅーちゅーばーに限らず、それは全てに言える事です。でもやっぱり私は我が儘を言わせてもらうなら、もう少しだけみんなと一緒にいたい。マジョさんに残って欲しい。
私が今話し合うべきはミトさんです。




