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【初配信】はじめました! 安藤ロイド【♯新人Vtuber】  作者: watausagi
第五章 さよならを見据えて
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第四十五話 心の対価

◇◇◇◇◇


「アニメっていうのは、あのアニメですか? 動くやつ」

「そうだな。ノウハウは一応独学で学んだが、実行に移すとなると現実的に時間が足りない。他に頼るアテもない。ばーちゃるちゅーちゅーばーを続けている限りは無理だろうと半ば諦めていた夢だ……ロイド、お前が来るまでは」

「私はアニメを作る知識も経験もないですよ?」

「だったらそれ以外をお前は持ってる」


 いやぁ買い被り過ぎですねぇ。確かに人よりは恵まれた肉体と脳を持っているが、それでもこの世の中出来ない事の方が多いと私は自覚している。


 この体、空だって飛べないんですよ。情けない。


「もちろん無理にとは言わない。隠さずに言っておくが、もし私とお前でアニメを作るとしたら9割はお前の負担になると思う。スタッフロールが数分間お前の名前だけをつらつらと映し出すだろう」

「それは逆に見てみたいですね」

「内容に関しても立場を弁えず私が口を出すと思う。理想の為に、きっと際限なくお前を頼ると思う。途中で私の事を嫌いになってしまうかもしれない。それでも、夢なんだ。私を嫌ってもいいから……夢の手伝いをしてほしい」


 そう言いながらアンズさんは、私の前に300円皿をススっと滑らせてくる。一枚では足りないとみたのか、もう二枚ほど追加してくる。


 いや、その程度で私の意見は変わったりしないですよ? 大盛りホタテや大トロだろうと関係ない。そもそも私食べ物に釣られてハイと頷く程飢えているわけでもないですし。


 答えは最初から決まっている。


「アニメ作り、面白そうですね。私でよければ是非お手伝いしますよ」

「ロイド……いいのか? もちろん私にとって好都合な返事だが、さっきも言った通り負担が大きい。お前でなければ私だって自重して頼む事も出来ないくらいだ。間違っても気軽に手伝ってなんて言えない。だから改めて言う。手伝って欲しい」

「かしこまりっ」


 寿司も一通り二巡り再三制覇したしそろそろサイドメニューに侵攻、最後はデザートを食べ尽くす。それでも満腹になれないのは少々悲しさを感じますが仕方ないね。食事中アンズさんと大雑把な打ち合わせもした。そもそもアンズさんの作りたいアニメの内容とは? 


「二期生に小説家の副業をやっている奴がいるんだよ。売れない小説家だが。携帯小説アプリにも投稿しているらしくてな、時々私がそいつに頼まれて格安で挿絵を描いてる。大まかな流れは私だが、細かいシナリオはそいつに任せる。あぁもちろん仮面ライダーのアニメだな」

「売れない小説家でいいんですか?」

「シナリオ作りのセンスは個人的に気に入ってるんだ。あいつのダメなところは、表現が必要以上に回りクドい事だな。尊敬している小説家がいるらしいが空回りしてるんだ。少し真似してやろうか。あいつの小説はまるで桜の咲く季節()に、桜ではない何か巨大な()が一本、世界中の村々()()を飲み込まんとしてそびえ立っている、といった感じの描写が得意だ」

「器用な事しますね。そして分からないです」

「アニメーションにすれば問題ない」


 本人が聞いたら泣きそう。


 私はさっきアンズさんに渡された設定資料集みたいなのを読み返す。十通りを超える色んな角度から見た主人公のライダーキックには彼女の拘りを感じた。


「私は何をすればいいんですか?」

「私が場面毎に二つの絵を描く。始まりと終わり。お前にはその二つの間を繋げてもらう為に何枚も描いてもらう事になる。漫画で省略しているコマだな。相当な枚数になる予定だ。やり方としては邪道だが、お前ならきっと上手くいくと確信している」


 ふむふむ、確かアニメって直前の絵と微妙に違う2枚目を連続で描いていくんですよね。それなら出来そう。直前の絵の記憶はあるからデジタルな操作も要らないと思う。


 アンズさんはCGも使う予定らしい。所々のカメラワーク、カットの仕方は既に何年も前から計画してるだけあって大体は仕上がっているとの事。段々と若かりし少年みたいな輝きでウキウキと語るアンズさんは本当に楽しそうだった。


 こんなに可愛い一面もあるんだから、あのメールも今思えばそんなに不思議ではないのかもしれない。うん、アンズさんだってまだまだ若い方なんだし普通だ。


『待ってるね♡』


 やっぱりそれは無理があった。


 お会計時に、多分だけど店の中にいた全ての店員さんが私達を一目見ようと集まってきたのは驚きましたね。なんかひと会計の最高額の記録を更新したらしい。いっぱいクーポンみたいなのもくれた。こんな事ってあるんですね。


◇◇◇◇◇


 他のスクエアの方にはまだ秘密にしておきたいらしく、私は自宅で作業を進める事になった。その際一通りの機材をアンズさんからプレゼントされた。高かっただろう。そこまでしなくていいのに、ケジメ云々言われて素直に受け取った。


 ちょっとお試しで描いてみたが、やはりこのレイヤーという機能は不要かもしれない。レイヤーとは簡単に言えば一つの絵を何枚も種類別に描いて重ねる事で、パーツパーツのちょっとした修正や加工などが簡単に出来る便利な機能だが、私の場合種類別に分けて管理する手間よりも加工したい部分を全消しして一からスピーディーに描いた方が手っ取り早い。


 一度に一つしか描けないのが勿体無いので、同じ機材をもう一つ買って左手も使い描いてみる。とりあえずは何枚も描いて試行錯誤を繰り返して感覚を覚えた方がいいだろう。口も使えとか私の家族から言われてきそうだが、首から上は配信で使うから無理だ。足も使えとかいう奴には人間が二足歩行である事を分からせてやる。足は歩く為のものなんです。


 右手と左手で絵を描きながら口は喋る。しばらくはこの配信スタイルでいこうとおもう。時々配信コメントでは「最近おかしな事やらないんですか?」と送られる。何で面白い事ではなくおかしな事なのか小一時間問い詰めたい。「何もしてないですよ」と返しておいた。


 時々アンズさんの可愛いメールを見てモチベーションを上げる。作業効率が2倍です(当社比)。


 他には、実際に絵の中で出てくる戦闘シーンを庭で試してみて、その光景を覚えると作業部屋に戻り何かが物足りないと思っていた絵の違和感を削っていった。ライダーキックは再現が難しいので壁キックで反転してそれっぽく見せる。でもライダーキックには二種類あって、一つはジャンプして放つタイプともう一つはその場で回し蹴りをするタイプだ。ジャンプのタイプは最後のボスっぽい奴にだけ使う。


 ちゃんと敵との戦闘シーンにも拘っているらしくて、私自身この体に本物の戦闘技術とやらが身に付いていくのを感じた。歩法からCQCまで、逆にこの動きはこうしたらいいんじゃないかとアンズさんにコンタクトも取った。


 ……あれ、配信者って何だっけ?


 庭でカンフー映画よろしく体を張る事かな。ちなみに擦り傷は幾つか出来たがすぐに治った。リジェネ機能が凄い。


 それから何日かが経ちまだアニメは完成していないが、途中経過の報告という事でスクエア本社のアンズさんの控え室に迎えられた。私が部屋に入るないなや、アンズさんは怪訝な目をして私を睨んできた。


「最初に歩くだけのひとシーンで100枚弱をお前から貰った時は素直にドン引きしたよ」


 はぁ、と気の抜けた相槌を打つ。それがどれ程多いのかも私はよく知らないのだから。しっかりと歩いているように見えるレベルでは仕上げたつもりですが。


「問題は次だったな。全ての戦闘シーンを合わせると五万超えてるんだよ。お前は私に家族を人質にでも取られているのか?」

「知らず知らずの内に熱が入っていたみたいで、やれるところまでやってしまおうと体が勝手に」

「……一番の問題はその全てが違和感なくアニメとして成立してしまっている事だ。あ、どうやってこの短期間にこの数を、だなんて優しいツッコミはしないからな。普通これだけの数を書けば、逆にちょっとしたミスで動きにズレのようなものが生まれるはずなんだが……不自然さがない。しっかりとロトスコープだ。それでいて私の目指す迫力や演出も描けている」

「ロトスコープ?」

「あー……要は実写の写し書きだ。簡単にリアルの動きを再現出来るだろう? まあ、それはそれでどうしてもリアルと二次の微妙な違和感が生まれるものだが、お前の絵にはそういったデメリットも感じ取れず、尚且つ絵でしか表現出来ない躍動感も仕上がってる」

「ロトスコープっぽいというのは実際に試してみて覚えたからですかね? こんな風に」


 私はアニメの主人公のデッダーマンとやらが使っていた歩法や武術を見せる。他の動画や漫画も参考にして、現実で動ける範囲に工夫したものだ。


「別の作品でやれ」


 わりと真面目に怒られた。もう2度としない。


「私の人生をバトルものにするな……まったく、お前から改善案を出された時から薄々確信していたが、私が予定していた数年間のプランを一週間程度で終わらせてきたな。それも想像の埒外なクオリティーで。ちゃんと私の描いた絵を尊重して」

「たくさん練習書きもしましたから」

「ああ待て、そりゃあそうだ、練習で描いたやつもあるのか。何枚だ? いややっぱり言わなくていい。これ以上お前はアニメ業界にノールックで喧嘩を売るな」


 本当は少しやり過ぎたかな? と気付いていた。でも私自身、一枚絵だったものが動いて見える不思議な感覚にハマってしまって止められなかった。


 命を吹き込むとはよく言ったものだ。傲慢な言い方だがそこには誇りを感じる。アンズさんに貰った下書きを見て、私は初めてそれを体感したのだ。私の場合命を吹き込むというか詰め込んでいるに近いけれども。


「……色々とツッコミたいところはまだあるが、そもそも私はそんなキャラじゃないし、これ以上お前を困らせるのも自分に腹が立ってくる。だから、コレ」


 アンズさんが口元をジャージで隠しながら、小っ恥ずかしそうにUSBメモリを私にくれた。


「新衣装だ。お前、まだ初期のままだろ?」

「おぉー! エリザベスさんが十万人記念で貰ってたやつですね!」

「あれはスクエア側からの仕事。でもそれは……だから、仕事じゃないって話だ。スクエアにはちゃんと話をつけてる。以上。私はこれから徹夜する」


 そう言ってアンズさんはアニメ作りに没頭する。細かなCGや表現の仕方など、まだまだ直したい所があるのだろう。その全てが終わって次はようやく、私が声をそこに入れる。


 仕事じゃないって、つまりどういう事ですかと聞き返すのは止めておこう。答えはこのUSBメモリに込められているはずだから。


 ところで前も実は気付いていたが、この人なんで部屋の隅に木刀があるんだろうか。やっぱりソッチの人なのかもしれない。怒らせないように注意しよう。


◇◇◇◇◇


 徹夜をすると言っていたアンズさんだったが、深夜の配信は行なっていた。ばーちゃるちゅーちゅーばーは自分にとって重要ではないと言っていたが、本当にそうだろうか。アニメの夢と比べてどちらも捨て切れないくらいには、アンズさんにとって既にかけがえの無いものに変わっているのではないかと今の配信を見ながらでも感じる。


 私はあの時一瞬だけ、アンズさんがばーちゃるちゅーちゅーばーを止めてしまうのではないかと危惧した。でもそれは杞憂だった。


『はいお前ライダーキックな。アンチ怪獣チクチクコトバンは大人しく私のアンチスレで賑わっておけよ。深夜テンション? 当たり前だろ深夜なんだから。お前さてはブラジル人か!?』


 何だかんだァ! 楽しそうだ。失礼噛みました。


 今日は香澄ちゃんも試験期間なので家にいないし、暇な私は適当に他のスクエアの方の動画を見たり、アイドリームの激辛焼きそばの配信を見たりして時間を潰していると、珍しい事にミトさんから個人的な連絡が入ってきた。


「ぁ……もし……っし…ミトさん? 聞こっ……ま…か?」

『回線が悪い物真似は、貴方がやると物真似じゃなくてただの通信不良になるから気を付けて。私じゃないと判断できないから』

「どうかしましたか?」

『大した用事ではないのよ。その、スクエアのマネージャーから何故か私にだけ先んじて連絡が入ったから貴女にも教えておこうと思って』


 ミトさんはいつも声に抑揚をつけるタイプではないが、内容が内容なのか少し声のトーンを落として言った。


『マジョがばーちゃるちゅーちゅーばーを辞めるそうよ』

「……そっちですか」

『あら、驚かないのね』

「いえ驚いていますよ。誰かが辞めるかもしれないという漠然とした予感だけはあったんですが、まさかマジョさんとは……何か理由があるんですか? 特に炎上してるなどという事もないはずですけど」

『私もついさっき“確定事項”として知らされたばかりなの。どうして辞めるのかもあの子の本音もまだ知らないわ。あくまでスクエア側の確定事項であって、リスナーには辞める“予定”とだけ伝えるらしいわ。ここからリスナーとの間に広がるお涙頂戴物はとんだ茶番劇ね』

「こらこら」

『でもそうでしょう?』


 杞憂が杞憂ではなくなった。ただし、アンズさんではなくマジョさんだっただけの事。


 私達の同期のマジョさんが辞めるという一大事に、悲しみの色が見えないミトさんに問いかける。


「ミトさんはそれでいいんですか?」

『いいも悪いも、彼女が決める事よ』


 ミトさんはいつもと変わらない口調でそう言った。特に強がりとか虚勢を張っているのではなく、本当に心からどうでもいいという風に。


『ただでさえ少ない三期生がもっと少なくなるわね』


 明日の天気は雨だね、くらいのノリで。


『……どうしてそこで貴女が悲しんでいるのよ?』


 人の心が見える、つまり人よりも見える物が多いミトさんは──もしかしたら逆に人より見えない物があるのではないかと、そう思った。


◇◇◇◇◇

切り抜き


カイザー「韓国って木刀はさすがにないか?」

唯華「どっかにあるかもしれないけど……どうして?」

カイザー「いや、俺がガキの頃の修学旅行で買った木刀は人にあげちまったからな。何ならもう一本送ってやろうと思ったんだが、無いならまあいいや」

唯華「木刀って人にあげるようなものなの?」

カイザー「この世で一番似合う奴にあげたんだよ。ところであいつどこ行った?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良き。
[一言] 五分僅かで五万枚超え。 例えばフレームレート60fpsで5分だとしても、5×60×60=18000の1万8千枚なんですが…。 アニメの場合、フルアニメ(ディズニーなど)でも24fps。日本の…
[一言] 何だかんだ上手く収まったと思ったら次の話が…神田ァ!?(ご機嫌なチョォウになって〜)
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