第四十四話 アニメの夢
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『最近の仮面ライダーはもう惰性で見てる感じだな。もちろん、それぞれ良い所はあるんだよ。演出とかは派手だし、ストーリーも意外と深い所突いてたりする。けど総合的にはやっぱり私は昔の方がいい。ビジュアルも含めてな。懐古厨? あぁそうだよガキンチョ』
〜コメント〜
俺もう子供いるからw ガキじゃねーから
↑精神年齢の事だと思います(親切)
親がまともだった俺はそれだけで幸せなのか
わいは世代もあってか剣が一番かなぁ
実はバーコード好き(ボソッ)
電車の返信音は着メロにした
アマゾン好きの俺は友達がいなかった
↑アマゾンは関係ないだろいい加減にしろ!
《エクレールII世》ドキドキ!は面白かったね
また陛下がお忍びで来てるよ
忍びれてないけどな
それ仮面ライダーじゃねーよ!
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アンズさんは相変わらず配信で自分の好きな趣味の事を思うままに話してる。自分の好きなものを堂々と好きだと言えるのは良い事だ。素直にカッコいいと思う。見た目もカッコいいので私的男装の似合う人ナンバーワン!
……でも、だったらこれはどういう事だろうかと、アンズさんからのメールを見て思う。
『おはよう! こんな朝早くからゴメンね(-_-;)
今週時間ある? 会って話したい事があるんだよね……あ! 全然来週とかでもオケだけど! 場所も希望の所があったら言ってね。その日は迎えに行くから! お返事待ってます♡』
ともすればオジサン一歩手前のメール。私がこんなメールを送ったら一日後には黒歴史確定案件。だが、何度宛名を見てもアンズさんで間違いはなかった。
手紙の時だけやけに可愛い言葉遣いになる人はいるけれど、果たしてこれはそういう部類なのか、それともウケを狙ってやっているのか。
まあ、どっちでも不思議ではない。アンズさんもまたばーちゃるちゅーちゅーばーという事なのだろう。
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「悪いな、今日は」
安定の黒ジャージ、そして軽トラで私の家まで迎えに来てくれたアンズさん。軽トラで来たのも中々の衝撃だが、いつかのメールを思い出して思わず笑みが溢れそうになるのを抑える。
『お返事待ってます♡』
いやー思い出すとダメですね。破壊力が2倍だ。
「どうかしたか?」
「アンズさん見てると笑いそう」
「泣かされたいのか?」
「いえ! 泣きたくないです。笑わないです」
「冗談だよ。私が暴力振るうように見えるか」
「……」
「おい待て。何でそこ何も言わないんだ。私がお前に何かしたか」
振るうか振るわないのか、どちらかと言えば大いに振るってそう。竹刀を片手に持ってないのが違和感に思えるくらい貫禄がありますからね。
「ったく、瞳の奴が……あぁエクレールな。あいつが言ってたよ。お前は鏡みたいだって。向き合う人によって印象が変わるんだ。とっつきやすいというか、思わず距離感縮めてしまうっていうか、要は恋愛ゲームの主人公だな」
「今まで言われた印象の中で一番嫌な部類かもです。大変不名誉ですね」
「受け入れろよ。現に私もこうして、お前に対して安心感みてーなの感じてるんだからな」
そう言ってアンズさんは顔をクイっとしゃくり、「乗れよ」と言ってくる。私は初めて軽トラックの助手席というものに座り、目的地の回転寿司までジッとしておく。さっきの流れで何だか気恥ずかしさを感じたが、道中ずっと仮面ライダーメドレーが流れていたので気持ちは楽だった。
どうして回転寿司にしたのか、単にエクレールII世さんとが焼肉だったので次は魚かな? と思って決めただけだ。席はもちろん回るお皿の最後尾。流れ着いた残り物を手当たり次第に回収して食品ロスを消す私は飲食業界の革命児かもしれない。
三連続カッパ巻きが流れてきた時は何かを察した厨房との直接勝負を挑まれた気がしたが、普通にカッパ巻きはスルーした。私だってちゃんとした魚の方を食べたいんです。
ガチャポンを10個くらい得た時に、ようやくアンズさんが今回の本題に入ってくれた。
「何から話そうか、お前が今日食べた皿の枚数はとりあえずスルーとして、まずはこれを見てもらいたい。いや、やっぱり一言だけ。一人無限倉寿司やめろ」
アンズさんから渡されたのは数十枚の紙。私はアンズさんの趣味に対して詳しくはないけれど、多分仮面ライダーの絵。正面の立ち姿だったり、必殺技のポーズだったり。映画特典の最後の方に載ってそうな設定集もたくさん。
「私には夢があってな。アニメを作りたいんだ。ずっと子供の頃からの夢だった。正直、それに比べたらばーちゃるちゅーちゅーばーは私にとって、あまり重要な事じゃないんだよ」
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切り抜き
「ばーちゃるちゅーちゅーばーを卒業したい?」
エクレールII世さんが、私の言い間違いではないかと聞き返す。しかしプロジェクトマネージャーの誇りに欠けてそんな事はあり得ないし、きっとそれはエクレールII世さんも分かっていた。
「彼女は本気で、辞めるつもりです」
「……難しいところだなー。もちろん絶対にダメだと言う事は出来ないよ。きっとちゃんと考えて考えて決めた事だろうからね。辞めたいという事なら私はそれを止めるつもりはない」
ばーちゃるちゅーちゅーばーの卒業は、特に今回が初めてではない。誰にだって事情がある。生き方がある。最終的に私達はそれを笑顔で見送るくらいの気持ちで、またいつかとサヨナラをするのだ。
「辞めたいと思ったのなら私は止めないけど、なら、誰かが辞めてほしくないと引き止める気持ちも同様に私は否定しないよ」
エクレールII世さんはそう言って、再来月の予定である第四期生の実装についての企画書に目を通す。
去ってしまう人もいれば新しく入ってくる人もいる。当たり前の事だが、受け入れきれない気持ちも心の隅にある。私達はばーちゃるちゅーちゅーばーに対してつい自分に都合の良い理想を押し付けてしまいそうになるものだから。
でも、私はプロジェクトマネージャーだから。あくまでも中立に、彼女の卒業に対して静かに見守ろうと決意した。




