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第三十四話 プロ○○○

◇◇◇◇◇


「ふぅ。予想よりも楽に終わったよ。キミの身体や動きが理論上そうであるべきという計算に限りなく近いみたいで負荷が少ない。滅多にバグも起きないと思う。来月に実装予定だっけ? お疲れ様」

「ありがとうございますポンニョさん! もう上着とか羽織ってもいいですか?」

「これ以上その薄着でボクの目を焼き焦がしたくなかったらね」


 見るだけでダメージを与えるとか、私は邪神か何かですか。もしかして私は、公共の海水浴場では簡単に水着姿にだってなれないかもしれなかった。


 海で水着姿で首から上を隠した自分を想像していると、この部屋に内線が繋がる。慣れた手つきでそれを取ったポンニョさんだったが、内容を聞き取る度に顰めっ面になっていた。


「……キツく言っといてよ。その方が本人も楽だろうから。じゃ、こっちはもう少し待機してるよ。この子を一階に行かせなければいいんだね。了解」

「何かあったんですか?」

「受付でトラブル、とも言えないチャチなものだと。ただキミが今そこへ行くと更に厄介事が起きそうだからもう少し待っていて欲しいってエクレールII世さんが言ってる。ボクらはここで大人しくしておこう」


 受付で、という事は外部の人間が関わっているのでしょうか? そうなると企業の方か又は他社のVtuberぐらいしかいないものですけど……


 気にはなったが好奇心で誰かに迷惑を掛けるのは忍びない。初めて自分の変装スキル(骨格変形声帯模写)を試そうと思ったがやめておく。


「それじゃあ、飲み物でも買ってきますね。この階にも自動販売機ありましたよね?」

「部屋を出て左の突き当たりかな。ボクも行くよ」

「いえいえ、ポンニョさんはお疲れですからね。私がカカッっと買ってきますよ」

「そう? じゃあ、コーヒーがいいな。熱いやつ」

「かしこまりです!」


 ポンニョさんは自分では気付いていないみたいだったが、動きにキレがない。疲れているのだろう。飲み物の一つでもお渡しするのが後輩の役目だ。なんていうのは建前でここの自動販売機のラインナップに興味があったというのが大きな理由だ。


 ポンニョさんに言われた通りに部屋から出て左を向くと、確かに奥の突き当たりに自動販売機が見えた。階段やエレベーターとは反対の場所なので知らなかった。


「──これは、運命っ!」


 歩き出した私になにか大層なセリフが聞こえたが、あまり関わりたくないノリだったので無視して前に進む。


「待ってです。そこの女神!」


 女神と呼ばれる人なんて、自分くらいしか知らない。まさかこの声の主は私を呼び止めているのか? 薄々察しつつもどうか諦めてくださいとお祈りしながら足を早める。


 だが、丁度自動販売機でコーヒーを選んでいる時に追いつかれ、いわゆる壁ドンというやつをされる。壁ではなく自動販売機だったので壁トンくらいの勢いで。


「私は今この瞬間にとても愛を感じている」


 言葉の節々がヤバみの人だった。


 特徴的なのはその髪型。解けば腰まで伸びているであろう髪の長さ。しかし綺麗に纏めてあり、整った顔も相まってゲームで出てくる戦国武将みたいな人だった。


 この人を今からバサラと呼ぶ。


「初めまして。私は李ーシャンです。貴女と話したい為に、日本語をとても勉強しました。結婚をよろしくお願いします」

「最後がおかしい」

「……あー、お願いしますです」

「そういう事じゃなくて」


 バサラさん改めて李ーシャンしゃんは、間違えた李ーシャンさんは真面目くさった顔を向けたまま、私に熱い視線を送ってくる。


 そういえば初めてかもしれない。こんなに露骨に私に好意を向けてくる相手は。言い換えればそれは対等に見ているという事だ。この人はきっと、相当の自信家なのだろう。私にプロポーズをするというのはそういう事だ。


「紫禁城で式を挙げましょう」


 もしくはただのお馬鹿さんだ。


「結局貴方は、私のファンという事でしょうか?」

「ファン……粉丝? 半分はその通りでしょう。しかし半分は違う。私は貴女を画面で見た時から他の誰とも違う特別を感じた。一目惚れだった。そして今さっき、私は二度目の一目惚れを行った。貴女は正にこの世の理想だと私はとても思っている」

「悪い気はしませんけど……」


 ただ、ひしひしと伝わるガチ恋視線が突き刺さって痛い。私が何故さっきあんなにもこの人とエンカウントしたくないのか理由が分かった。


 この人は私をはっきりと異性として意識している。それが初めての感覚で妙にこそばゆいのだ。


 そして距離が近い。髪が今にも触れそうな程近い。思わず鳩尾にストレートパンチをお見舞いしたくなる。この人がただの不審者ならそれもありだが、あいにくとこの人の正体に思い当たる節があった。


「李ーシャン……あのプロゲーマーの李ーシャンですか」

「奥利给!! 信じられない! 私がそうです! 貴女に覚えてもらっているなんてとても光栄だ。しかし私も、祖国で一番貴女を最初に知っている動画を挙げました。それは知っていますか?」

「いえそれは全然」

「うぐっ……私は落ち込みません。何故なら大切なのはこれからです。いつだって、今からが大事なのです」

「ポジティブで良い事だと思うんですけど、そもそも何故貴方がここにいるんですか? まさか私に会いにきたというだけではないでしょう」

「もちろん私はそう言いたい。ですが、貴女に会えたのは運命。既にご承知でしょうが、私共は圧力をしにきました。今度のVtuberの参加する銃の競技に、私共も戦うからです」

「圧力?」

「挨拶」


 銃の競技とはブイペックス レジェンズの事だろうか。プロゲーマーが参加するだなんて少なくとも私は聞かされていないけれど。


 普通のVtuberとプロでは流石に相手にならないと思うんですが、そこはハンデとかあるんでしょうか。


「もしかして一階のトラブルとやらも貴方が原因ですか?」

「いいえ? 私はそれを承知していません」


 あら、当てが外れた。偶には私の勘も違うらしい。仕方ないよ人間だもの。自分をそう慰めていると突然李ーシャンさんに手を掴まれる。


 両手でギュッと力強く、けれども優しさで包み込み、何より愛おしい物に触れるように──決して離さないと言わんばかりに。


「誓います。今度の大会で優勝した私は、貴女と結婚をした」


 誓いますのその後はとんでもない押し売りだった。こんな宣言を目の前でされたら神父も助走をつけて懺悔室送りにする事間違いなし。


 私の反応で雲行きが良くないと察した李ーシャンさんは、何度か咳払いをした後誓いをやり直した。


「誓います。今度の大会正々堂々と優勝した私が貴女を迎えに行く事を。私はそれを認めてほしい」


 まあ先程よりはマイルドな表現に変わったが、プロポーズである事に変わりはない。


 まさかプロゲーマーからプロポーズされるなんて思いもしなかったが、あいにくと私はこの人の事を何も知らないし結婚をするつもりもない。


 すげなく断ろうとして考え直す。わざわざ波風を立てる必要もないし、何よりこの人の条件は優勝ときた。確かに並のばーちゃるちゅーちゅーばーなら太刀打ちも出来ないだろうが、私にはカイザー五条さんがいる。あの人が同じチームにいるなら、私は絶対に負けないという確信があった。


「貴方が優勝したら、ですね。分かりました。その時は前向きに検討させて頂きます。でも……何だか対抗心がふつふつと沸き上がってきました。負けるつもりはさらさらありませんよ?」

「ふふっ、より素晴らしい。やはり私は貴女が欲しい。それでも勝利はこの私が──」

「あー! こんな所にいやがった!」

「おや、たかひろ。聞いてほしい。今私は」

「うるせーさっさと帰るぞ! うろちょろしてたらマジ契約違反になっちゃうって! すんませんこいつ方向音痴なのに放浪癖があって……うわっロイド!? 俺の目がバグったのかと……って、すんません俺は何も見てません! とりあえずこいつ連れて帰りますんで。ほら行くぞ!」

「必ず! 必ず誓いを忘れないで!」


 最後に李ーシャンさんは首根っこ掴まれて去っていった。もう一人の人はきっと日本人プロゲーマーだろう。たかポンという名に似ている。どちらもゲーマーとして名の知れた方々だ。


 どうやら今度の大会では一波乱が待っているらしいと、この時の私は余裕綽々に身構えていた。


 カイザーさんが出場出来ないかもしれないという話と、逆にエリザベスさんがチームに加わるという話を聞いたのは、それから数十分後の事だった。


◇◇◇◇◇

切り抜き


 コーヒーが冷めないようにと様子を見に来たポンニョは、陰からいつでも李ーシャンを撃退出来るように自作護身武器(合法)を構えていたが、特に何事も無かったのでこっそりとまた部屋に戻った。


切り抜き2


たかひろ「……あれ、さっき誰と会ったっけ?」

李ーシャン「──我が運命の方」

たかひろ「何じゃそりゃ」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自分の体を軽く売る系主人公
[良い点] Vtuberものが流行ってきてうれしい、うれしい [気になる点] なろう、カクヨム、ハーメルンで進行がバラバラなのは何故だろうか [一言] 美形、美少女がいっぱいだぁ(現実の前世に目をつむ…
[一言] 余所の企業の社屋内を勝手に歩き回るやべー奴
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