9、旦那様に会いに
公爵邸は、今日は朝からバタバタしていました。何故なら、今日からまたテオのご両親がこちらに滞在するからです。
屋敷の者総出で、屋敷の隅から隅まで綺麗にして、食材の準備に段取り、それにお部屋の支度‥と慌ただしく動いていました。
リリアも、テオにご両親が今日来ると言う事を伝えるために、お城へ向かいました。
お城へ着くと、早速テオのいる近衛隊の隊長室へと通されました。
「‥リリア、ここまでおしかけて来るとは、よほどの事なんだろうな!」
「‥旦那様のご両親が今日、うちにお泊まりになります。ですので、今日はうちに真っ直ぐ帰宅して頂きたいのです。」
「‥何故もっと早く言わない!?」
「‥言おうと思ってずっと旦那様の帰宅を待っていましたが、旦那様は一度もお帰りにならなかったじゃないですか。」
「‥ちっ、嫌味か?‥お前は本当に使えん嫁だな!」
「‥そうですか、すみません。」
「‥今日はベラと共に街へショッピングへ行くんだ。‥夕食もレストランを予約してあるんだ。今更‥キャンセルなんてしたら、ベラががっかりする‥。」
「‥‥。」
「‥リリア、お前のせいだからな。だからお前が何とかしろよ。僕が仕事だとか、上手い事を言ってごまかしておけ。‥今日は家に帰らないから。」
「分かりました。旦那様は今日も家に帰らないのですね。‥ご両親はがっかりされるでしょうが、うまく説明します。‥‥それにしても旦那様、ベラ様にプレゼントばかりしてますが、プレゼントなしでは愛してもらう自信はありませんの?」
リリアは、テオがご両親よりもベラ様との約束を優先した事に腹を立てていた為、帰り際に思わず嫌味を言ってしまいました。
テオの顔は、怒りで一気に紅潮してきたようです。リリアを拳で殴りつけようとしました。
その時、テオが目をおさえてしゃがみ込んでしまいました。
「うわぁ、急に目が痛い!染みる!‥誰か、医師を連れて来い!」
テオがそう叫ぶと、扉の外に控えていた者が、医師を呼びに行ったり、テオの介抱をし始めました。
それを冷めた目で眺めながら、リリアはテオのいた隊長室を退室しました。
「‥リリア、危なかったね。」
「ミント、ありがとう。香りであなたが助けてくれたのだとすぐに分かったわ。」
「あいつの目にミントのオイルを垂らしてやったからな、相当痛い筈だよ。」
「‥‥。」
「‥リリア?」
「‥私ね、旦那様のご両親の為にも、結婚生活を三年間送る間にテオを更生させようと少しは思っていたのよ。‥でも駄目ね。完全に怒らせちゃった。
もう私の言う事なんて、旦那様は何も聞いてくれないわ。‥それどころか、離縁の日まで、二度と顔も合わせないかも。‥これでも大分旦那様に歩み寄るよう努力したのよ‥。
はあ、無力だわ。」
「‥リリア、君が責任を感じる事はないよ。‥今すぐあいつの両親に全てを話すんだ。そして、円満な離縁に向けて協力してもらおう。」
「‥領民達は?屋敷の者達は?どうするの?」
「‥リリアの両親の領地へ、来たい人だけ連れて行けば?それに、リリアがやろうとしている事業も、別にリリアの両親の領地にいても出来るだろう?」
「‥森はテオの領地にあるもの‥、無理だわ。」
「‥リリア、前に行ったよね。頭を柔軟にして考えてごらん。森の中の空間は、自由な空間なんだ。実際はこの国よりも広い空間なのだと言ったよね。」
「うん。」
「つまり、森の中の花畑や湖のある空間は、リリアの両親の領地にある森の中にも移動できるんだよ!」
「‥そうなの?」
「‥それにリリアの両親の領地も、外からは分からないように、広げられるよ。」
「‥分かったわ。色々と考えておくわ。」
リリアは何となく、テオとの離縁の日があと二年半どころか、一年の内に訪れてしまうような予感を感じていました。




