8、マンドラゴラのゴラちゃん
リリアとミントとランが森の中に「ハーブ工房」を建設して、中でミントやラベンダーのオイルやハーブのウォータースプレーを作っていた頃、チッチとディーラが何日かぶりかに帰って来ました。
「‥リリア、ただいま。‥僕達の友達も連れて来たんだけど、一緒にここへ置いてくれる?」
「ソレに私達、色んな国や島へ行って珍しい花の種を集めて来たのよ。」
そう言って、不思議な植物?をリリアの部屋のテーブルの上に連れて来ました。
「キュキュ、キュ。」
不思議な植物は、可愛らしい鳴き声を出してリリアに挨拶をしてくれました。
「‥あなた、何者なの?あなたは『キュキュッ』って言ってるだけなのに、私には何故かあなたの言いたい事が分かってしまうわ‥。」
「キュキュ、キュキュ。」
「‥マンドラゴラという植物なのね。」
マンドラゴラという植物のその子は、頭には豊かな緑の葉を生やし、その葉の下の根っこ部分が顔と体の役割を果たしているようでした。
「キュキュ。」
「‥あっ、名前?‥ゴラちゃんっていうのはどうかしら?」
「キュキュ!」
「ゴラちゃん、名前を喜んでくれてるのね。」
「‥リリア、じゃあゴラちゃんもここに住んで良いんだね。」
「勿論よ。‥あと、チッチとディーラに報告があるのよ。」
リリアは、窓の下のミントとランに森に連れて行ってもらった事や、妖精のハーブ工房を作った事、それに湖に住む妖精王に会って求婚された事を話しました。
「‥リリア、妖精王と今すぐ結婚するんだ。なんで、まだあと2年半も待つんだ‥。」
「‥約束したことだから。それに、2年半経ったら、綺麗さっぱり離縁してもらえるんだし、私の両親にも迷惑がかからないように別れられるのよ。」
「‥2年半後に本当に離縁してくれるのかな?引き留められたら、どうするの?」
「‥それはないわ。‥顔を合わせる度に話しかけるようにはしてるけど、小言ばかり言っていたせいか、今では避けられてるみたいなの。」
「‥なら、もう少し早く離縁してもらえば?」
「‥旦那様のご両親が、あんまり早くに離縁すると悲しむのよ。」
「‥旦那の悪行をそのご両親は知ってるの?」
「‥ご年配のご両親なの。なんの心配もなく余生を過ごして欲しいの。」
「‥リリアのお人好し!」
リリアのお人好しぶりに、少し腹を立てたチッチとディーラですが、手に入れた珍しい花の種をリリアに渡してくれました。
そして話し合いの結果、これらの種も森で育てる事になりました。チッチとディーラが妖精王へ植えていいかの了解を得た後で、森の花畑へ植えてきてくれるそうです。
「リリア、行って来るね。」
「行ってらっしゃい。」
チッチとディーラが森へ行った後、リリアはマンドラゴラのゴラちゃんとたくさんお話ししたり、遊んだりしました。
そして、食肉植物や薔薇の鉢植えの隣に、ゴラちゃん専用の鉢を置いてあげました。
するとゴラちゃんは、早速鉢の土の中に潜って、野菜に擬態しました。
「やぁだ、すっごく可愛い!大好き、ゴラちゃん。」
「キュキュ?」
リリアは、ゴラちゃんにたくさん癒されるのでした。
一方、テオは今日も懲りずにベラのもとへ通っていました。
「ベラ、愛してる。君が僕と結婚してくれるなら、妻とは今すぐにでも別れる!両親はもう隠居してるんだ。だから、誰にも遠慮なく結婚できるんだよ。」
「‥テオ様、駄目よ。奥様を大切にしなきゃ。‥私はこうしてあなたと時々会えるだけで嬉しいの。」
「ああ、ベラ。なんて慎ましいんだ。‥ほら、今日もプレゼントを持ってきたよ。」
テオはそう言って、小ぶりの宝石のついたネックレスをベラにプレゼントしました。
ベラは、いつもと違う小ぶりの宝石に、思わず顔を強張らせてしまいました。
『何よ、これ‥。馬鹿にしないでよ!こんなものなら、他にくれる人なんていっぱいいるのよ!‥テオだからこそ、私にあげれる豪華なプレゼントがあるでしょ!‥‥テオの妻のせいね。妻がテオの買い物に口出しをするようになったのだわ!‥許さないわ!』
「‥ベラ?」
「‥あっ、ごめんなさい。ぼーっとしてたわ。‥ありがとう、とても可愛らしいわ。」
「‥良かった。君は優しいね、何をあげても喜んでくれる。」
「あら、奥様は喜んでくれないの?」
「‥妻には一切プレゼントはあげていないよ。‥僕の心はベラだけの物だと言っただろう。‥お願いだよ、ベラ。今日こそ君の返事を聞かせてくれ。‥もう気が狂いそうだよ。」
ベラは、大笑いするのを堪えながらテオに言いました。
「‥あなたの気持ちはありがたいわ。だけど、あなたが奥様と別れない限りは何もきけないわ。」
「‥妻とはあと2年半ほどで別れるんだ。両親を喜ばす為の目眩しの結婚だったんだ。妻をまだ抱いた事もないし、家でもあまり交流はないんだ。」
「‥プッフフ、アッハハ。」
ベラはとうとう堪えきれずに大笑いしてしまいました。
『巷で妖精のように美しいと有名なリリアが、旦那にプレゼントを一切貰った事がないだなんて、それに一度も抱かれてないだなんて、‥なんて滑稽なのかしら。
彼女は間違いなくテオに愛されてないわ。それに、テオは私に本気で惚れてるわ。なんて愉快なの。』
「‥ベラ?」
「‥あっ、ごめんなさい。何でもないの。ただ、あなたの気持ちが嬉しかっただけ。」
「ベラ!では、僕の気持ちを分かってくれたんだね。」
「ええ。」
「‥べラ、君の気持ちは?君は僕の事だけを好きでいてくれるかい?」
ベラはすがるように愛を請うテオを、内心鼻で笑いながらも‥‥テオを好きだと口先だけで言ってのけるのでした。
「勿論。テオ様を好きよ。だから、今日も帰らないで。」
「ああ、ベラ!愛してる!」
テオは今夜もベラと一夜を共にして、そのままベラのベッドで満足して眠りにつくのでした。
「‥ちっ、下手くそ!‥本当にテオは顔とお金だけの男ね。」
ベラは、テオをベッドに残し、着替えるとそのまま外へ出て行きました。
ベラの屋敷の前では、背の高い紳士が立っていました。
「‥ああ、ラスター!」
ベラはラスター侯爵に抱きつくと、腕を組んでそのまま彼の馬車に乗り込み、夜の街へと消えて行きました。
ベラは、未亡人になってすぐにラスター侯爵と深い関係になりました。
ですが、ラスター侯爵には奥様と子供がいました。それに、結婚する気はないとはっきり言われていたのです。
なのに、ラスター侯爵の言うがままに、賭博をさせられ、いつのまにか毎晩のように賭博場へ通わないと気が済まないほどの依存症になっていたのでした。
それに、賭博の後は必ずラスター侯爵がベラを抱いてくれた為、ベラはますます賭博通いをやめられずにいたのです。
「‥ベラ、今日の資金は?」
「‥こんな小さな宝石しかないの。」
「‥大丈夫だ。質はいいから、これだけあれば結構遊べるな。」
「嬉しい。」
テオは、まさか自分が寝ている間に、ベラが自分のプレゼントした宝石を元手にして、他の男と賭博をしていただなんて夢にも思わなかったでしょう。
何故なら、テオが目覚める頃にはベラは必ず部屋に戻っていましたから。
「おはよう、テオ様。」
「おはよう、ベラ。いい朝だね。」
テオは寝る前に自分が飲んだワインに、睡眠薬を入れられていた事も知らずに、爽やかに目覚めるのでした。