6、執事VS旦那様
翌日、執事はテオにリリアの集めた資料を見せて言いました。
「‥ご主人様がベラ様に貢いだ金額の総額と、明細、商品のリストがこちらです。‥お確かめ下さい。
ご主人様は、奥様をやりくりが下手だと責めますが、実は奥様が公爵家の資金管理を行う前から支出が、収入を上回っていたのです。
‥それと、ご主人様の買った商品は全て正規の金額よりも相当高い金額で売りつけられていたようです。‥これらを全て奥様が調べて、不当に取られた金額も回収してきて下さったのですよ。」
「‥だから、何だ。感謝しろとでも言うのか?それとも、今後は買い物をするなと言うのか?‥‥どっちもしないからな!」
「‥それと、奥様へのプレゼントを購入されたそうですね。奥様へはもう渡しましたか?」
「‥何の話だ?僕があいつに何かを買う訳がないだろう。‥あいつに買ってやるお金が余ってるようなら、間違いなくベラに何かを買ってやるよ。ベラは喜び上手だから、贈りがいがあるんだ。」
「‥では、奥様へのプレゼントは買って無いのですね。」
「そうだと言ってる!」
「‥なら、このお店で購入した装飾品はベラ様に差し上げたのですね。」
「そうだ!僕の稼いだお金で、ベラにプレゼントをして何が悪い!」
「‥領民から徴収した税金は、ご主人様のものではありませんよ。この領地や公爵家の経営に使うべきお金です。」
「‥なら、僕が王宮で仕事をして稼いだお金の範囲内で、ベラにプレゼントをすればいいんだろ?文句ないな!」
執事は、テオのその言葉を聞いてほっとしました。これで、テオのベラへの貢ぎ物への浪費を減らせると思ったからです。そして、この事を早くリリアに報告して、少しでも喜んで貰えたら‥と思うのでした。
一方、リリアは何か領地の収入源になりそうな物をと、あれこれ必死に考えていました。特に、お花を使って何かをしたいと思っていたので、花の事を色々と調べていました。
食べられるお花、鑑賞用のお花、色々と考えてはみたものの、これぞという物に辿り着く事がありませんでした。
リリアがなぜ花にそこまでこだわるのか‥。それは、リリアが花の妖精達との縁が深いからです。
リリアは、人との付き合いが苦手でしたが、花や花の妖精達とは昔からすぐに打ち解ける事ができた為、いつしか人間の誰よりも信頼できる存在となっていたのです。
そんなリリアだからこそ、この世界にもっと花を増やして、人々の心に花の癒しを届けたかったのです。
「‥昔、とても荒んでいた国があったのよ。国中にゴミが溢れ、人々は喧嘩ばかりしていたし、犯罪も絶えなかった。‥だけど、その国の王様が、国中に花を植えたの。
そうしたら、国の犯罪が少しずつ減っていって、街も綺麗になったのですって。」
「‥そうなの?」
「‥そうなの。」
リリアは、最近自分の中に何者かの気配を感じるようになっていた為、時々こうして話しかけてやっていたのです。すると、今のように時々誰かが相槌を打ってくれるのでした。
「‥リリア、こっちこっち。こっちを見て。」
「‥あなたは‥ミントの妖精さん?」
リリアが窓の下を覗くと、ミントやラベンダーの生えてる辺りから声がしました。
窓の下の花壇には、私がここに嫁いでから植えたハーブのミントとラベンダーがもう成長して大きくなっていました。そのまわりを、水色の男の子の妖精と、薄紫の女の子の妖精が飛んでいました。
「‥やけにミントやラベンダーが香ると思ったら、あなた達だったの。」
「‥ねえ、名前付けてくれる?」
「‥ミントとランはどう?」
「‥僕がミントで、この子がランか‥。良いね。ありがとう。」
「‥そうだ。あなた達、もっともっと増える事はできる?」
「‥場所さえあれば、それはもう無尽蔵に‥。」
リリアは、ミントとランの香りを嗅いで、良い案が浮かんだようです。
「‥私、良い事を思いついたわ。まずは手始めにミントを沢山栽培して、煮出しながらオイルを抽出するの。抽出した残りの水も、ルームスプレーとして売ればいいわ。」
早速、リリアはミントを栽培する場所の確保と工房を作る計画を立てるのでした。