4、旦那様の無駄遣い
テオは仕事からの帰り道、ベラへの贈り物を買いに街の商店に寄りました。
「ああ、ベラに僕の気持ちを早く分かって貰わなくては‥。ベラさえ僕と結婚して僕だけのものになってくれるというのなら、僕は今すぐにだって、あの生意気なリリアと別れてベラと結婚するのに。」
テオがぶつぶつ言いながら、店内の宝石を見て回っていると、店長がやって来ました。
「公爵様、ご結婚おめでとうございます。‥奥様への贈り物ですか?」
「‥いや。」
「‥えっ?」
「‥あっ、じゃなくて、えーっと‥そうだ。奥さんへあげるんだよ。このお店で一番高価な物を持ってきてくれ。」
「かしこまりました。」
店長は、満面の笑みを浮かべて店で一番高価な装飾品を、少し金額を上乗せしてテオに売りつけました。
テオはとても満足して、ベラの屋敷へと向かったのでした。
一方その頃、公爵邸では‥
「‥何これ!公爵邸のお金の支出の記入がこんなにいい加減なんて‥‥。なぜ雑費や交際費の名目でこんなにお金が使い込まれているの?‥それに、屋敷の者達への賞与がここ何年か支給されてないじゃない!」
屋敷の執事が、リリアに責められていました。
「‥申し訳ありません。ですが、ご主人様の、その‥お金の使い道が‥。」
「‥はっきりと言って下さい!」
「‥はい!ご主人様がベラ様に沢山の宝石やドレスを貢ぐ為、公爵家の財政状態は危機的な状態です!」
「‥‥何とかしなくてはいけないわね。」
「奥様!宜しくお願いします。」
執事はリリアに深く礼をしました。
執事はもうすぐ15歳になるリリアに屋敷の会計簿を見せてくれ、と言われた時には正直ムカッとしましたが、段々と話を続けるうちに、いつの間にかリリアを信奉するようになっていました。
‥実はリリアは、テオと婚約をする前からお金の管理に煩かったのです。‥というのも、リリアはお金の節約が大好きだったのです。
お金を節約したり、無駄な物を買わなかったり、そういった事をする事に喜びを見出だす思想の持ち主だったのです。
リリアは、公爵邸の金銭管理を執事から引き継ぐ事にしました。
そして‥その晩、リリアはテオが帰り次第その事をテオに伝えようと、ひたすらテオの帰りを待ちましたが、とうとうその日テオは公爵邸には帰って来ませんでした。
翌日、仕事帰りに公爵邸へ帰って来たテオは、執事に案内されてリリアの部屋へ通されました。
「‥リリア、僕は仕事で疲れてるんだ。用があるなら、さっさと済ませてくれ。」
「‥旦那様、これを見て下さい。ここ何年かの毎月の支出額が、領地の収入額を超えています。‥心当たりはありませんか?」
「‥はっ、そんな事か。‥領地の収入や屋敷のやりくりの事は、君の仕事だろ?僕のせいじゃない。‥君のやりくりが下手なんだろう?」
リリアは、言葉を失いました。執事も同じ気持ちだったのか、驚いた顔でテオを見ていました。
「‥私が嫁ぐ前からの経営については、誰がやっていたのですか?」
「執事が卒なくこなしていた。何の問題もなかった。」
「‥あくまで私のせいだと言うのですか?」
「‥それしかないだろう?」
「‥この交際費名目の支出額の異常さも私のせいだと?」
「‥僕だって付き合いは色々あるんだ。それも鑑みて、もう一度君にお金の管理をするチャンスをやろう。‥それでももし赤字が続くなら、君は二度とお金の事に口を出すな!不愉快だ!」
テオはそう言って、リリアの部屋をさっさと退室してしまいました。
執事は頭を抱えながら、リリアに言いました。
「‥ご主人様には、私から話しておきます。ご主人様がベラ様に貢いだ金額の総額を出してご主人に見せてみます。‥‥ご主人様のベラ様への貢物は段々とエスカレートして行ってましたから‥これを機に目を覚まして欲しいものです。」
こうしてリリアと執事は、テオの恋の病の弊害の大きさに慌て出したのでした。