3、結婚初夜
婚約から三ヶ月後、リリアはテオと結婚しました。
リリアがテオと結婚してから、テオの両親はテオに家督を譲り、領地へ隠居をしてしまいました。‥とはいえ、領地から頻繁に王都の公爵邸へ訪れては泊まって行ったのですが‥‥。
結婚後、初夜の日にテオはリリアの部屋に訪れて言いました。
「‥その、確認なんだが‥‥約束通り、初夜は行わなくてもいいんだよな?‥僕は自分の部屋で寝るから。君も自分の部屋で寝ているといい。決して僕の部屋には来ないでくれ。」
「‥ええ、分かりました。」
「あと、他にも君に言っておく事があったような‥‥。」
部屋の椅子に腰掛けて何だか落ち着かない様子のテオに、リリアは言いました。
「‥宜しければ、せっかくですので少しお話でもしませんか?‥夫婦の営みは出来なくても、二人で協力して、これから三年間公爵家を盛り立てていかなくてはならないのですから。‥無駄に啀み合う必要もないのでは?」
「‥そうだな。三年間共に社交の場に出たりするわけだし、会話ぐらいは時々してもいいのかもな。」
こうして二人は初夜の夜に、語り明かしました。主にテオがベラの惚気話をするのを、リリアがひたすら聞いていただけですが‥‥。気付くと、テオはリリアの部屋で朝を迎えていました。
「‥しまった!寝てしまった。」
「‥別に夫婦だから良いのでは?」
「‥駄目だ!ベラに誤解される!」
「‥何をですか。」
「‥君と同じ部屋で過ごした事が屋敷の者達から、外へ漏れたら‥ベラに君と一夜を共にしたって知られてしまう。そうしたら、きっと君を抱いたと思われる‥。ベラはきっと僕にがっかりするに違いない。」
テオはそう言って、頭を抱えて落ち込んでしまいました。‥リリアは、そんなテオを見て呆れていましたが、馬鹿にしたくなる気持ちを我慢して、旦那様を宥める事にしました。
「‥旦那様、本当に話をしていただけだと正直に言えば宜しいのでは?別に嘘じゃありませんし。」
「‥ベラは信じてくれるだろうか?」
リリアは、内心舌打ちし、『知るかよ!この恋愛ボケ!』と突っ込みを旦那様に入れながらも、作り笑顔で言いました。
「‥いつまでたっても子供ができなければ、ベラ様も最初は疑っても、そのうち信じて下さるでしょう。」
「‥でも、僕が君と結婚しただけでもう、他の男達に差をつけられているんだ。‥どうすれば、ベラは僕だけを愛してくれるようになるだろう?」
「‥‥。」
リリアは、旦那様の呆れた考えと言葉に、一瞬気を失いそうになりました。
『‥‥この恋の病は重症ね。呆れちゃうわ。‥それにしても、私の旦那様は情けなくて可哀想な男ね。』
リリアがそんな風に思っていると、花の妖精のチッチとディーラがリリアのそばにやってきました。
「‥リリア、むかつくからコイツ喰っていい?」
チッチは、珍しい食肉植物の花の妖精なので、人間も食べる事ができるのです。
チッチが部屋の窓側の鉢植えから顔を十字にパカッと開き、テオの顔の前に迫って来ていました。
ヒイィ一!
テオはチッチに驚いて、リリアの部屋から出て行ってしまいました。
「‥チッチ、ありがとう。あれ以上聞いてたら、きっと手が出てたわ。」
「‥何よあいつ、リリアの前で他の女の話なんかして馬鹿みたい!最低!」
薔薇の花の妖精、ディーラはトゲを逆立てて怒っていました。
「‥旦那様、ベラ様に相当入れ込んでいるようだけど‥何だか旦那様の話を聞く限りでは、ベラ様に弄ばれてる気がしないでもないですけど‥‥。」
リリアは、心から旦那様を哀れに思うのでした。