11、旦那様の帰宅
リリアは、テオのご両親と共に何日か過ごし、その間に色々な事を話し合いました。
「‥では、リリアちゃん。あなたのご両親も悪いようにはしないから、安心してね。私の兄さん‥王様にも話をしておくわ。‥いずれリリアがテオと別れて妖精王と結婚するかもしれない事や、この公爵領をいずれ次男に継がせるかもしれない事を‥。」
「‥リリアさん、テオとベラさんは手強そうだ。‥くれぐれも内密に、我々の動きが向こうにバレないように動こう。」
「‥分かりました。」
リリアは、テオのご両親を名残り惜しい気持ちで見送ると、森へ行きました。
この事を妖精王へ報告をする為です。
こうしてリリアは、この短期間の間に両家の両親や、王様、妖精王を味方につける事になるのでした。
一方、テオはベラに恥をかかせてしまった事をとても反省していました。そして、今度こそベラをガッカリさせないようにと、公爵邸へ戻り、リリアを探していました。リリアを探していたのは、リリアを殴って大人しくさせる為でした。
「リリアー!リリアー!」
「‥ご主人様、リリア様はお仕事をしに外へ出ております。」
「‥何、仕事だあ?リリアに何が出来ると言うんだ‥。‥どうせ、遊び呆けているのだろう‥。全く良いご身分だ。」
「‥‥。」
執事は『どっちが!』と突っ込みたいところをグッと堪えて、にこやかに答えました。
「奥様は大変真面目で素晴らしい奥様です。従業員一同奥様を尊敬しております。‥奥様は決して遊び呆ける方ではありません(どこかの誰かさんと違ってね)。」
「‥チッ、もういい!部屋でリリアを待つ。‥リリアが帰って来たら、すぐに僕の部屋に来るように言っておけ!」
「‥かしこまりました。」
そう言って執事が立ち去った後、テオは久しぶりに戻った屋敷の中を歩きながら、何となく異変に気付きました。
屋敷の者達が笑顔で明るく挨拶をしてくるし、屋敷の内装も明るく爽やかなものになっていたからです。それに、屋敷内に爽やかな香りが漂っていて、とても心地よかったのです。
「‥‥。」
テオが久しぶりに自分の部屋に入ると、部屋の中も綺麗に整えられてましたし、部屋の中には珍しい花も飾ってありました。
長らく留守にしていたというのに、花はまるで毎日取り替えられていたかのように、新鮮で甘い香りを放っていました。
それに、机の上にはリリアからの贈り物の刺繍入りのハンカチや、香水、街で評判のお店の焼き菓子が、所狭しと置かれていました。
そして、それらの贈り物には、全てリリアの手紙が添えられていたのでした。
それらは全てリリアが、テオに歩み寄ろうと努力した痕跡でした。
テオは改めてこれまでの事を思い返してみました。
自分はこんな風にリリアに贈り物をあげた事があっただろうか。
自分はリリアの話を聞いてあげた事があっただろうか‥。
リリアはたまに言う文句の他は、まあまあ僕に従順だった気もした‥‥。
リリアは僕が不在の中でも、社交の場できちんと公爵夫人としての役割を果たしていたし、人付き合いが苦手だと言いながらも、僕の母の知り合いやそのお嬢さんを招いてお茶会も開催していたらしいし‥‥。
それに夜会へも、リリアは僕のエスコートがないままでも自身の家族にエスコートしてもらって顔を出していたと聞いた。
これらの事を、僕は忌々しい気持ちで聞き流していたが、リリアが彼女なりに公爵夫人として頑張っていたという事は認めざるを得ないな。
テオは、屋敷内に微かに漂う爽やかな香りを嗅いだせいか、今はとても穏やかな気持ちになっていました。公爵邸に帰って来る前に、リリアに対して殺したい程怒っていたのが嘘のように‥‥。
今ならリリアと素直に向き合える、そんな気持ちになっていたのでした。




