1、婚約の申し込み
まわりを森で囲まれた小さな王国、バチアン王国には様々な妖精や精霊の伝説が息づいていました。
特に王様は、妖精や精霊の存在をこよなく愛していました。その為、先祖代々妖精や精霊が見えたり話したりできるフェンネル侯爵家の令嬢リリアのもとには婚約の申し出が後を断ちませんでした。
貴族達は皆、リリアと結婚して子供にその能力をひきつがせたかったのです。
それに、リリアはその姿も美しく、銀色の髪や黄金の瞳も神秘的でしたので、単純にその姿に一目惚れして、求婚をするものも多かったようです。
そんなリリアのもとに、キュリオス公爵家の長男テオから婚約の申し込みがきました。
「リリア、テオ様との婚約話が来たよ。‥こんな大貴族からの婚約の申し出‥家からは断れないよ。‥」
「‥お父様、そのテオ様ってまさかあの‥。」
「‥ああ、あのテオ様だ。」
「‥‥。」
公爵家の長男テオ、彼はある未亡人に熱を上げている事で有名な男でした。
ある未亡人‥それはラナウェル伯爵夫人ベラの事です。彼女は、歳の離れたラナウェル伯爵に若くして嫁いだ美貌の女性でした。
16歳で伯爵家へ嫁ぎ、わずか3年後に伯爵とは死別しましたがお子はおりませんでした。その為、伯爵の財産を全て継いで悠々自適な生活を送りながら、美しい愛人達との自由恋愛を楽しんでおりました。
そんなベラに人一倍お金や様々な宝石を貢いでいたのが、公爵家長男のテオ様だったのです。
彼はベラよりも1歳歳下の18歳でしたが、ベラに夜会で誘惑されて恋に落ちて以降、どの女性との婚約話もずっと断ってきたのです。
それが、なぜか突然リリアのもとへ本人自ら結婚を申し込みに来たと言うのです。リリアが訝しむのも無理はありません。
「‥お父様、私が直接彼の話を聞いてきましょう。」
「‥リリア、私がついて行こう。」
「お父様、大丈夫です。私一人で行った方が、相手も本心を言いやすいでしょうし。」
「‥分かった。」
リリアは父にそう言うと、善は急げとばかりにすぐさまキュリオス公爵家へと向かいました。
リリアが公爵邸へ着くと、約束なしでの訪問を咎められはしましたが、急ぎの用だから‥と主張した事と、婚約話の返事をしにきた事を伝えると、すぐに応接間へと通して貰えました。
応接間で待つ事一時間、勿体ぶったように現れたテオ様に、リリアは当然の訪問の無礼を真っ先にお詫びしました。
内心は『どうせ暇なんでしょ。わざと私を待たせて嫌がらせをしてくるなんて、最低ね。』などと毒づいていましたが‥。
「リリア嬢、よく来てくれたね。‥それで‥勿論、婚約を承諾してくれるとの返事をしに来てくれたんだろう?」
リリアは、一瞬耳を疑いました。
『‥‥この人は、なんて自惚れているのかしら?絶対に断られる事なんてないって自信満々でいるのね‥。』
リリアは、なんて答えようかとしばらく考えこんでしまいました。
一方のテオは、突然訪問してきたリリアの事をじっくりと観察する事にしました。
リリアは巷での噂通り、大変美しい女性でした。‥ただ14歳のリリアの体型は、まだ成熟しておらず、テオには物足りない感じがしました。
それに‥リリアの顔は表情も乏しく、立ち居振る舞いにしても優雅さはあるものの、色気や可愛らしさは乏しく、テオにはあまり魅力的には思えませんでした。
テオは‥‥
『‥‥この女がリリアか。‥ベラに比べたら大した事ないな。‥まあ、リリアなんて、どうせお飾りにしておくだけだし、どうでも良いや。それでも‥リリアと結婚しておけば、まわりは羨ましがるだろうし、両親への親孝行にもなるからな‥。
‥それにしても、リリアが美しいと巷では言われているが、ベラの美しさや魅力の前では大した事はないな。
やっぱりベラが最高だ!‥両親の反対さえなければベラと結婚するのに。
‥‥ベラが僕との結婚に渋っているのも、きっと両親が僕とベラの結婚を反対してるせいなんだ。
ああ、ベラ。どうすれば君を僕だけのものにできるのだろう‥。』
テオはベラへの思いを募らせているのでした。




