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3/6

元氏の虐殺

延宗から、皇帝の不審な動きを聞いていた長恭であったが、その影響を恐れて、口止めしていた。しかし、ついに恐れていたことが起こってしまうのだった。

七月になり立秋も近いというのに、地面を焼くような暑さが続いていた。

この年は、黄河上流で大雨が降ったため、青州、斉州で黄河が氾濫(はんらん)甚大(じんだい)な洪水の被害が出た。長恭は几案(きあん)に座り、先日敬徳と話し合った救済策の上奏文の文面を考えていた。


その時だった、同じ散騎侍郎である廬思道(ろしどう)が、慌てた様子で書房に入ってきた。

「長恭、たっ大変だ」 

廬思道は、大きな腹を抱えて(はし)ってきたが、呼吸を整えると長恭の耳に顔を寄せて囁いた。

「元一族が、・・・皆殺しだ」 

長恭は、一瞬身体が固まった。いきなり心の臓を掴まれたような衝撃を覚えた。

長恭は、数か月前に聞いた延宗の言葉を思い出した。

『元氏が、皆殺しになるかも知れない』

今上帝高洋と元韻(げんいん)の話を延宗がたまたま耳にしてしまったのだ。光武帝が、後漢を再興できた訳を訊かれた元韻が、『皆殺し』をしなかったせいだと言っていたという話なのである。

延宗が、元氏の皆殺しを心配して知らせてきたのである。長恭は、まさかという思いと、漏らしたときの罪の大きさにおののき、誰にも打ち明けられずにいたのである。


前王朝の北魏の皇族である元氏の一族は多い。その連枝(れんし)や元氏を賜った者を加えると、数千人に及ぶであろう。今までも、東魏の孝静帝や北魏の孝武帝に連なる元氏を惨殺してきた。しかし、長く北魏を支配してきた元氏は今でも名門であり、六部(りくぶ)の官吏や禁軍の武将として重要な地位に就いている者も少なくなかった。 

延宗に陛下の言葉を聞かされた長恭であったが、元氏の族滅(ぞくめつ)など想像することができなかったのである。


「長恭、元氏が皆、東市に引き出されて、殺されているのだ。女子も子供もだ」

「ま、まさか。・・・子供もですか?」 

すでに未の刻(午後二時から午後四時ごろ)になっている。刑の執行は、太陽が中天に至った(うま)の刻(正午)から始めるのが習わしであった。すでに終わっているに違いない。

「遣いに行った宦官によると、まだ、続いているらしい」

廬思道(ろしどう)の言葉が、衝撃に追い打ちを掛けた。長恭の筆を持つ手が震え、書き途中であった献策文(けんさくぶん)の料紙に、黒い染みを作った。

『陛下は、最後の一人まで殺すつもりなのか』 

鮮卑族(せんぴぞく)も漢族も、一族の繋がりを大切にする。社稷(しゃしょく)を守り、命脈(めいみゃく)を繋ぐことが何より重大であるとされていた。かつて、君主として仕えていた元氏を皆殺しにするとは、・・・王朝の交代に係わる戦闘(せんとう)は世の常とは言えあまりにも狂っている。


長恭は、皇帝を呪う言葉を吐きそうになって、中庭の梅林に出た。すでに、梅の花は散り青い梅の実がたわわに実っている。長恭は、老木に身を寄せると額に手を当てた。

元氏に知人がいない官吏はいない。回廊にも中庭にも蒼い顔色で囁き合う官吏や宦官が垣間見えた。


       ★       ★


長恭は、まだ元氏の処刑を信じられない思いで、侍中府からの帰りに東市にむかって馬車を奔らせた。

東市の刑場は、市の北側に設けられている。申の刻(午後四時ごろから午後六時ごろ)になっても、刑場の周りは、人集(ひとだか)りができていた。


官服で馬車の外に出るのは目立ちすぎる。

長恭は、刑場の手前で馬車を止めさせると、前の扉の窓を僅かに開けて刑場を見た。

生臭い血の匂いが、辺り一帯に漂っている。刑場の台の上は、赤黒く染まり、刑部の下役人が水で流そうとしても、洗い流せないでいた。既に運ばれた後であろうか、遺体は既になくなっていた。

「まったくねえ、女子や子供まで殺さなくてもいいだろうに」

「どこまで、先帝の一族が憎いのか。人のやることか」

刑場に集まった人々は、官兵をはばかって小声で言い合っていた。

長恭の喉から、嘔吐感(おうとかん)が湧き出し、口を抑えた。血生ぐさい戦場なら長恭も経験している。しかし、女子や子供に剣を振ったことは一度もない。その処刑の残虐さにいつの間にか涙が滲んだ。

長恭は静かに窓を閉めると、戚里にある屋敷に馬車を向けた。


『元氏虐殺の予兆を延宗から聞いていたのに、私は何もしなかった』

段韶(だんしょう)などの高官や皇太后に訴い出れば防げたであろうか。危険を伴うが、何人かを平陽公主のように河南に避難させれば、命は助かったかも知れない。

長恭は、悔しさに何度か窓枠を(こぶし)で叩いた。


        ★        ★


星空に掛った月が輝きを増し、長恭が払った剣の刃を冷たく照らした。

『なぜ罪もない者の血が流れるのだ』

長恭は苦悩に唇を歪めて身を翻した。上段に構えた剣を前に向って突くと、剣先を返し思いっきり左右に空を切った。

『なぜ、自分は何も出来なかったのだ』

長恭は、意味のない言葉を吐きながら、闇雲(やみくも)に剣を振っていた。

青蘭は夕餉に呼ぼうとして、剣を振るっている長恭を後苑で見つけたのだ。朝の稽古の剣にはない、感情の奔流(ほんりゅう)に圧倒されて、青蘭は声を掛けることができなかった。

多くの元氏の斬首が行われたことは、青蘭も城内の市に出掛けていた家人から聞いていた。高徳正の死でさえも、自分を責めていた長恭であった。ましてや、五百人以上の元氏の族滅(ぞくめつ)である。

仁愛に満ちた長恭にとっては、同じ高一族の手によって、ただ元族であるというだけで多くの者が斬首されたのは耐えがたい事であろう。

青蘭は月が昇り始めた後苑で続く長恭の剣の稽古を言葉もなく見詰めるだけで、立ち去ることができなかった。


青蘭が、書房に入ると、長恭は蝋燭の灯火の下で書冊を開いていた。

「師兄、(あつもの)を持って来ました」

青蘭が几案の脇に立っても、書冊から顔を離さない。長恭は、表情をなくして書冊の文字を見詰めている。

「師兄、夕餉の時、ほとんど食べていなかったでしょう?」

青蘭は笑顔を作って羹を匙ですくうと、長恭の唇に持っていこうとした。長恭の唇が、匙を避けた。なおも飲ませようと青蘭は匙を動かした。

「いらぬ、余計なことをするな」

怒りを含んだ鋭い言葉と共に、長恭の手が匙を払った。羹の汁が青蘭の顔と衣にかかり、陶磁器(とうじき)の匙が大きな音を立てて床で砕けた。奴婢にでさえ声を荒らげることがなかった長恭が、怒声を挙げて青蘭の手から匙を飛ばしたのである。

「あっ・・・」

青蘭は頬を硬直させ、唇を噛んだ。そして、しばしの沈黙の後青蘭は溜息をついた。長恭の悲しみに寄り添えない自分が悲しかった。

「ここに、置きますので、・・・後で召し上がってください」

青蘭は、(あつもの)の椀を盆に戻すと長恭の側を離れた。


長恭は、几案を離れていこうとする青蘭の背中と見て、我に返った。元氏を皆殺しにした皇帝への怒りを静めるためにした剣の稽古の後、夕餉もほとんど摂らずに書房で読書をしていたのだ。自分の不甲斐なさに怒りをおさめられず、青蘭に当たってしまったのだ。

青は、書房の中央まで行くと背中を見せて屈んだ。薄暗い書房の床で青蘭は、砕けた欠片を拾い集めようとしていたのだ。長恭は何か言おうとして立上がった。

「あっ、痛い」

青蘭の唇から低い叫びがもれた。

青蘭の指に小さな赤い花が咲いたように見えた。部屋の暗さの中で拾おうとした欠片が、指に刺さったのだ。 

「青蘭、大丈夫か」

長恭は慌てて掛け寄り手を取ると、青蘭の顔を見上げた。青蘭は眉を寄せ、目尻には涙が滲んでいる。

「青蘭、すまぬ怪我をさせてしまった」

「いいえ、私こそ余計な事をしたわ」

青蘭は手を引くと、拾い集めた欠片を手に書房を出て行ってしまった。


長恭が居房に追いかけていくと、青蘭が榻に座って、照華から手当を受けていた。

「お嬢様、指に怪我をなさるとは、どうなさったのですか?」

「何でもないのよ・・・」

傷薬を取り出した照華は、長恭の目配せで退出した。

「怪我は、大丈夫か」

長恭が見ると、中指に当てられた布に血が滲んでいる。思いの外深く刺さったようだ。長恭は、青蘭の手を取ると傷薬を塗って、布を巻いた。

「乱暴して・・・君に怪我をさせてしまった」

長恭は、自分の膝の上で手当てをした青蘭の右手の上に左手を重ね、溜息をついた。


「今日、・・・元氏の斬首があったのを知っているか?」

青蘭はびくっとして、横に座る長恭の顔を見た。清美な睫毛が伏せられて、沈鬱(ちんうつ)な影に揺れている。

「五百人以上の元氏が斬首されたのだ。・・・その中には女子や子供もいたという。その者達が何をしたというのか」

この日、正確には、元氏が七百二十一人斬首されたという。しかし、この時点では、長恭は正確な人数は把握していなかった。

「女子や子供まで殺すとは、陛下の()(よう)はあまりにも残酷だわ」

青蘭は、信じられないと言うように、首を振って唇に手を当てた。

『もし、私が延宗の話を知らせていたら』

長恭は掌を膝に置き、肩を落した。

「私は、その予兆(よちょう)を聞いていたのだ。それなのに・・・何もできなかった」

長恭は、(やま)しさで顔を上げることができなかった。しばらくして延宗から聞いた話を青蘭に語って聞かせた。

「延宗の話を聞いても、まさか元氏の皆殺しを実行するとは思わず、私は何もしなかった。もし、元一族に知らせていたら、多くの者が助かったのではないかと後悔している」

長恭は自分が何もしなかったことで、多くの者が斬首されたと自分を責めているのだ。

「私は、自分が許せないのだ。罪無き者を・・・多く死なせてしまった」

青蘭は、長恭の膝に手を伸ばした。

「君は、私を軽蔑(けいべつ)しただろう。・・・顔師父について人の道を学びながら、実際には権力を恐れ、ただ従うのみ。私を(ののし)ってくれ」

長恭は、自嘲(じちょう)ぎみに唇を歪めた。青蘭は横に座る肩に手を置くと、長恭の目を覗き込んだが、長恭は顔を背けた。

「こんな情けない男の顔を、見ないでくれ」

元氏を見殺しにした自分を許せなかった。

「以前、常山王は、陛下を諫めて胸を刺されたわ。先日は、徳正様が、斬首された。もし、師兄が、話を漏らしていたら・・・私たちの命はどうなっていたか。どうして師兄を責めることができるでしょう」

長恭が話を漏らしていたら、高長恭の屋敷の者はもちろん、兄弟達もどんな罪に問われていたか知れない。しかし、長恭は、青蘭の慰めにも首を振った。

「私には、逃げてしまったのだ」

長恭は、頭を抱えた。そうだ、現実から逃げてしまった己に苛立って、青蘭に怒りをぶつけたのだ。

「青蘭、許してくれ。私が悪かった」

長恭は、青蘭の肩を抱き寄せると、頭を付けた。

「青蘭、私は惰弱(だじゃく)だ。・・・私には正しい道理を行う勇気がないのだ。・・・正しきことを行う勇気と力が欲しい」  

青蘭は、長恭の頬に唇を寄せた。

「師兄を信じるわ」

青蘭は、清澄(せいちょう)な長恭の瞳を見上げた。切なげに寄せられた瞳はむしろ妖麗(ようえん)に輝き、青蘭を魅惑(みわく)した。秀でた眉目が魅力的な影を造り、長恭の指が柔らかい青蘭の唇に載せられた。


        ★       ★


八月に入り、青蘭は師父の願之推を訪ねた。

昨年末に奏朝請(そうちょうせい)として出仕した願之推であった。

最初の頃は、高洋も頻繁(ひんぱん)に願之推を召していたが、行動が混迷するに従って願之推の誅言(かんげん)を避けるようになったのである。願之推をもっしても、酷虐(こくぎゃく)の度を深める高洋を留めることはできなかった。

斛律光が汾絳(ふんこう)の戦いから戻り夏を迎えころから、顔之推は病と称ししだいに朝議に出仕しなくなった。


青蘭は、秋の風が吹いてきた頃、病気見舞に願之推を訪れたのである。

青蘭は、顔氏の学堂を離れてからも、『荀子』や『史記』を読み進め、時々顔氏を訪れては教えを受けていたのだ。


青蘭が垂花門(すいかもん)で来訪を告げると、すっかり大人びた元烈(げんれつ)が迎えた。

細い身体で頼りなげに堂外で講義を盗み聞きしていた元烈が、今はすっかり逞しくなり血色もいい。家僕(かぼく)として顔氏に仕えながら、講義にも出席しているという。

顔氏邸が奏朝請になって以来、以前とは比べられないくらい門人が増えている。顔氏の推挙(すいきょ)により任官したい士大夫の子弟(してい)が押しかけてきたからである。また、南朝からは戦乱を逃れて多くの学者が来斉して講義を行っているのも、その名声を高めることになった。


「師父が、四阿(あずまや)でお待ちでございます」

すっかり慣れた様子で、青蘭を後苑に導いた。願之推は後苑の四阿に腰掛け、手簡を書く筆を握っていた。元烈は四阿の外に控え、師父の筆が止まるのを待っている。青蘭も、元烈の後ろで顔氏を待った。

伏し目がちな元烈の横顔は、どこか長恭に似ている。この者もきっと出自(しゅつじ)は、何らか身分のある家柄に違いない。

四阿に木犀(もくせい)の香りを乗せた風が吹き渡り、願之推は顔を上げた。

「師父、王青蘭様がいらっしゃいました」


「おお、大分待たせたようだな。茶を用意せよ」

願之推は、手簡の料紙を折ると、文箱にしまった。

「師父、長らく御無沙汰(ごぶさた)をしておりました。青蘭が御挨拶を申し上げます」

青蘭は、改めて師父への礼をした。

「青蘭よ、婚儀をあげたら、美しさが増したようだな」

邸内で過ごすようになった青蘭は日焼けしていた肌の白さが増し、葵色の外衣がよく似合っている。

「はは、師父がそのような冗談をおっしゃるとは、病はすっかり快癒(かいゆ)されたのですね」

青蘭は、手土産の高麗人参(こうらいにんじん)と菓子を卓の上に置いた。

「快癒された師父には、このような品は、もう不要かと」

「いやいや、せっかくだ貰っておこう。座るがよい」

願之推は、人参の小箱を検めると文箱にしまった。


ほどなく、元烈が茶を運んできた。

「病は、私ではなくこの斉だとは、思わんか。・・・青蘭よ」

願之推は、全ての思いを洗い流したような表情のない顔で茶杯を持つと、青蘭を見た。

「そなたも知っておろう。・・・元氏、七百人以上だ。謀反の疑いのある者を殺し尽くすつもりなのか。・・・(わし)は、何のために斉に来たのか」

顔氏は、眉を寄せながら青蘭に茶を勧めたが、青蘭は元氏斬首の話を思い出し、茶に口を付ける気になれなかった。

願之推は文箱から、日に焼けた料紙を取り出した。

「これが何だと思う?・・・周で左光禄大夫(こうろくだいぶ)樂遜(らくそん)が、皇帝に提出した十四条の意見書の内の五条だ」 

「皇帝に提出した意見書?」

皇帝が忌憚(きたん)のない意見を提出せよとの詔に応じて、提出された意見書であるという。臣下が君主に対して忌憚のない意見を本当に言うことができるのであろうか。青蘭は周の臣下はどのような意見を具申(ぐしん)するのか興味を持って料紙を手にした。

『周の臣下は、このように率直に意見を言うのか』

決して美麗(びれい)な文ではない。しかし、国と民を愁える気持ちがよく分かる。しかし、これを斉で出せば、斬首は免れない。


一 政治は寛大にせよ

二 華美を慎め

三 人事は公開せよ

四 戦いを慎め

五 贅沢を禁じよ


四の『戦いを慎め』では、斉の皇帝高洋を愚昧(ぐまい)とののしり、戦は民の負担を増やすだけであると言っている。そして、国土の保全に努め、徳政のみが民を助けると言い切っている。

樂遜は、字を尊賢(そんけん)といい河東の人である。徐尊明(じょそんめい)に師事し、経書の大義を学んだ。その後、于文泰(うぶんたい)の子供の家庭教師を務め、太学博士、車騎将軍(しゃきしょうぐん)光禄大夫(こうろくだいぶ)を歴任した。

皇帝が、臣下に意見を求め、光禄大夫が正論を提出できる周国の政に驚きを感じた、それと共に、言葉には出せなかったが羨望(せんぼう)も禁じ得なかった。


青蘭は、静かに料紙をたたむと願之推に戻した。

「これを出した樂殿は?」

もしかして、これを出したために死を賜ったのではないか。

「青蘭、安心せよ樂殿は今でも周の太学博士(たいがくはくし)だ」

青蘭は、自分の憂慮(ゆうりょ)杞憂(きゆう)であったことに安堵して何度もうなずいた。この、意見文も何者かによって写された意見文が、密かに周から斉に持ち込まれたのであろう。内容からすると、この五条は斉では禁書(きんしょ)である。持っていることが露見すれば、斬首を免れない。皇族の正室である青蘭に見せたということは、青蘭への信頼の現れであろう。

「周の様子が、少し分かりました。師父にお礼を申します」

「長恭に、他言無用(たごんむよう)じゃ」

何事も話し合おうと約束したのである。しかし、このことは、長恭を苦しめ危機に陥らせよう。 

「分かっております。喋りません」

青蘭は、深く溜息をついた。


「太医によると、・・・陛下の病は(あつ)く、長くないそうだ」

『陛下の命が、長くない?』

青蘭は、思わず右手で卓を抑えた。願之推は、漢人官吏の強力な情報網を持っている。それは、太医局にも及んでいるのであろう。

「陛下が、病とは知りませんでした」

青蘭は、極秘の情報に表情を硬くした。

「必ず、朝廷にも変化がある。長恭が無茶な行動に出ぬように・・・」

顔氏は、長恭が正義感に駆られて高徳正の二の舞になることを危惧(きぐ)していたのだ。

「師父のお言葉、肝に命じます」


その後、一刻ばかり『荀子』の教えを受けると、青蘭は顔氏邸を退出した。

『斉の国は、動こうとしている。きっと長恭様の活躍できる時が来るであろう』

青蘭は、そう確信しながら屋敷へ向かった。


元氏の虐殺に何もできなかった自分を責める長恭は、正しい道を行ける勇気が欲しいと話す。しかし、顔之推から、今上帝高洋の命が長くないことを知らされた青蘭は、長恭の自重を言い渡される。

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