お父様はゴリ…筋肉質
我が家のボスは…
「お、お父様!危ないです!下ろしてください、今すぐ…!」
お父様は私の反応が楽しそうにハハハッと笑っています。お母様達も然程驚いていません。何故です⁉︎私はこんなにも驚いて混乱いますのに!自分がさっきまで足をついていたはずの床がとても遠く感じるくらいには高いのです。高所恐怖症だったら号泣ものです!私は違いますけど少しクラクラしてきました。
「大丈夫、娘2人くらい持ち上げられるよ。」
自慢げに、そして少し誇らしげにお父様は言います。確かに先程から安定はしていますが。不安です。と〜っても不安です。家で動いている姿など見たことがありません。だから娘2人を両腕に抱えていられるほどの腕力があるとも思えません。よっていくらお父様に安心しろと言われても、不安要素しかないのですから安心しようがありません!私の眉は下がりっぱなしです。妹は当たり前ですが何も感じていないようです。貴方は今、危険に晒されているのですよ〜!と伝えてあげたいですが意味を成しませんし。公爵、第2児誕生で興奮のあまり抱っこしていた娘2人を落とし大怪我を!という記事が出回るのがパッと浮かんだ時にはブルブルッと震え上がりました。これは何としても回避しなければなりません。お父様のために、家のために、私と妹のために‼︎と、私が動き出す前にお母様に宥められました。
「まだこのぐらい序の口だから平気ですよ、フィオ。」
何処か諦めているような声でもありました。お母様、何が序の口なのです?娘達が今、危険な状況に陥っているのですよ!いつ落とされてもおかしくない状況です。シェリーはというと呆れたように首を横に振っています。
「お嬢様がお生まれになられた時なんて、片手に生まれたての
お嬢様を。もう片方の手には奥様を抱き上げたんですから。」
その時に比べれば比でもないですよ…それにあの後は。とシェリーは付け足し、その時の様子を思い出したのか頭を抱えていました。使用人達も何処か遠くを眺め始めました。一体その後に何があったのでしょう。知りたいようで知りたくありません。でもお父様がと〜っても危ないことをしていたことだけは分かりました。今よりも酷いではないですか。私はお父様の顔を見上げ
「お父様…?」
訝しげに名を呼びました。至近距離でたらりと汗を流してことを私は見逃しませんでしたよ⁇
「仕方ないじゃないか。嬉しかったんだから。」
お父様は少し拗ねたように言いました。それは私も今日、実感しましたが、あまりにも。…でもむしろ娘2人とお母様を抱き上げなかった今の状況に感謝、感謝です。お父様、実は男らしい力強い方でしたのね。見た目は紳士的なのに。さっきは力がなさそうでと思ってごめんなさい。反省してます。
「でもあの時、あんなにアメリに叱られるとは思わなかったな…。」
お父様は苦虫を噛み潰したような顔になりました。とことん怒られたのですね。昨夜も怒られていましたけれども。お母様は仕方ないでしょう?と言っています。確かにそんな危険なことをやってしまったのならば仕方ないですね。私もお母様の言葉に頷きました。そんなお父様には反省をしてもらわなければなりませんよね。お父様はしょぼんと肩を竦めました。うっ!ちょっと可哀想に見えてきました。お父様の気持ちは分からなくもありませんから。私が慰めようとした時、そこに珍しくシェリーが横槍を入れてきたのです。その瞳には怪しい光が灯っていました。ブルブルッと体を思わず震わせてしまいます。最後のとどめとでも言うように追い討ちをかけるのです。シェリーがあの瞳をする時はとっっても怖いんです。きっとろくでもないことが起こる予兆のようなものです。何度それの餌食になったことか…。
「あの時の奥様を諌めるのには骨を折りました。ええ、それはもうボッキボキに。」
体を支える骨が粉々になってヘナヘナになってしまうほどに。言葉の端々に悪意を感じます。チクチクな棘が生えてます。嗚呼、シェリーが頭を抱えていたのはお母様を宥めることに対してだったのですね。そしてその怒りはその元凶のお父様に向けられてしまっているのですね。お父様は申し訳無さそうにしました。そうするとお父様が何を抱えようとも誰も驚きはしないし気にしないということでしょうか。と同時にお父様を止める人もいないと…。やはり私がしっかりしなくては。このフィオリア、お父様の有能なストッパーとなって見せましょう。そんな決意を私は心の中で固めていたりしたのです。お父様の恨めしげな顔を向けられお母様は困ったように笑いました。
「いくらウィル様でも危ないと思いましたから。それに愛しいこの子を傷つけたくありませんでしたし。」
あ、お母様はちゃんと限度というものが分かっておられたのですね。でも今回は危険と判断しなかった…お母様の感覚もお父様のお陰で狂い始めてしまっているということでしょうか。…これは由々しき事態ですね。ふ〜む。1人で悶々と考えていましたがふと気がつきました。温厚なお母様が一度怒って仕舞えば収集がつかないということに。頭にちゃんと記憶しておきます。メモメモ。確かに片手に私、もう片方にお母様という状態に比べればこんなの序の口ですね。私は漸く安心してお父様に身を任せます。あれ…?これって私も感覚がおかしくなってしまっているのでは?私はふるふると頭を横に振りました。きっと気のせいです。私はあくまでこれまでの過去のデータからお父様に私たちを抱える力があると考えただけです。決して感覚が狂い始めたわけでは…。まあ、こうして我がマクガレッジ公爵家はほんわかとした穏やかな空間となりました。そして、それを機にふとした疑問をお母様たちにぶつけてみました。それが地雷だとはつゆ知らず…。子供の無邪気さとは恐ろしいものです。もはや脅威です。
「ところでお父様、お母様。この子の名はどうするのですか?
いつまでもこの子、あの子、妹では示しがつかないのですが。」
その瞬間、ピシリと一気に空気が固まりました。はて?
お母様、全面降伏いたします。