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お父様のご帰宅

〜お父様と妹の熱いバトル〜

勝敗はいかに⁈


その日の夜、お父様は馬をとばして帰ってきました。本当は仕事も今日はお休みしたかったらしいのですが、お母様に3時間弱ほどのお説教を頂いたそうです。それでも諦めないお父様を今朝、わざわざ王城から使者様が引っ張って出勤させていました。王様に全てお見通しだったそうな。因みにお父様はこのレイフォード王国の宰相なのです。とてもすごいんです。私の自慢のお父様です。王様とも昔から親交があって仲が良いのでお互いのことは何でも分かるそうですよ。だからお父様が子供のためにと仕事を二の次にしてしまうのも簡単に予想をつけて昨日のうちからお父様を連れて行く根回しはされていたのだと使者様が言っておられました。その仲が今回、こんな悲劇を呼んだのだと嘆きながらお父様は引き摺られて行きました。「アイツと関わらなければ良かったと今は本気で悔やんでいるよ!」という捨て台詞を言いながら。お父様、冗談ですよね?本気ならいつか不敬罪で牢にサヨナラですよ!と私は内心焦ったものです。だからお父様は少しでも新しい自分の子に早く会えるようにといつもの百倍近くのスピードを馬車に出させたそうです。危ないし馬が可哀想なので私としては控えて欲しいです。妹に会いたいばかりに淑女としては、はしたなく廊下を走ってしまった私が言えたことではないのですが…。はい。だから面と向かっては言いません。面と向かっては。そんな若干汗をかきながらご帰宅したお父様を私とお母様とシェリーでお出迎えです。その他の使用人の方々も綺麗に整列しています。流石にお母様は産後まもないので車椅子に座っていましたが。もちろんその腕の中にはお父様待望の妹がいます。そして全員で声を揃えて

「お帰りなさいませ。」

と言い、軽くお辞儀をする。シェリーは速やかにお父様に近づき鞄を預かります。お父様も預ける時に必ずお礼を言います。この一連の動きはこの家の毎日の恒例です。朝も挨拶を変えるだけで同じことをやります。きっと後数年経てば妹もこれに参加ができるでしょう。その時は絶対にお父様は身悶えて仕事に行きたくないと愚図ってしまうでしょう。そして家族みんなでお父様を見送るのです。嗚呼、そんな未来が容易に想像できてしまいます。でもそう思うだけで顔が緩みます。なんて幸せな、贅沢な未来なのでしょう。これからが楽しみで1人ふふっと笑ってしまいました。お父様はさり気なく額に浮かんでいた汗を拭い、当主らしい態度で私達の元に足を進めます。

「ただいま。愛しい家族。そして初めまして、新たな家族の一員…!」

はい、お父様のカッコイイ大人な対応もプツリと終わりました。

ここまでの挨拶までは大変、素晴らしかったのですが、残念です。かっこよく言葉を紡いで、流石宰相といった感じでしたのに。きっと我が子の前でかっこつけたかったのでしょう。その試みも一撃必殺、“存在だけで可愛い”を妹は炸裂させました。お父様には効果抜群。効果絶大、完全ノックアウトです!勝者、妹!です。特に何もしてませんが…。お母様が妹をお父様の腕に預けた瞬間、凛々しい顔つきが一転し、デレデレになってしまいました。そう、まるでアイスが日光にガンガン当たって溶けてしまうかの様にです。この勢いだと頬ずりを始めてしまいそうです。 なんて残念なお父様。でも使用人たちはその様子になんの抵抗もなさげに微笑んでいます。あ、因みに使用人たちはもうお父様の一足先に妹を愛でていました。仕事をしているお父様より先に…という引け目を感じている様子も一切なく、それはもう可愛がっていましたよ。結果的にお父様が最後というわけです。そんな真実を言ったら可哀想なのでお墓まで持っていきます。以上、解説フィオリア・マクガレッジがお送りしました。

「嗚呼、なんて可愛らしいんだ!きっと、将来は別嬪になるぞ。」

お父様、興奮し過ぎです。お母様はクスクスと手を口元に添えながら笑っていました。屋敷の人達も微笑ましそうに私達を見守っています。その待ちに待っていた様子が幸せで、嬉しいはずなのに何故か胸がモヤモヤして、チクリと痛むのです。…前までは私が今の妹の立場だったのに。嗚呼、私はあの子の立場が羨ましいのですね。前までは自分があの立場だったのにと思わずにはいられないのです。これが姉になるということなのでしょう。甘えてばかりなのではなく、私が我慢をしなければいけないのです。少し、寂しい気がしました。でもこれが姉としての役割なのです、きっと。お母様はお父様から視線を外し、私に目を向けました。私はお母様と目が合うとドキリとして肩を跳ねさせました。またお母様に全て見透かされそうで怖いのです。こんなワガママな私に気づかないでください…。でも私の心配をよそにお母様は目元を綻ばせました。

「貴方が産まれた時と全く同じ反応なのよ。その場面をもう一度見ているようで…。」

お母様、声を出して笑わないようにするのに必死です。また心を読まれてしまったようでした。でもさりげなく慰めてくれているのです。お父様と妹をもう一度、見上げました。優しく微笑み、愛をめいいっぱいに注いでいるお父様とそれを向けられているあの子の姿。私も同じだったなら…それにあんなにも愛らしい妹なら仕方のない事かもしれません。私だって将来、妹に甘々になる未来が見えます。私はこの4年間で溢れるくらいの愛情を受けましたから。もう…十分です。なんだかそう思うともやが除れてスッと納得ができた気がしました。もうちょっと甘えていたい気もしますが。沢山の愛情を受けるのはあの子の番です。

「どれだけ家族が増えようともお嬢様への愛情は変わりませんよ。奥様も旦那様も…そして

私達も。そうですよね、アメリア様。」

横からシェリーが優しく笑いながらお母様に語りかけます。

お母様も当たり前だと言うようにそれに大きく頷きました。屋敷の人達も同調するように頷いてくれます。嗚呼、私は自分が思っていた以上に優しい人達に囲まれていたのですね…。鼻がツンとして、この家の者たち全員が大好きだと改めて感じました。

「当たり前でしょう。どんなに時が経ってしまっても愛しい我が子である事に代わりはないのですから。」

お父様譲りの白銀の髪の毛をお母様は優しく梳いてくれます。それがとても心地よく頭を預けました。すると妹を愛で続けていたお父様も近づいてきました。そしてわざわざ長い足を折り曲げて目線を合わせてくれます。その優しい瞳で私に語りかけました。

「何も変わりはしないよ。同じように愛する人が増えただけの話だ。誰かへの愛だけが増して誰かへの愛だけが減ったりは決してしないよ。」

慰めるようでいて何処か宣言するような声音でした。それを聞いただけで涙腺が崩壊してしまいそうになります。やはりここの人たちは優しすぎる…。そう思いながらお母様、お父様、そして使用人たちにコクリコクリと頷いて見せます。とても心が温かくなりました。

どうやら家族みんなに私の不安はバレてしまっていたようです。恥ずかしい。でもこの温かさが嬉しくて、心地よいのです。お父様は私の頷きを確認すると顔を綻ばせました。

そして…妹を片手で支え、もう片方の手で私を持ち上げました。その突然の自身が宙に浮くという事態に私は慌てふためき、先程浮かんでいた涙も目の奥に引っ込んでしまいました。

圧倒的勝者,妹


今日もマクガレッジ家は和やかです。

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