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誕生

フワリと優しく微笑んだお母様に呼ばれました。その額にはまだ汗が滲んでいましたが元気そうで何よりです。私は少し駆け足でベットの側まで向かい、労わいの言葉をかけます。

「お母様、お疲れ様でした。…あの、その。」

モジモジと視線をお母様の腕に抱えられている何かと自分の手の間で視線を彷徨わせて口淀みました。もう、その存在が気になって仕方ありません。

「元気な女の子ですよ。」

お母様がその様子だけで全てを察して言ってくれました。私の様子を少し面白がって笑っていたお母様の顔なんて私には見えませんとも。はい。お母様は私に赤ちゃんが見えやすくなるように近づけてくれました。あどけなく、まだ生まれたての可愛らしい子が確かにお母様の腕の中にあります。こんなに小さな子の一体、どこから先ほどのような大きな声が出てくるのでしょうか。小さなほっぺたをつついてみるとくすぐったそうにしました。ちゃんと温かかったたです。どんなに小さな体にも暖かな命の炎が灯っているのだと実感した瞬間でした。女の子…この子が新しい家族。私の妹。顔が緩むのが自分でも分かります。言葉では言い表しようのないこう、温かなものが胸に湧いてくるのです。妹とはこんなにも無条件に愛情が湧いてくるものなのでしょうか。

「あなたの妹よ。新しい家族を後で盛大に歓迎しましょうね。」

お母様はニコリと私に笑いかけました。私はまだ妹に気をとられていてコクコクと頷くことしか出来ません。さっきの不安も何処へやら、です。精一杯、この子の誕生を祝おう。

これからの日々が楽しみすぎて、胸が痛いくらいです。

「穴が空くほど見なくとも、赤ちゃんは逃げませんよ。」

シェリーが可笑しそうに笑っています。ハッ!確かにこのまま見ていては私の目からビームが出て妹に穴を開けてしまうかも…!って、そんなわけないじゃないですか‼︎私はキッとシェリーをにらんでみました。でも蛇に睨まれたよう…とはいかず、ただ笑みを深めさせてしまうだけでした。反省、反省です。お母様の肩が揺れているように見えるのは気のせいではないでしょう。だから今度は拗ねて見せました。下唇を突き出して最後の抵抗です。さぁ、どうですか⁈

「そんな事は分かっていますが…気になるんですもの。」

お母様もシェリーもとうとう声を上げて笑い出してしまいました。拗ねるのは逆効果だったようです。う〜。難しいです、反撃とは。奥が深いです。お母様は笑いを納め一旦、シェリーに赤ちゃんを預けました。必然的に私の視線もシェリーへと移動します。その様子がおかしいのか、二人ともまた笑みを浮かべていました。お母様は手を伸ばし私の頭を撫でてくれます。久しぶりに撫でられた気がします。とても心地よいです。

「フィオ、大丈夫だからね。安心して。これからの毎日は今までとは比べ物にならないくらい素敵になるわ。」

安心させるように優しい言葉をかけられます。頭を撫でていた手が頰へと下されました。目を細め、切なげに私を捉えるお母様の瞳。丁度さっき叩いた所で手は止まり指で優しくなぞられました。やはり、気づかれていました。お母様には隠し事ができません。私の心の動きに気づいて心配してくれているのでしょう。でも、もう平気です。不安など微塵もこのフィオにはありません。この子を見たらあんな不安もなくなってしまったのですから。今私の中にあるのは

「はい。楽しみです。」

この子との輝かしい未来への期待だけなのです。その主を伝えるため微笑みを浮かべながらハッキリと答えます。嘘偽りのない、心の底からの言葉で。だから心配しないでください。それに全てお見通しのお母様が言うのだからきっと本当にそんな未来はくるのでしょう。お母様は少し驚いたように目を瞬き、そしてすぐに

「その分、大変になるけどね。」

と言っていたずらっ子のように言いました。私もつられて笑います。赤ちゃんとは今まで縁がなく未知の生物のような存在でした。でもこの子の存在を教えてもらってからは色んな人に聞いて教えてもらいました。生まれてくるこの子の良き姉になれるように。それ一心に。今ではそれなりの知識を持っているつもりです。赤ちゃんの生態を知っているからこそこの子のお世話がいかに大変かがわかります。一筋縄ではいかないことも、とても苦労をすることも分かっています。それでも不思議とこの子と未来を共にしたい、そう思えたのです。この子を守りたいと。

「あの子の為の苦労なら喜んで受け入れます。」

この気持ちが強い今、しっかりとお母様の目を見て決意表明をしました。どんなに大変でもこの子のためと思えばどうってことないように思えてしまうのです。あの子の尊敬に値する姉になるために、どんな努力も惜しみません。きっとそれも幸せだと思うのです。お母様は嬉しそうに、そして安心したように顔を綻ばせていました。その時のお母様の顔がいつもより病的に青白く、痩せているように見えたのはきっと、出産の後だったからでしょう。こうしてマクガレッジ家の騒々しい昼下がりは過ぎていったのです。

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