妹の
「オンギャー!」
甲高い、耳を劈くような叫び声が屋敷に響き渡る。
それが新しい命の誕生であり、とても微笑ましいことが分かっていても余りの声の
大きさに耐えられなかった少女が一人。思わず、といったように耳を塞いでしまっていた。
地面が揺れているのではないかと錯覚するほどだったのである。普通なら大混乱だ。
しかし、少女はあらかじめ両親からこの叫び声の正体が何なのかを伝えられていたため
直ぐに手を下ろし、目を輝かせた。そしてパタパタと可愛らしい足音をさせながら母の部屋へと急いだ。自分の弟妹が生まれたのだと確信し、爛々と目を輝かせ、胸を躍らせながら。
屋敷の中を走るのは淑女としてはしたないと分かっていますが、嬉しさで胸がいっぱいでかけ足を止められません。早く、会いたい。私の愛おしい弟妹に。何度も侍女とすれ違ったけれど怒られたりはせず、スムーズにお母様の部屋まで来ることができました。そればかりか使用人たちは私のその様子を見て、柔らかく笑い、目元を綻ばせていました。使用人たちの懐の広さ?には感謝、感謝です。そこまでの距離はないはずなのに今日はとてもお母様の部屋までの道のりがとても遠く感じられました。肩で息をしながらとうとうたどり着いたドアを見つめます。このドアの先にお母様と妹か弟がいます。早くノックをして、声をかけようと手を上げました。しかし、さっと嫌なものが頭を過ぎるのです。突然、背中にゾワッと寒気を感じて、体の中にある“何か”が「やめなさい」と告げているかのような。さっきまで嬉しいと思っていたのに何故か急に緊張が走ったのです。そして私はふと思ってたのです。私たち家族はその子が加わることでどう変化してしまうのだろう…と。今の生活と違う生活はどんなものなのでしょうか。楽しいのでしょうか。今までにないこともきっといっぱいあるのでしょうか。今までなかったこと??それってどんな風なのでしょう。新しくなることは新鮮で楽しいことだけれどそこには古いものを捨てる勇気と怖さがあるなんて。何度も見上げて、ノックをしたドアがグングングングン大きくなって、私を脅かすのです。ノックをする手が…震えます。大丈夫…。自分を落ち着かせるためにギュウと手を握ります。今までよりもっとステキな毎日になる筈です。何を戸惑っているのですか。恐ることなどないはずでしょう。気合いを入れ直さなければ…ペチンと頰を叩きます。勢いが良すぎて少し強く叩きすぎました…痛いです。頰がヒリヒリします。きっと少し赤くなってしまっています。嗚呼、お母様に気づかれませんように。無駄な心配はかけたくありませんもの。半ば祈るような気持ちで深く息を吸いました。不思議と先ほどよりもドアが小さくなっているように見えます。心を決めてドアをノックしました。
「お母様、フィオリアです。」
声が少し、上ずってしまったけれど大丈夫でしょうか。変に思われていないといいのですが。ちょっと不安です。返事より先に誰かの足音が聞こえてきてドアが開いきました。
「お嬢様、お入り下さい。奥様もひと段落ついたので。」
お母様付きのメイドのシェリーです。年はお母様より3つ位上のはずです。
全然、そうは見えませんが…。童顔、というものでしょう。でも本人が気にしていることのようなのであまり言わないようにしています。あとが怖いので。それよりシェリーの声がいつもより低いように感じるのは気のせいでしょうか。う〜ん、でも疲れてしまっているだけかも知れませんし。いつも通りの笑顔ですし…取り敢えず私はお母様の姿を探します。お母様はベットに腰掛けている状態でした。目が合うと手招きをされます。
「いらっしゃい、フィオ。」